ノーボーダー・スポーツ/記事サムネイル

「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(508) パラサイクリング日本代表、パリパラリンピックへ抱負。「実現できない目標ではない」

パリパラリンピックの自転車競技、パラサイクリングに出場する日本代表4選手が7月23日、都内で記者会見を行い、8月28日に開幕する大舞台に向け、意気込みなどを語りました。パラサイクリングはトラック種目が8月29日から9月1日まで、ロード種目は9月4日から6日まで行われます。

会見ではまず、沼部早紀子ヘッドコーチ(HC)がチーム目標として、「トラックとロード両種目でのメダル獲得と4選手全員の8位入賞」を発表。世界のレベルアップも顕著な近年では、「挑戦的な高い目標だが、選手が力を100%発揮できれば、実現できない目標ではない」と力強く話しました。選手たちは皆、ここ数年で国際経験や実績を積み重ね、「世界のトップレベルで戦うことに対する自信を身に着け、気持ちの部分でもレベルアップしている。チーム一丸で頑張りたい」と力を込めました。

パリパラリンピックに向け、活躍を誓うパラサイクリングの日本代表選手たち。左から、沼部早紀子ヘッドコーチ、杉浦佳子選手、川本翔太選手、藤田征樹選手、木村和平選手

■選手それぞれが目標新たに

メダルの期待筆頭は女子C3クラス(運動機能障害)の杉浦佳子選手(総合メディカル)です。初出場だった東京パラリンピックではロード種目で二冠の活躍。50歳(当時)での金メダル獲得は日本人選手過去最年長記録でした。パリ大会ではトラックとロードで5種目にエントリーし、53歳で2大会連続のメダル獲得を目指します。金メダルなら、「最年長記録」を自ら塗り替えることになります。

杉浦選手はとくに、「東京では取れなかったトラックでのメダルを目標にしたい」と意気込みます。昨年の世界選手権(グラスゴー)で二冠に輝き、自信も深めています。とくに競技初日に行われるトラック種目の3000m個人パシュート(C3)に注目です。

もちろん、後半のロード種目でも連覇が期待されます。右手足にまひがある杉浦選手ですが、トラック種目強化のためのスピードトレーニングや筋トレの相乗効果でロードでの強さにも磨きがかかっているそうです。もともと上り坂に強く、ロングスパートで逃げる展開が持ち味でしたが、徹底的なフィジカル強化によってバイクジャージのサイズが大きくなるほど脚筋力が増しています。おかげで競り合いでのスプリント力にも自信をつかみ、戦い方の幅も広がっていると、沼部HCも話します。

杉浦選手はレースプランについて、「積極的にアタックをかけていきたい。上り勾配で私が仕掛けるのは皆、警戒していると思うので、意表をついたところで掛けられたら」と話しました。

50歳を超え、フィジカル面でもさらに進化しているという杉浦選手(右)。「パリでは体調管理がカギ」。隣は、沼部ヘッドコーチ

3大会連続出場となる男子C2(同)の川本翔太選手(大和産業)も5種目に出場予定です。「リオと東京で(メダルを逃し)悔しい思いをしているので、パリでは3000m個人パシュートで金メダルを取って帰りたい」と意気込みます。

トラックではここ数年、表彰台の常連となっている川本選手。右脚1本でペダルをこぎますが、力強く美しいフォームには定評があります。東京大会後に一新させた競技用自転車との一体感が増し、「一つになって走れている感覚がある」と手応えを語ります。スタート後、すぐにトップスピードに上げられる脚力もあり、「そのままスピードをキープして走るところを見てほしい」と自信を示しました。

5大会連続出場のベテランでパラリンピックメダリストの藤田征樹選手(藤建設)は4種目にエントリーしています。「多くの人の支えへの感謝の想いも心に留めながら、表彰台にチャレンジしたい」と大舞台を見据えます。

