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「週刊Jリーグ通信」第10節/第11節「敗者のメンタリティー」

 

 ゴールデンウィークの期間中、4月25日(土)から5月10日(日)までの16日間で、今季のJリーグは5節を消化した。

 

 サッカーでは「週に1試合」が理想の日程と言われる。

 

 試合の翌日は「疲労回復」にあて、続いてフィジカルコンディションを高めるためのトレーニングを行い、それから数日間を次の試合への準備に向ける。前の試合で出た課題のクリアに取り組み、次の対戦相手を想定した戦術のトレーニングを行い、最後にコンディションを調整して試合に臨む。

 

 週に2試合だと、試合の間は2日あるいは3日となり、大部分は「回復」に費やされてしまう。満足なトレーニングができないまま試合が続いていくと、チームプレーの質やパフォーマンスが落ちるばかりで、レベルの低いリーグになってしまう。

 

 中2日、あるいは3日で3試合以上が続くことを、Jリーグの監督たちは「連戦」と呼んで警戒している。

 

 ことしの「16日間で5試合」は、その限界に近い日程だった。5月10日(日)に行われた第11節では、前節の順位で下から3番目までの3クラブが2勝1敗。全9試合のうち4試合が下位チームの勝利という「逆転現象」が起きた。それも多くの監督が異口同音に語る「連戦の影響」のひとつだ。

 

 そしてもうひとつ、第11節には、Jリーグならではの奇怪な現象も起こった。「首位の譲り合い」である。

 

 首位浦和はアウェーで仙台と対戦した。第10節まで5連敗、15位というチームである。キックオフは15時。前半8分に守備のミスから1点を失ったが、浦和の試合ぶりは悪くなかった。圧倒的にボールを支配して攻め込み、失ってもすぐに奪い返して攻撃を続けた。そして前半ロスタイムにCKのこぼれをMF阿部勇樹が決めて同点。後半にはFW興梠慎三とFW李忠成を投入、後半10分、11分の連続得点で一挙に逆転し、突き放した。

 

 この試合の前半の失点を含め、浦和の失点は10試合(浦和の第10節の試合は6月3日に行われる)でわずか5失点の浦和。勝利は決定的と思われた。

 

 ところが浦和は後半15分に1点を返され、20分には同点とされ、35分には逆転されてしまうのだ。その1分後に興梠が決めて4-4の引き分けに持ち込むのだが、まったく浦和らしからぬ試合だった。

 

 浦和と同勝ち点、得失点差で2位のF東京は前節まで4連勝。FW武藤嘉紀の爆発的な得点力で順位を上げてきた。4万2070人を集めたホーム味スタでの鹿島戦は16時キックオフ。この試合のハーフタイムには、浦和が引き分けたことが伝わっていたはずだ。勝てば首位だ。ところがF東京は前半34分に鹿島に許した1点を取り戻すことができず、0-1で敗れてしまう。

 

 そして前節まで勝ち点23の浦和とF東京を勝ち点1差の22で追う3位が、広島である。ホームで19時からG大阪と対戦した。すでに浦和は引き分けて勝ち点を1しか詰めず、F東京は23で足踏みであることはわかっている。勝てば広島の勝ち点は25に伸び、首位に立つことができる。

 

 ホームの観客の前で広島は攻勢に出た。しかしG大阪の日本代表GK東口順昭の攻守にあってゴールを割ることができず、逆に後半15分にFKからG大阪に先制点を許す。そして0-1のスコアを変えることができないまま終了のホイッスルを迎えるのだ。

 

 「謙虚さ」は日本人の美質のひとつである。しかしサッカーの場で千載一遇のチャンスをむざむざと無駄にするのは、ただの間抜けだ。そしてこのような状況、「首位の譲り合い」はJリーグではけっして珍しいことではなく、むしろ「常態」と言ってよい。

 

 「首位」というのはプレッシャーがかかるものかもしれない。しかし過去のJリーグでは、ものすごい勢いで白星を重ねたチームが首位に立ったとたんにプレーがぎくしゃくし、翌週には負けて陥落するといった風景を数限りなく見てきた。そしてことしの第11節のように、せっかく首位に立つチャンスを当たられながら生かせないチームも…。

 

 もしかしたら、「決定力不足」という現象、たくさんのチャンスをつかみながら決めきれない「日本病」とも言うべき悪弊も、同根なのかもしれない。

 

 こうした「敗者のメンタリティー」の唯一の例外というべき存在が、鹿島である。鹿島は相手がどこであろうと、とにかく目の前の試合で勝つことに全力を尽くす。首位に立ってもプレッシャーなど感じず、ひたすら目の前の試合を勝とうとする。そして図々しいまでに首位に居座り、数多くのタイトルを手にしてきた。それはもちろん、クラブ創立時からの「ジーコの教え」によるものに違いない。

 

 昨年、浦和がようやく首位にいることに慣れ、プレッシャーを感じずに戦うことができるようになったと思ったのだが、終盤には3戦して1分け2敗と自滅する形になってしまった。

 

 昨年の最終節、2位につけていた浦和はホームで11位の名古屋と対戦した。第31節終了時(残り3節)には2位G大阪に5もの勝ち点差をつけていたのだが、第32節にG大阪に0-2で敗れて勝ち点の差が2に縮まり、第33節には後半ロスタイムの失点で鳥栖と1-1の引き分け。この日も勝ったG大阪に勝ち点で並ばれ、得失点差で大きく離されて2位に落ちてしまった。

 

 最終節、G大阪の相手はすでに最下位が決まっている徳島。G大阪の勝利、そして優勝は決定的と思われていた。しかしこの試合を、G大阪は0-0で引き分けてしまう。

 

 当然、浦和が勝てば「再逆転優勝」だった。ところが浦和のメンタルバランスは崩れきっており、前半2分に先制しながら名古屋に逆転負けしてしまうのだ。

 

 「G大阪さん、どうぞ」

 

 「いやいや、浦和さんこそ、お先にどうぞ」

 

 というような会話の末、G大阪が浦和に押し切られて優勝という結果だった。

 

 勝つべき試合で冷酷なまでの試合ぶりで勝利をつかむ―。それこそ「勝者のメンタリティー」なのだが、それをもったチームがもっとたくさん出てくることが、Jリーグの今後の重要な課題であるように思う。

 

(サッカージャーナリスト・大住良之)

 

〈写真:11節ガンバ大阪戦に敗れるサンフレッチェ広島イレブン(Jリーグ公式サイトより)〉