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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(484) 車いすバスケ天皇杯は神奈川が大逆転で連覇達成。埼玉は悲願の初優勝ならず

車いすバスケットボールのクラブ日本一を決める天皇杯が2月3日から4日にかけ、東京体育館で行われ、神奈川VANGUARDSが埼玉ライオンズを47-44で下し、優勝しました。神奈川は昨年、チーム名をパラ神奈川スポーツクラブから変更していて、チームとしてはクラブ史上初の連覇、通算5度目の優勝でした。

大会連覇を果たし喜ぶ神奈川VANGUARDSの選手たちと、天皇杯を高々と掲げる鳥海連志選手(中央)

試合は序盤から埼玉が日本代表の赤石竜我選手や健常者の大山伸明選手らを軸に得点を重ね、優位に進めます。神奈川も鳥海連志選手や古沢拓也選手など日本代表の主力がそろった力強い陣容で、速いバスケを武器に対抗しますが、前半は埼玉が29-22とリードして折り返します。

後半に入ると、神奈川の守備が埼玉を苦しめるようになり、オフェンスでも徐々にリズムをつかみます。追い上げムードのなか、ついに第4Qの残り約6分で39-39と同点に追いつきます。

その後も一進一退の攻防が進むなか、残り1分を切ってから神奈川が鳥海選手のミドルシュートで44-44とします。さらに残り約30秒で鳥海選手からパスを受けた古澤選手がシュートを決め、ついに46-44と逆転。埼玉はファウルゲームで打開を図りますが、神奈川がリードを守り切り、47-44で勝利しました。

劇的な展開となった神奈川VANGUARDS(白)と埼玉ライオンズ(緑)の決勝戦のティップオフ

神奈川の大黒柱で、今季はアシスタントコーチも兼任した鳥海選手は「ホッとしている。前半は自分たちが後手に回ってしまったが、後半はディフェンスから流れをつかめた」と安堵の表情で語るともに、「3連覇するためにはもっと成長しなければならない」と来季に向けての意気込みも口にしました。

要所でシュートを決めた古澤選手は逆転での勝利に、「嬉しい気持ちと勝つことは難しいなと感じた大会だった。今日も終始追いかける展開で、チームとしてシュートがなかなか決まらず、でもディフェンスを頑張るという部分と、最後は勝ちたい気持ち(の強さ)で勝てた。ルーズボールを必死で追いかけ、泥臭いことをしっかりやって、どうにかボールをつなぐということをやりつづけたから、勝てる瞬間のチャンスが1個、こちらに来たのかなと思うし、そこで勝てたのはチームとしてまた一歩大きな進化を遂げたかなと思う」と手応えを話しました。競り合った埼玉についても、「若く、フィジカルも強度も高いチーム。一緒に切磋琢磨して、日本の車いすバスケを盛り上げていきたい」と話しました。

■大健闘のライオンズ。「やり切れた。また強くなってリベンジを」

埼玉は昨年3位から悲願の初優勝を狙い、王者を追い詰めましたが、あと一歩届きませんでした。今年ライオンズ在籍10年目というベテラン、赤石選手は悔しさをにじませながらも、「悔しいがが、自分たちの持てる手、やれることはすべてやり切れた。前回優勝チームのVANGUARDSに、この点差で迫れたのは自分たちの成長だと思う。これが実力だと素直に受け止めて、次に進みたい」と前を向きました。チームメイトに対しても、試合終了後に組んだ円陣で、「負けは負け。これが俺たちの現在地で実力。この悔しさを持ち帰って、また強くなって、ここにリベンジしに来よう」と伝えたと言います。

中井健豪ヘッドコーチは、「やり切りました。そこに尽きる。クロージングのシーンで追い越せなかったのはコーチが最後の一押しができなかったところかと思うが、後悔はない。神奈川を意識してこの1年やってきて、誇りをもってこの試合に挑んだ」と手応えを口にし、北風大雅キャプテンは、「悔しい。でも、スター軍団の神奈川に対して、あそこまでやれたチームは他にどこもなかったと思う。僕らがやり切れたことはでかい。『来年こそ』と、チームみんなが思ったと思う」と、もう前を向いていました。

初優勝にあと一歩まで迫った埼玉ライオンズの支柱、赤石竜我選手(左)と、厳しくマークする神奈川VANGUARDSの古澤拓也選手(白7番)

■3位は伊丹スーパーフェニックス、「西が強い時代の、いい一歩」

決勝戦前に行われた3位決定戦では、伊丹スーパーフェニックスがNO EXCUSEを53-40で下し、チーム初の銅メダルを獲得しました。

日本代表でも活躍する村上直広選手は、「自分たちのバスケをして勝ち切れたので、かなり成長したかなと思う。3決で勝てたことを誇りに思いたい」と話し、久しぶりに西日本にメダルを持ち帰れることについても、「東が強豪揃いと言われたところから、僕たちがベスト4に入ってこれたというのは歴史が変わる。昔は西もワールドBBCチームがずっとベスト4に入るなど強かった。ここからもう1回、西が強い時代を作っていく、いい1歩になるかなと思う」と力を」込めました。

NO EXCUSEの香西宏昭選手(左)をチェックする、伊丹スーパーフェニックスの村上直広選手

今年の天皇杯は、男子日本代表がパリパラリンピックへの出場権を逃したばかりのタイミングで行われましたが、代表選手たちはなんとか気持ちを切り替え、それぞれのチームメイトとともに見ごたえある試合を見せてくれました。クラブチームのレベルアップは代表チームの強化にもつながります。そんな選手たちの挑戦を、2日間でのべ約6,000人のファンが見守りました。来季の戦いにも注目したいと思います。

決勝戦の客席は大勢のファンで埋まった

■大会結果
優勝:神奈川VANGUARDS
準優勝:埼玉ライオンズ
3位:伊丹スーパーフェニックス
4位:NO EXCUSE
5位:SAGAMIFORCE、ワールドバスケットボールクラブ、COOLS、ライジングゼファーフクオカ Wheelchair

■個人賞
<オールスター5>
MVP:丸山弘毅(2.5/神奈川VANGUARDS)
クラス1:財満いずみ(1.0/埼玉ライオンズ)
クラス2:鳥海連志(2.5/神奈川VANGUARDS)
クラス3:古澤拓也(3.0/神奈川VANGUARDS)
クラス4:村上直広(4.0/伊丹スーパーフェニックス)

<サントリーやってみなはれスピリッツ賞>
髙柗義伸(4.0/神奈川VANGUARDS)

<三菱電機 Changes for the Better賞>
青山結依(1.0/伊丹スーパーフェニックス)

(文・写真:星野恭子)