「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」（492） パラスポーツの根幹「クラス分け」の業務を専門とする新拠点がオープン
新年度のスタートとともに、パラスポーツの根幹ともいえる「クラス分け」を専門に担う新施設、「JPCクラス分け情報・研究拠点」が東京都北区の「味の素ナショナルトレーニングセンター（NTC）」内に開設されました。専任のマネージャーが常駐し、クラス分けに関して「国内外からの情報収集・共有」「教育・研修」「調査・研究・分析」「競技団体やアスリートへの情報提供」「ネットワーク化」といった業務を一元化することで競技力向上につなげることなどを目的に日本パラリンピック委員会（JPC）が設立しました。
「JPCクラス分け情報・研究拠点」開所式より。前列左から2人目が鈴木孝幸選手、同3人目が土田和歌子選手
4月3日にはNTCイースト内で、スポーツ庁や日本スポーツ振興センターなどから来賓も列席する中で開所式も行われ、JPCの河合純一委員長は、「クラス分けはパラスポーツにおける『一丁目一番地』ともいえる重要な制度だが、課題も多い。クラス分け全体のリテラシーを高めることが重要であり、新拠点がクラス分けのハブとしてより機能的に活動できるよう、しっかり取り組みたい」と挨拶しました。
初代マネージャーには公募により井土祐樹さんが就任しました。車いすラグビー選手のクラス分けを判定する「国際クラシファイア」の資格をもち、JPCクラス分け委員会などでの活動経験もあります。
井土マネージャーは拠点の役割として、現在は各競技団体が独自に収集しているクラス分けに関する国際情報を、「集約、整理、解釈し、競技団体を支援することが第一。また、現場で活動するクラシファイアの教育・研修の機会確保など」も挙げ、さらに、「選手が安心して競技に取り組めるよう日本の体制を整えてアジアや世界に発信するとともに、アジアでのハブも目指したい」と意気込みを語りました。
「JPCクラス分け情報・研究拠点」のマネージャーに就任した、井土祐樹さん
河合委員長によれば、担当マネージャーを配置している国は数カ国あるが、拠点をつくって活動するのは、「おそらく世界初と認識している」といい、当面は井上マネージャーと他2名のスタッフが担当します。
■パラリンピアンも期待
開所式にはともに競技歴20年以上という水泳の鈴木孝幸選手（ゴールドウイン）と陸上の土田和歌子選手（ウィルレイズ）も参加しました。鈴木選手は、「クラス分けはパラスポーツの根幹にもかかわらず、乏しい知識で受検している選手も多い。アスリートにとって、クラスが変わることは世界が変わるくらいの死活問題。この拠点が選手たちにとって心強い存在になってもらえたら嬉しい」と期待を寄せました。
土田選手はトライアスロン転向時代に再判定によってクラスが変更された経験もあり、「クラス分けは選手の人生を大きく左右するものだと思う。平等性を求めることは難しいが、より高い平等性を求める上で拠点は重要だと考える。クラス分けルールの変更など最新の情報が発信されることで、選手はいち早く情報を知れて戦う準備ができる。拠点設置は選手として心強く感じる」と話しました。
■クラス分けとは
「クラス分け」とは多種多様な障害の選手が参加するパラスポーツにおいて、できるだけ公平な競技を行うために、選手を障害の種類や程度で分けるもので、パラリンピックの根幹ともいえる重要な制度です。パラリンピック出場の必須条件にもなっていて、大会前までに有資格の専門家「クラシファイア」による審査・判定を受けるように規定されています。判定は医師の診断書や面接、実際に競技を行って運動機能がどの程度残されているかなどが観察されて判断されます。
しかし、パラリンピック競技は約30もあり、それぞれ対象となる障害や必要な運動機能なども異なるため、クラス分け規定は競技ごとに細かく規定されており、また、現状に合わせて規定が変更されることもあります。
また、進行性の障害などの場合は「クラス」が判定されても2年から4年ほどの期間限定となり、期間内に再判定を受ける必要があり、その結果、元のクラスから変更になる選手もいます。どのクラスに入るかでライバルの顔ぶれも変わり、競技によっては出場できる種目の選択肢が変化します。また、出場資格を失う場合もあります。
このように、クラス分けは選手の競技活動に大きく影響し、競技力向上や若手選手の発掘・育成などにも大きく関わる重要なものです。新拠点が機能し発展していくことで、競技団体やアスリートが競技により専念でき、能力を最大限に発揮できる体制が整っていくことを期待します。新拠点の今後の活動にも注目していきたいと思います。
なお、JPCはクラス分けについて分かりやすくコンパクトにまとめた動画を作成、公開していますので、こちらもぜひ、ご参考ください。
▼JPCクラス分け紹介ビデオ （約5分）
https://www.youtube.com/watch?v=75-AWM1fWng
（文・写真： 星野恭子）