とくに、「ロードは大切にしている種目」と言い、北京大会から3大会連続メダル獲得の個人ロードタイムトライアルで、表彰台復帰を目指します。そのために、エアロダイナミクスを取り入れ、個人的に風洞試験も受けて試行錯誤するなど空気抵抗の少ないフォームづくりに努めてきたそうです。両脚切断の藤田選手は特注の義足をつけてペダルをこぎますが、義足の形状やこぎ方を含めた体の動きなど細かい部分まで見直し、「空気抵抗を低減させ、風を切るフォームに改善できた」と手応えを口にします。

昨年12月には個人的にパリのロードコースも試走したそうです。多少の起伏と路面の粗さを感じたそうですが、コース特性よりはむしろ、選手の動きや展開によって「厳しさが生まれてくるコース」だと感じたそうです。レース中に勝負どころを見極める必要がありまますが、「怖いと思う反面、楽しみの部分でもある」。豊富なレース経験を存分に活かした走りに期待です。

それぞれの目標達成を誓う選手たち。左から、川本選手、藤田選手、木村選手

■パイロットと一心同体、タンデム自転車で世界に挑む

唯一の初出場となる木村和平選手(楽天ソシオビジネス)はMB(視覚障害)クラスの選手です。一人では走れないため、二人乗りのタンデム自転車を使い、前座席で舵を担う青眼者のパイロットとペアを組んで競います。ちなみに木村選手のように後ろに乗る選手はストーカーと呼ばれます。

通っていた視覚支援学校で行われた体験会でタンデム自転車に出会い、2017年頃から本格的に競技として取り組むようになりました。「パラリンピックは競技を始めて以来、ずっと夢として思い描いてきた舞台。これまで多くのパイロットに乗っていただいて競技が続けてこられた。皆さんに感謝しながら、パリ大会を楽しみたい」と、ようやくつかんだ夢舞台に思いを馳せました。

タンデム自転車を乗りこなすにはパイロットとストーカーとの息の合ったチームワークが欠かせません。とはいえ、「時速70kmくらいになり、強い重力も感じて、やっぱり怖い」と木村選手は明かします。この恐怖心と戦いながら、ストーカーはパイロットのハンドル操作を邪魔しないよう最適なポジションで体を固めてこぎ続けなければなりません。変に動くと落車など事故につながりかねないからです。

パリ大会では2022年からペアを組む三浦生誠パイロットと走ります。三浦選手は現在、日本競輪選手養成所でトレーニングを積む候補生でもありますが、木村選手とは合宿などで可能な限り時間をともにし、チームワークを磨いてきました。

「2人で話し合いながら、最適なポジションや走り方を作り上げてきた」と木村選手は振り返ります。1回走るごとに、木村選手が何に恐怖を感じたのか、三浦パイロットがどこで操作性の悪さを感じたのかなどをすり合わせ、修正を重ねてきたそうです。「ストーカーの僕が、『ただ乗ってるだけ』に見えたら、たぶん最高の走りなんだと思う」。

パリ大会では4種目に出場予定ですが、とくにトラック種目の1000mタイムトライアルに注目です。「メインターゲットととして3年間、三浦選手と2人でトレーニングを積んできた。自己ベストを更新しメダル争いに絡みたい」と意気込みます。2年前の世界選手権でパリ大会のトラックは経験済み。「観客も多く、走りやすくて好きなバンク。タイムトライアルは約1分でレースが終わる。スタートからの飛び出しに注目してほしい」とアピールしました。

沼部HCにも「見どころ」を聞きました。「選手それぞれに、輝く瞬間がある」としながら、とくにHCならではの視点で選手共通の見てほしいところとして挙げたのが、「スタート直後の後ろ姿」です。

「スタートラインの選手たちはものすごいプレッシャーと緊張を抱えた状態にいる。でも、スタートの瞬間は戦いに挑む覚悟を決めた瞬間であり、スタート直後の後ろ姿は、私にはちょっと大きく見える。皆さんの応援も全て背負って出発していく選手の姿を、ぜひ見てほしい」

自転車人気の高いパリでの決戦。パラサイクリング日本代表選手たちの活躍を、ぜひ、応援ください。

(文・写真: 星野恭子)