ノーボーダー・スポーツ/記事サムネイル

「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(477) 視覚障害者柔道の国際大会が東京で開催。瀬戸勇次郎の金など日本勢メダル5個獲得 

12月4日から5日にかけて、「IBSA柔道グランプリ大会 東京2023」が東京体育館(東京・渋谷区)で行われました。パリパラリンピック出場につながるランキングポイント獲得対象大会でもあり、43の国・地域から男女合わせ188選手がエントリーし、熱戦が展開されました。

日本からは14選手(男女各7)が出場し、男子73kg級J2クラス(弱視)の瀬戸勇次郎選手(九星飲料工業)が優勝を飾ったほか、銀メダル1名、銅メダル3名とパリパラ出場に向けて大きな一歩を刻みました。

男子73㎏級J2を制した瀬戸勇次郎選手(上) (撮影:吉村もと)

瀬戸選手は東京パラリンピックでは男子66kg級で銅メダルを獲得しましたが、同大会後に体重階級の統廃合とクラス分けに関し大きなルール変更があり、60kg級か73kg級への転向を余儀なくされ、73kg級を選びました。しかし、すぐに体重は増えず、また新73kg級には81kg級から下げてきた選手もいて、相手のパワーに苦戦する試合が続いていました。そこで今年8月の国際大会後から約2カ月、大会出場を控えてフィジカル強化に務めた成果が今大会に表れたそうです。

「最近、国際大会で結果が出ていない状態が続いたので、優勝できて率直に嬉しい。(背負い投げなど)自分の強みをしっかり生かせた。東京パラ以降、悪い風が吹いていたので、ここをきっかけにひっくり返していきたい」

パリパラへのポイント対象大会はこの先、来年2月のドイツ、4月のトルコ、5月のジョージアとグランプリ大会が3つ続き、6月24日のパラリンピックランキングの結果により、該当選手の国・地域に出場枠が与えられます。例えば瀬戸選手のクラスでは7位以内に設定されています。

今回の金メダルでポイントを上積みできた瀬戸選手ですが、「あと3つ(の大会)でも結果を残し、パリパラで金メダルがしっかり獲れるように一生懸命がんばりたい」と力強くコメントしました。

男子73㎏級J2の表彰式で金メダルを首にかけ記念写真に応じる瀬戸勇次郎選手(左から2人目)  (撮影:吉村もと)

なお、グランプリ大会はパラリンピック、世界選手権に次いで高いランキングポイントが得られるグレードの大会で東アジアでは初開催でした。さらに今大会直前の12月2日から3日に同会場で国際柔道連盟(IJF)主催によって開催された「柔道グランドスラム東京2023」と初めてジョイント開催されました。運営面での連携はもちろん、同大会のなかで多くの観客を前に視覚障害者柔道のデモンストレーションも行われ、「互いに組んだ状態から始めること以外は視覚障害者柔道と一般の柔道との間に大きな違いはないこと」「組んで始めれば、みな一緒に柔道を楽しむことができること」など『組んで柔道』の可能性を伝える貴重な機会となったようです。

■さらなる上を見据えるメダリストたち

銀メダルを獲得したのは女子48kg級J1(全盲)の半谷静香選手(トヨタループス)です。昨春、右ひざの前十字靭帯を切断し、手術、リハビリを経て、今年5月の実戦復帰から国際大会は3大会目。「自国開催で、初対戦の選手も多く緊張した」というなかでの準優勝でしたが、「優勝を目指していたので、ひたすら悔しい」。それでもパリパラに向けては大きく前進した半谷選手。「来年は年女であり本厄でもあるので、焦らず着実に。勝ちたいと思うと欲を出しがちだが、1個ずつ積み上げていく1年にしたい」と言葉に力を込めました。

大ケガから復活し、銀メダルを獲得した半谷静香選手(右) (撮影:吉村もと)

