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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(504) 東京都が、都ゆかりのパラアスリート・スタッフを支援

近年、東京パラリンピック開催の影響などもあり、パラアスリート支援事業を実施する自治体が増えています。パラアスリートは競技環境が限られていたり、競技用具や海外遠征などにも多くの費用がかかります。競技継続に苦労する選手たちも少なくなく、自治体や企業などからの支援が求められています。

たとえば、東京都でも2016年から毎年、都内在住や在勤・在学するなど東京にゆかりがあり、東京パラリンピックを目指すアスリートに対し、競技活動費の助成や広報を支援する事業を行っており、東京パラリンピック後は、対象をパラリンピックやデフリンピックなど国際大会等での活躍が期待される選手に拡大し、「東京ゆかりパラアスリート」として認定して支援を行っています。

2024年度の認定式に参加した「東京ゆかりパラアスリート」や関係者たち

2018年からはパラアスリートの競技活動に不可欠なコーチや競技パートナーなどを対象に「東京パラスポーツスタッフ」も公認し、同様の支援を行っています。さらに、昨年度からは全国大会出場実績のある学齢期の選手を対象とする「東京ゆかりジュニアパラアスリート」の認定も始めるなど、パラアスリートをさまざまな形で支援しています。

2024年度は131名の「東京ゆかりパラアスリート」と14名の「東京ゆかりジュニアパラアスリート」が認定され、82名の「東京パラスポーツスタッフ」が公認されました。6月26日にはその認定・公認式が東京都庁で行われ、該当する選手・スタッフ約100名が出席しました。

式ではまず、主催者である東京都生活文化スポーツ局の古屋留美局長が、「東京というエリアにゆかりのある皆さんの活動や活躍を知ってもらい、東京中の方々から応援していただけるように、広く情報を発信していきたい」と話し、また、パラアスリートを支えるスタッフに対しても、「選手の皆さんをサポートしやすくなるよう、知事からお願いの文章をお送りするなど職場への働きかけを含めて、活動環境の整備にも取り組んでいきたい」と挨拶しました。

つづいて、東京都障害者スポーツ協会の延與桂会長は、「今年はパリでパラリンピックが、来年秋には東京でデフリンピックが開催されるので、障害者スポーツの関心を盛り上げていく絶好の機会。皆さんがさまざまな大会で活躍する姿を見ることにより、多くの人が勇気と感動をいただける。さらにスポーツだけでなく、誰もが個性を生かし活躍できる共生社会の実現にも大きな力になる。東京を代表するアスリートとして自覚を持って精一杯頑張ってほしい」と激励しました。

また、認定アスリートを代表して、パリパラリンピックのパラ水泳日本代表に決定している富田宇宙選手が、「パラアスリートは、アスリートとして活躍する姿を通して夢や希望を届けるだけでなく、それぞれに抱える困難性にとらわれず輝ける姿を体現する存在として、より良い社会の構築に貢献する力も持っています。生き生きと挑戦し成長し続ける姿を通して、都民をはじめ多くの人々に人生の質を向上させるための文化的活動としてのスポーツの本来の価値を伝えていくことを誓います」と力強く決意を表明しました。

認定パラアスリートを代表して決意表明を行ったパラ水泳の富田宇宙選手(左)と東京都障害者スポーツ協会の延與桂会長

認定アスリートを代表して、認定証を受け取ったボッチャの一戸彩音選手は、「認定されて嬉しく思っています。助成金使わせていただき、もっと強くなって応援される選手になりたいです。ボッチャを楽しんでやっていきたいと思います」と意気込みを語りました。一戸選手はパリパラリンピック日本代表入りも果たしています。また、一戸選手の父親で、競技パートナーであるランプオペレーターとして「東京パラスポーツスタッフ」に公認された一戸賢司さんは、「(選手)本人の助成もそうですし、サポートスタッフとしての助成もありがたい。いろいろ相談をしながら、彼女が楽しくボッチャができる環境づくりに使わせていただきたい」と感謝しました。

さらに、来年のデフリンピックでも活躍が期待されるデフ陸上の岡田海緒選手も晴れやかな笑顔で認定証を受け取りました。まもなく7月18日に台湾で開幕するデフ陸上の世界選手権(~23日)の代表に選出されており、日本記録をもつ800mに出場予定です。「いい色のメダルを獲って、デフリンピックにつながるレースにしたい」と意気込みました。聴覚障がいは外見からは分かりにくいため周囲から認知されにくく、コミュニケーションでも苦労が多く、「悔しい思いをしてきたことも多い」と言います。デフリンピックに向けて、「聴覚障がいや手話の文化などが広まり、理解しあおうという思いをもってくれる人が増えてほしい。会場に来て、名前を書いた団扇や横断幕など文字で応援してもらえたら嬉しい」と期待を語りました。

式典では、デフ空手のジュニアパラアスリート3選手によるデモンストレーションも行われた

最後に、射撃競技で2004年アテネ大会から北京、ロンドンと3大会連続のパラリンピアンで、今夏のパリパラリンピックでは日本代表選手団団長を務める田口亜希さんが登壇。25歳の時、突然の病気で胸から下がまひして車いすユーザーとなり、「何にもできなくなった」ところから、「できることはないか」とさまざまな挑戦をするなかで射撃競技と出合ったこと。そして、自身の競技生活で失敗から学んだ経験や身に付けた強さなどについて語り、認定者たちに「たとえ失敗しても、失敗をどう生かせばいいのかを考え、前に進んでいってほしい」「周囲からの支えに対する感謝の気持ちを持ち、『ありがとう』と伝えることも大切」などと語りかけ、「パラリンピックやデフリンピック、その他の国際大会などで、皆さんの活躍を楽しみにしています」とエールを送りました。

なお、パリ2024パラリンピックは8月28日から9月8日まで、東京2025デフリンピックは来年11月15日から26日まで開催される予定です。

(文・写真:星野恭子)