「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(472) 杭州アジアパラ大会、日本はメダル獲得総数2位。次回2026年は愛知・名古屋大会
4年に1度のアジアでのパラスポーツの祭典、「第4回アジアパラ競技大会」が10月22日から28日まで7日間にわたって中国・杭州で開催されました。本来は2022年の予定でしたが、コロナ禍の影響で1年延期されて開かれた今大会にはアジア44の国・地域から選手約3,000人が参加し、22競技でメダルを競いました。
華々しい演出が印象的だった杭州アジアパラ競技大会の開会式の様子 (撮影: 吉村もと)
日本からはチェスと囲碁を除く20競技に選手259人が派遣され、金42個、銀49個、銅59個の計150個のメダルを獲得し、国別金メダル獲得数では3位、同メダル総数では2位となりました。地元中国が金214個、銀167個、銅140個の計521のメダルを獲得し、他を圧倒。金メダル数の第2位は44個を獲得したイランでした。
日本勢の活躍を振り返りましょう。まず、今大会では来年のパリパラリンピックの出場権もかかっていた競技が3つありました。車いすテニスでは男子は小田凱人選手(東海理化)が、女子は上地結衣選手(三井住友銀行)がそれぞれ優勝し、パリ大会への個人出場権を獲得しました。卓球でも男子クラス7(立位)の八木克勝選手(琉球アスティーダ)と女子同11(知的障害)の和田なつき選手(エレファントTTC)がそれぞれ金メダルを獲得し、パリ大会への個人出場権を獲得。
卓球でパリパラリンピック出場権を獲得した和田なつき選手 (撮影: 吉村もと)
また、射撃では水田光夏選手(白寿生科学研究所)がR5種目で銅メダルを、岡田和也選手(サイネオス・ヘルス・コマーシャル)がR3で10位に入り、両選手とも規定によってパリ大会への日本の出場枠を獲得しました。
他に、団体競技では東京パラリンピックで銀メダルを獲得した男子車いすバスケットボールチームが決勝戦の最終盤で逆転劇を演じ、韓国を下して金メダルを獲得。ゴールボールは男女とも中国についで銀メダル、女子は連覇を逃しましたが、男子は過去最高位でした。
車いすバスケットボール男子は日本が韓国との激戦を制し、金メダルを獲得。写真は予選ラウンドのマレーシア戦で奮闘する赤石竜我選手(コロプラ) (撮影: 吉村もと)
個人競技では東京パラ後に台頭してきた若手や競技歴の浅い選手たちの活躍も目立ち、長期的な視点で進められてきたタレント発掘や強化策の実ってきていることを感じさせる大会ともなりました。
例えば、水泳・知的障害クラスの木下あいら選手(三菱商事)はアジアパラ大会初出場で金3、銀2と計5個のメダルを獲得。幼い頃から水泳を始め、健常者に混じって競技を行ってきましたが、パラ水泳に転向後、有望なタレント発掘事業の「ジャパン・ライジング・スター(J-Star)プロジェクト」の強化プログラムを経て国際大会デビューすると、昨年の世界選手権でも銀メダルを獲得するなどすぐに活躍。来年のパリ大会でのさらなる活躍が期待されています。
メダル5個を獲得する活躍で、閉会式の旗手に選ばれた水泳日本代表の木下あいら選手(中央)。日の丸を掲げて堂々と行進し、初の大役を果たした (撮影: 吉村もと)
J-Starプロジェクトを進める日本パラリンピック委員会(JPC)によれば、今大会にはJ-Star出身の若手選手が18人出場しており、メダリストも複数誕生したそうです。例えば、陸上競技では堀玲那選手(岡山陸協)が女子砲丸投げT20(知的障害)を11m93のアジア新記録で制し、金メダルを獲得しています。
東京パラの金メダリストたちも安定した活躍を見せました。バドミントンでは男子WH2(車いす)の梶原大輝選手(日本体育大)や女子WH1(同)の里見紗理奈選手(NTT都市開発)がともにアジア王者となりました。水泳・S14(知的障害)の山口尚秀選手(四国ガス)は出場4種目すべてで金メダルを獲得するなど、実力を発揮。来年のパリ大会によい弾みとなりました。
男子100m背泳ぎS14決勝で力泳する山口尚秀選手。大会新記録をマークして金メダルを獲得(撮影: 吉村もと)
日本勢も活躍しましたが、どの競技でもやはり中国チームの強さが圧倒的でした。2010年の第1回の広州大会につづき、中国では2回目となったアジアパラ競技大会であり、国の威信もかかった競技力強化策の充実ぶりを感じました。
それは大会運営も同様で、資金力と人材の豊富さを感じました。例えば、競技場や施設などの設備や選手村の環境は「過去大会で最高」との声も選手や関係者の間からよく聞かれましたし、ボランティアの数も多く、よくトレーニングされていて、さまざまな場面で活躍していました。また、多くの会場では学校観戦と思われる子どもたちも含め、観客も多く盛り上がっていました。
なお、次回のアジアパラ競技大会は、3年後の2026年に愛知県と名古屋市で共催されることが決まっています。日本でのアジアパラ競技大会の開催は初めてで、閉会式では大会旗が愛知県の大村秀章知事に引き継がれ、大会PR動画も場内で流されました。
10月28日に行われた第4回アジアパラ競技大会閉会式で、愛知県の大村秀章知事(左)から受け取った大会旗を振りかざす名古屋市の中田英雄副市長 (撮影: 吉村もと)
愛知・名古屋大会については資金的な課題なども聞こえており、物理面では杭州大会と同じような運営は難しいでしょう。愛知・名古屋ならではの運営の工夫やおもてなしなど、今後約3年間、準備を進めていただけたらと思います。
日本も含め、アジアのパラスポーツのレベル向上も感じられた杭州アジアパラ競技大会。この勢いを、日本の愛知・名古屋大会にうまく引き継がれ、パラスポーツの盛り上がりにつながっていくことを願います。
(文: 星野恭子)