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佐野稔の4回転トーク vol.⑮それぞれの来季につながる日本勢の締めくくり ~世界国別対抗戦&今シーズンを振り返って<第2回> 

●スケート大国アメリカが見せた底力

男子は羽生結弦をはじめとする日本勢、女子はエリザヴェータ・トゥクタミシェワを筆頭とするロシア勢を中心に展開されてきた今シーズンでしたが、最後の「国別対抗戦」で優勝したのは、アメリカでした。

 

最終種目の女子シングル・フリーでは、トゥクタミシェワが世界選手権のSP(ショート・プログラム)に続いて、鮮やかなトリプル・アクセルを成功させた。その直後の滑走者だったアメリカ・チームのグレイシー・ゴールドには、「国を背負う」重圧もあったのか。いきなりミスを犯して、終わってみれば2位ロシアとの差は、わずか1ポイント。薄氷の勝利になりました。

 

 アメリカ・チームで種目ごとの1位になったのは、女子SPのゴールドだけ。それもトゥクタミシェワのミスがあってのトップで、突出した選手は不在でした。それでも全種目で、まんべんなく得点を稼ぐことができた。そのあたりが日本や、男子シングルが低調なロシアとの違いになりました。やはりスケート大国・アメリカ。底力を持っています。

 

 09年に始まった「世界国別対抗戦」ですが、去年のソチ五輪から団体戦がスタートしたことで、意味合いや位置付けが変わっていくように感じます。まず今年の大会は、単純に参加選手が豪華でした(笑)。エキシビションには、ハビエル・フェルナンデス(スペイン)、デニス・テン(カザフスタン)も出場して、先月の世界選手権の1、2、3位が、男女とも顔を揃えたわけです。最後に劇的な優勝争いもあり、日本のフィギュア・ファンにとっては、シーズンの最後に応援の甲斐がある、見応えある大会になったと思います。

 

 

●世界に認められた宮原 最後に復調した無良 吹っ切れた村上

 SPでのトリプル・ルッツの失敗は残念だった宮原知子ですが、フリーでは自己最高点をマークしての3位。しかも2位のエレーナ・ラジオノワ(ロシア)とは、わずか0.61差。冒頭のトリプル・フリップが回転不足と判定されていなかったら、2位と3位が入れ替わっていた公算が強かった。その点では、ひじょうに惜しいことをしたのですが、彼女の持てる力は存分に出せていたと思います。

 

言い方を換えると、自分の力を出し切れば世界の表彰台に立てるだけのポジションを、宮原は今シーズンを通して築きあげてみせた。‘努力の人’宮原知子の存在を、世界が認めたわけです。選手として、ステップを一段上がった。ひじょうに実りの大きいシーズンでした。

 

 シーズンが進むにつれて、納得のいかない滑りが続いていた無良崇人でしたが、最後の公式戦のフリーで3位になったことで、ずいぶんと前向きな気持ちでシーズンを終えることができたのではないでしょうか。

 

彼の父親である隆志コーチが、私の大学の後輩ということもあって、正直、彼にはちょっと思い入れがあります。その分、どうしても辛口になってしまうのですが(苦笑)。この大会で見せた迫力ある4回転トゥ・ループやトリプル・アクセルを見ると、ジャンパーである無良らしさが戻ってきた印象です。もちろん「4回転を跳べない選手(ジェイソン・ブラウン)なんかに負けてんじゃねえぞ」と、言いたい気持ちもあるんですけど…(笑)。

 

 「どうしようもないくらい不調だった」と話していた村上佳菜子ですが、現役続行の意向を明らかにしたことで、本人のなかで多少吹っ切れた部分があったのかもしれません。あるいは団体戦独特の雰囲気がそうさせたのか。村上の楽しげな表情を、なんだか久々に見られた気がします。

 

 村上が現役生活を続けることについて、私は大賛成です。もし、今シーズン限りで競技を離れることになったら、「もうちょっと何かやれたんじゃないか」「もっとああすれば良かったのかな」といった、埋めることのできない悔いが、この先ずっと彼女のなかに残ってしまうように思うからです。どんなスケーターにも、引退する日は必ずやって来ます。そのときに悔いを残さず。願わくば「自分にできることはすべてやり切った」と言えるような状態で、リンクを離れて欲しいのです。まだまだ多くの可能性が、村上佳菜子には詰まっているはずです。

 

 

●底上げが始まったばかりのカップル競技

 先月の世界選手権が終わったあと、高橋成美&木原龍一組がペアの解消を表明、この大会に古賀亜美&フランシス・ブードロオデのペアが出場すると聞いたとき、「はたして、どうなることやら?」と不安に思ったのが本音でした。ところが、今回ふたりの演技を見て「できる選手がちゃんと育っているんだな」と、私は感心させられました。また、アイスダンスのキャシー・リードも、この大会を最後に引退することになりました。ペアとアイスダンスについては、どんなコンビが来シーズンの日本を引っ張っていくのか。まるで予想がつきません。

 

こうした団体戦になると、ペアとアイスダンスの成績が物足りなく映るかもしれません。ですが、これらの種目に関しては、国内の底上げがようやく始まったばかりの段階です。練習環境や競技人口の問題もあります。結果が出るようになるまで、ある程度時間は掛かります。そんなに簡単にいく話ではありません。だからといって強化をあきらめたら、そこで終わってしまいます。シングルだって、私が現役だったよりも前の時代から、コツコツと積み重ねられた努力や試行錯誤がやっと開花して、いまの隆盛が訪れたのです。地道な努力を続けていくしかないのです。ファンの方には、温かく見守ってもらえればと思います。

 

 PHOTO by en:User:Dr.frog (en:Image:Figure-skates-2.jpg) [Public domain], via Wikimedia Commons