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「週刊Jリーグ通信」第14節「浦和『第1ステージ優勝』へ!」(大住良之)

 夏が近づいて(5月は「真夏」と言っていい気候だったが…)、Jリーグも夜の試合が多くなった。5月30日(土)に行われた第14節は、9試合のうち6試合が19時キックオフ。うち関東地方で行われた試合が3試合。異変が起こったのは後半20分過ぎ、時刻は20時24分だった。

 

 私は東京の味の素スタジアムで「FC東京×柏レイソル」を取材していた。突然、スタジアムが揺れた。大きく長い揺れだった。ピッチではFC東京にPKが与えられ、1-1の状況から勝ち越し点が生まれるかというときだった。

 

 ピッチ上の選手たちはあまり気づかなかったようだ。しかしF東京のフィッカデンティ監督が大声で主審にアピールし、試合が止められた。

 

 味の素スタジアムでは中断時間は2分間だったが、横浜の日産スタジアム(横浜F・マリノス×ガンバ大阪)では10分間、BMWスタジアム平塚(湘南ベルマーレ×サンフレッチェ広島)では6分間の中断があった。小笠原沖を震源とするマグニチュード8.1という巨大なエネルギーをもった地震だったが、試合開催中の地震で負傷者などが出なかったのは幸いだった。

 

 この節のハイライトは小笠原から北西に1300キロ離れた佐賀県鳥栖市でのゲーム。無敗で首位を快走する浦和レッズが、苦手とするサガン鳥栖に6-1で大勝し、「第1ステージ優勝」へ大きく前進したのだ。

 

 「3年半浦和を率いているが、私のチームではないような印象だった」

 

 試合後に浦和のペトロヴィッチ監督がそう話したほど、前半の浦和は出来が悪かった。鳥栖の激しいプレスから逃げるようなロングパスが多く、浦和が得意とする速いテンポのパスや動きがほとんど出なかったのだ。

 

 前半22分に鳥栖のDF吉田豊が2枚目のイエローカードを受けて退場になって相手が減っても状況は変わらなかった。そして前半31分には不用意なファウルからFKを与え、鳥栖のMF水沼宏太に25メートルから決められて1点のビハインドとなる。

 

 鳥栖は浦和が最もと言っていいほど苦手とする相手。とくにこのベストアメニティスタジアムでは、鳥栖がJ1に昇格してからの3シーズンで1分け2敗。勝ったことがなかった。昨年の第33節、優勝を手中にしかけていた浦和が後半のロスタイムの失点で引き分け、2位に後退したショックは記憶に新しい。「苦手意識」が浦和の選手たちの足を止めていたのだろうか。

 

 しかし後半、試合は一変する。浦和のパスのテンポが二段階ほどアップし、そこに動きも加わって鳥栖の守備がついていけなくなったのだ。MF阿部勇樹のシュートのリバウンドを拾った浦和MF武藤雄樹が同点ゴールを決めたときには、後半開始の笛が吹かれてから1分48秒しかたっていなかった。

 

 同点にした浦和のギアがもう一段階上がる。後半14分には中央でMF柏木陽介-武藤-柏木-MF李忠成とパスがつながり、李が頭で落としたところに柏木が突っ込んで頭で決め、逆転に成功した。さらにその4分後には、右のスローインを受けたMF関根貴大が中央のFW興梠慎三の足元にパス、ターンした興梠がきれいな左足シュートを決めて3-1と差を広げた。

 

 この後は浦和が選手を代え、ペースを落としたが、逆に攻め込んだ鳥栖の逆をついて次々とカウンター攻撃を決め、試合が終わったときには6-1と信じがたい大差がついていた。

 

 AFCチャンピオンズリーグ(ACL)で敗退した浦和はこの週の水曜日にはゲームがなく、逆に鳥栖はナビスコ杯の試合をアウェーの甲府で戦わなければならなかった。しかし鳥栖の森下監督は浦和戦を考えてか、甲府戦ではこの日とまったく違う11人を送り出しており、浦和戦の先発11人は遠征にも帯同していなかった。「連戦」の疲れがあったわけではない。ただただ、後半の浦和のプレーが素晴らしかったのだ。

 

 これで浦和は今季開幕から13戦して10勝3分け無敗、得点29(最多)、失点11(G大阪に次ぎ2位)、勝ち点を33に伸ばした。2位広島は14戦で勝ち点27、3位F東京はやはり14戦で勝ち点26、4位G大阪は12戦で勝ち点24。今週水曜日にACLで延期されていた第10節の「柏×浦和」、「G大阪×鹿島」の2試合が行われるが、浦和が勝って勝ち点を36に伸ばすと、6月7日(日)の第15節(ホームでの清水エスパルス戦)で「第1ステージ(全17節)」の優勝が決定する可能性がある。

 

 過去3シーズン、終盤の急失速でタイトルを逃してきた浦和だったが、この「第1ステージ」では間違いなく優勝するだろう。

 

 今季から導入された「2ステージ制、チャンピオンシップ」では、最後のプレーオフに最多5チームが出場できる。年間勝ち点で1位のチームは最終的にシーズン優勝を決める「チャンピオンシップ」への進出が無条件で認められるが、ステージ優勝チーム(2チーム)と年間勝ち点で2位、3位のチームは、その前のラウンド(スーパーステージ)を勝ち抜かないと「チャンピオンシップ」に進むことができない。

 

 以前の方式では、第1ステージに優勝すれば、極端な話、第2ステージは全敗でも「チャンピオンシップ」に出場でき、年間2位以上が確定していたから、大きなメリットがあった。しかしことしからの制度では、どのチームも「第1ステージ」と「第2ステージ」のそれぞれ17試合、計34試合で目指すのは、年間勝ち点1位であり、第1ステージで優勝したとしても気を緩めることはできない。

 

 すなわち「第1ステージ優勝」はそれほど価値のあるものではなく、浦和の選手たちにプレッシャーがかかることはないだろう。私は、浦和の第1ステージ優勝は間違いないと思っている。

 

 その浦和で最も興味深いのは、「絶対的エースがいない強さ」だ。

 

 以前にも紹介したが、今季のJリーグでは日本人ストライカーの調子が良く、第14節終了時で宇佐美貴史(G大阪)と豊田陽平(鳥栖)が10点、武藤嘉紀(F東京)と大久保嘉人(川崎フロンターレ)が9点を挙げている。

 

 そうした「得点上位」に、浦和の選手の名前はない。ところが、「中位」には、ずらりと浦和の選手の名前が並んでいるのだ。武藤とズラタンが5点、梅崎司、関根、興梠が4点。この5人で、実に22ゴールを量産している。

 

 「絶対的エース」がいるチームは、ランキングの上位に顔を出すのはそのエースとあとせいぜい1人。しかし浦和は5人で得点を量産している。対戦相手にとっては、特定のエースを抑えればすむわけでなく、「どこから攻め崩されるかわからない。どこから点を取られるかわからない」といった非常にやっかいな状態なのだ。

 

 チーム全員が連動して激しく守り、相手がどんなに守備を固めても何人もの選手がタイミングを合わせた動きを見せて攻め崩してしまう浦和。

 

 広島を率いていた時代(2006~2011)から一貫して「見ていて面白い攻撃的サッカー」をつくり、高く評価されながら、なぜかタイトルに恵まれなかったペトロヴィッチ監督。しかし今季、攻守両面で相手を圧倒するサッカーをひっさげ、念願のタイトルに向かってスピードを上げている。

 

〈文:大住良之(サッカージャーナリスト)、写真:Jリーグ公式サイトより〉