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新国立競技場は、本当に建設可能なのか?(玉木正之 )

 以下の原稿は、昨年(2014年)5月上旬に配信された『連合通信・生活文化特集』の連載「玉木正之のスポーツ博覧会 第50回」に書いたものです。
 この時点で既に、多くの建築家が新国立競技場の建設を不可能と断じていた事実を知ってもらいたいと思います。



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 8万人収容のスタジアムは巨大すぎる……オリンピックが終われば使い道がない……UFOのような奇抜なデザインが閑静な神宮の森にマッチしない……1300億円の当初の予算でも高額すぎるうえ、さらに費用が……等々、2019年のラグビーW杯や翌年の東京五輪のために建設される新国立競技場には、多くの批判の声があがっていた。

 が、小生は、イラク人の女性建築家ザハ・ハディド氏の斬新な設計による巨大な建築物を支持していた。それは新時代を切り拓く東京の象徴的未来型建築物にふさわしいと思えたのだ。

 しかし『新潮45』2014年4月号に掲載されていた森山高至氏(建築家・建築エコノミスト)のリポート『「新国立競技場」に断固反対する』を読んで、小生の夢と信念は、今もろくも崩れかかっている。

 森山氏は多くの「反対理由」をあげているが、小生の胸にグサリと突き刺さったのは、ハディド氏の設計通りには建設できないということだ。

 既に予算の関係で一部のデザイン変更が行われ「デザインの価値を半減させて」しまっているうえ、そもそもこのデザインの建築物が建設可能かどうか、大いに怪しまれる。これは「陸上に建設しようとする巨大な橋梁」で、「部材の運送」や「現地での吊り上げ」はどうするのか? 「敷地の周囲にそのような余地はあるのか」? 「交通網や周辺への影響」は……? と、「課題が山積み」なのだ。

 しかも「実際の設計図も出来ておらず」「フォルムやデザインのみを(略)募集した」コンペのやり方は、応募資格も審査員の人選も首を傾げるほかなく、審査委員長の安藤忠雄氏は審査内容について一切取材に応じないという。

 こんな秘密主義で選ばれた設計の巨大な新国立競技場は本当に建設できるのか?

 

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 その後、私は、建築家の槇文彦氏、伊東豊雄氏、建築エコノミストの森山高至氏、建築史家の松隈洋氏、「神宮外苑と国立競技場を未来へ手渡す会」の活動をされているエッセイストの森まゆみ氏、サッカー・ジャーナリストで『国立競技場の100年』の著者である後藤健生氏、人類学者の中沢新一氏などが参加する、いわゆる“新国立競技場建設反対派”の集会や勉強会に何度か参加し、「反対派」の主張のほうが「賛成派」の主張よりも、はるかにリーズナブルで、「賛成派」の主張は、相当に杜撰で無理があることに気づいた(なにしろ建設費予算を、消費税5パーセントで計算しているだけでも呆れ返りますよね)。

 下村博文文科大臣は、旧国立競技場が完全に取り壊された今頃(2015年5月)になって、開閉式の屋根の建設が間に合わず、可動式の観客席を仮設にする……などと発言したが、そのほかにも「問題は山積み」で、いったい建設費がどのくらいになるのか? 本当に建設が可能なのか? という疑問は残されたままだ。

 また、たとえ建設されたとしても、年間35〜40億円とされる維持費を「計画通りに」稼ぎ出すのは相当無理がある。何しろ、8万人規模のコンサートを毎月、年間12回開催する計画にしているのだが、そんなことが可能なのか?年間700万円のボックスシートを販売し、20億円の収入を得る計画など、どう考えても可能性のある計画とは思えない。ということは、将来多額の税負担が必要となることは火を見るよりも明らかだ。

 今となっては、この「新国立競技場建設」に少しでも関わった人々がすべて責任をとって東京五輪2020と関係のある役職から辞任し、新しい体制で、情報を全て開示しながら、新しい計画を立ちあげる以外にないのではないだろうか?

 

〈文:玉木正之、写真:日本スポーツ振興センターホームページより〉