銅メダル獲得は3名。女子57kg級J2の廣瀬順子選手(SMBC日興証券)は「3位決定戦で勝てたのは自信になったが、2回戦は相手に研究されて勝てなかったは反省点。次の大会に向け、上位の選手に勝てるように練習したい」と前を向きました。廣瀬選手と同じ階級で、パリの代表争いも演じている工藤博子選手(シミックウエル)は、「1週間前に左手の薬指を脱臼したなかだったので、内容は納得していないが、銅メダルを獲れてよかった。パリの争いに負けないようポイントを貯めていきたいが、順子さんに勝つというより、自分の柔道を確立させるようにがんばりたい」と改めて目標を掲げました。

もう一人、男子73kg級J1の加藤裕司選手(伊藤忠丸紅鉄鋼)も銅メダルを獲得し、「国際大会でのメダルは10年ぶりくらいなので重たい。パリへの争いに、どうにか踏みとどまれた。今後も相手より先に技を出すことをテーマにがんばりたい」と意気込みました。

佐藤伸一郎強化委員長は、「予想外の活躍をしてくれた選手も多くいたし、瀬戸も金を取れてよかった。フィジカルの強化と自分のパターン(型)を決めてはめていくパターン練習を戦略として取り組んできたが、今大会でパリでの金メダル獲得に向けたスタートラインに立てたと思う。(IJFとの連携も含め)日本で今大会を開催できたことはかなり大きい」と手応えを語りました。

遠藤義安代表監督は「パリ大会でのメダル獲得に向けて取り組んできたことが、少しずつ成果に出てきた。これからも練習環境づくりも含め、(各選手の)コーチたちとも情報を共有しながら、目標に向かって残りの3大会で確実に上げていきたい」と意気込みました。

■2028年ロス大会に向けたホープたちも

東京パラ代表などベテラン選手も多い日本勢の中で、男子60kg級J2で若手2選手がグランプリ大会初出場を果たしました。櫻井徹也選手(牛窪道場)は2回戦で、兼田友博選手(青森第一養護学校)は初戦敗退と、ともに悔しい結果ではありましたが、2028年のロサンゼルス大会に向けたホープとして貴重な経験となったようです。

33歳の櫻井選手は中2から大学1年まで柔道、ここ8年はブラジリアン柔術の経験があり、2022年に視覚障害者柔道を知ったばかり。今年5月の全日本大会に出場後、今大会のチャンスをつかみました。柔術経験から、「寝技では負けないと思ったが、立って組んでから柔道なので、やはりランキング上位選手はうまかった。結果を出せずに悔しい」と険しい表情。

今大会で国際大会にデビューし、2028年ロス大会を目指す櫻井徹也選手(右) (撮影:吉村もと)

兼田選手は32歳。高校までは野球部で活躍、社会人になってからゴールボールを始め、柔道は2年前にイチから始めた新星です。「(自身)2度目の国際大会だった。練習してきたことを出したかったができなかった。これからやりたいことがより明確になった」。世界を知り、自分を知った両選手のさらなる成長に期待です。

<日本選手リザルト>
女子48kg級J1:半谷静香=2位/同J2:石井亜弧(三井住友海上あいおい生命保険)=初戦敗退、藤原由衣(モルガン・スタンレー・グループ)=7位入賞/57kg級J2:工藤博子=3位、廣瀬順子=3位/70kg級J1:土屋美奈子(シルプレクス・ホールディングス)=5位入賞/70kg超級J2:西村淳未=7位入賞

男子60kg級J2:兼田友博=初戦敗退、櫻井徹也=2回戦敗退、廣瀬誠(愛知県立名古屋盲学校)=初戦敗退/73kg級J1:加藤裕司=3位/73kg級J2 瀬戸勇次郎=優勝/90kg級J1 松本友和(たかばクリニック)=初戦敗退、松本義和(アイワ松本治療院)=2回戦敗退

▼大会アーカイブ動画
・12月4日 大会1日目
https://www.youtube.com/watch?v=s5QaifJmOLA&t=15871s
・12月5日 大会2日目
https://www.youtube.com/watch?v=K4ZOTaT4a6Q

(文:星野恭子)