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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(499) 世界パラ陸上、9日間の熱戦に幕。神戸から、舞台はパリへ!子どもたちも大貢献!

神戸市のユニバー記念競技場で17日から開催されていたパラ陸上の世界最高峰の大会、「神戸2024世界パラ陸上競技選手権大会」が25日、9日間の全日程を終了し、閉幕しました。11回目にして東アジア初開催となった今大会はパリパラリンピック出場枠もかかっており、世界104の国・地域から1,073選手がエントリ―。168種目でハイレベルなパフォーマンスが披露され、世界新記録は17個、アジアやヨーロッパといったエリア記録も多数誕生しました。9日間で約8万人(速報値)に上った観客を魅了しました。

日本勢は過去最多の65人が参加し、銀9、銅12の計21個のメダルを獲得。金メダルは逃したものの、総数では昨夏パリで開かれた前回大会よりほぼ倍増という活躍でした。また、今大会で銀メダル以上の選手に与えられるパリパラ出場枠も新たに3選手がつかみとり、日本のパラ陸上陣は5月26日時点で、16選手(男子10、女子6)がパリパラ日本代表選手に内定しました。

■日本勢も、パリにつながる活躍

今大会でパリパラの代表に内定したのはまず、T13(視覚障害)の川上秀太選手(アスピカ)で、100m決勝で銀メダルに輝き、出場枠も獲得しました。予選は10秒83をマークし全体3位で通過。決勝ではアジア新記録となる10秒70まで記録を伸ばす快走でした。初出場となるパリパラリンピックでも活躍に期待です。

「健常者と変わらないタイムで走れることを伝えられたら、さらにパラ陸上が盛り上がっていくと思う」(川上選手)

T13男子100m 決勝でアルジェリア人選手と後まで競り合い、銀メダルを獲得した川上秀太選手(右)。パリパラリンピックの切符もつかんだ (写真:KOBE2024/Moto YOSHIMURA)

2人目はF53(車いす)の女子円盤投げ決勝で銀メダルを獲得した鬼谷慶子選手(関東パラ陸上競技協会)です。自己記録を約3mも更新する14m49のアジア新記録での快挙でした。

「ちょっと信じられない記録。初の世界選手権で緊張するかと思ましたが、楽しみのほうが大きく、精神的にもいい状態で入れました」(鬼谷選手)

T53女子円盤投げで銀メダルを獲得した鬼谷慶子選手。自身初のパラリンピック代表にも内定 (写真:KOBE2024/Moto YOSHIMURA)

最後の一人はT64(片大腿義足など)の大島健吾選手(名古屋学院大学AC)です。最終日のトラック最終種目となった男子200m決勝で、23秒13の自己ベストをマークして3位でフィニッシュ。しかし、上位のイタリア選手がライン踏み越しで失格したため、順位が繰り上がりました。

東京大会につづく2回目のパラリンピック出場を内定させ、「一安心しました。これで満足せず、次に向けて修正して頑張りたいです」(大島選手)

T64男子200mで銀メダルを獲得。2回目のパラリンピックで躍進を目指す (写真:KOBE2024/Moto YOSHIMURA)

■世界の強豪たちも観客を魅了

今大会には海外から多くの強豪選手たちも出場し、新記録も多数誕生して観客を沸かせました。日本は全21個のメダル獲得でメダル総数では第4位にランクイン。圧倒的1位は中国で、金33個を含む87個のメダルを獲得。2位には近年、躍進著しいブラジルが42個(金19)で、3位にはアメリカが24個(金6)で入りました。

世界チャンピオンたちも多数参戦しました。パラ陸上界のトップスターで、義足のロングジャンパー、マルクス・レームはT64男子走り幅跳びで大会7連覇を達成。ただ一人8mを越える8m30をマークし、観客を魅了していました。

砂場を跳び越えるかと思うほど、滞空時間の長いジャンプを見せたマルクス・レーム(写真: KOBE2024/Kazuyuki OGAWA)

イギリスのエース、T34(車いす)のハナ・コックロフトも100mと800mで連覇を果たし、世界選手権では自身16個目となる金メダルを持ち帰りました。

■ハイパフォーマンスを後押しした、子どもたちの歓声

今大会は9日間で約8万人(速報値)が観戦しました。そのうちおよそ3万人が神戸市を中心とした兵庫県内の小学校、中学校、高校、そして特別支援学校の児童・生徒さんたちでした。平日の午前中、スタンドを埋め、大声援を送ってくれました。

T54男子1500mのレースを、スタンドから大歓声で応援する児童・生徒たち (写真:KOBE2024/hiroaki yoda)

選手たちの渾身のパフォーマンスに、子どもたちは拍手や歓声、ときにはため息などで反応。そのダイレクトなリアクションが国内外問わず、選手たちを喜ばせ、鼓舞し、力を与えていたことは間違いありません。例えば、T11(視覚障害)男子円盤投げで優勝したイタリアの選手は試合後、スタンドの柵をよじ登って子どもたちの席に近づき、「サンキュー、アリガトウ」と感謝の思いを大胆に表現。取材エリアに戻ってきたときもまだ興奮状態で、「ハッピーだ。子どもたちのおかげで力を出せた」と笑顔を振りまいていました。

こうした子どもたちの観戦は、大会組織委員会が企画した「学校観戦プログラム」によって実現したものですが、このプログラムを陰で支えたのが、「Oneクラス応援制度」です。企業や個人などから一口5万円からの寄付を募り、観戦チケットや学校から競技会場までの交通費などを助成したそうです。

子どもたちに観戦機会を支えた「Oneクラス応援制度」のフライヤー (提供:神戸2024世界パラ陸上競技選手権大会組織委員会)

子どもたちの大声援は選手たちから大好評でしたし、子どもたちにとっても今回、世界各地から集まったさまざまな障害のあるパラアスリートたちの真剣に挑む姿に触れられたことは大きな経験となったはずです。「多様性」についてリアリティをもって体感できたことでしょうし、彼らのこれからの考え方に影響を与え得る貴重な種まきの機会になったのではないでしょうか。

この他にも、兵庫県内の特別支援学校12校が、「おもてなしプログラム」に参加し、さまざまな形で大会運営を支えていました。例えば、クッキーなど茶菓子を製作して大会ボランティアや関係者などに配布したり、最寄り駅や会場周辺の清掃活動を行ったり、大会を陰で支えてくれていました。

こうした子どもたちを対象にしたプログラムは、東京2020パラリンピックなどでも見られましたが、国際大会開催における一つのレガシーとして、今後も継承していってほしいなと思います。

例えば、今後も日本初開催となるパラスポーツの国際大会が控えています。来年2025年11月には東京で聴覚障害者の祭典「デフリンピック」が、2026年10月には愛知・名古屋でアジアパラ競技大会が予定されています。神戸の熱気やアイデアがよい具合に引き継がれ、発展していくことを願います。

大声援に応え、サインや記念写真に気軽に応じる選手も (写真:KOBE2024/hiroaki yoda)

(文:星野恭子)