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【おおよそ週刊J2通信】「J1昇格をめぐるもうひとつの戦い—クラブライセンス制度」

 Jリーグディビジョン2(J2)もシーズンが開幕してはや1カ月。史上最多、全22チーム中、半数の11チームがディビジョン1(J1)経験チームとなった今季は、どのクラブにとっても、最も難しいシーズンになると予想されていたが、第8節終了時点で上位にはジュビロ磐田、ジェフユナイテッド千葉などやはり経験、実力のあるチームが並んできた。その中でツエーゲン金沢は現在2位につけ健闘しているが、11月末、最終戦の第42節を終え順位表の一番上に名前があったとしても、金沢はJ1に昇格できるとは限らない。それはJ1クラブライセンスが交付されていないからである。

 

 クラブライセンス制度はJリーグが2012年から導入した制度で、発祥はドイツサッカー連盟が制定したリーグに参加する資格審査にあると言われている。その制度が世界各地に広がり、アジアサッカー連盟(AFC)がAFCチャンピオンズリーグにも導入することを決めたため、Jリーグでも基準を設けることになった。

 

 クラブライセンス制度の目的は「サッカーの競技水準や施設的水準の持続的な向上」「クラブの経営安定化、財務能力・信頼性の向上」(Jリーグのホームページより)。クラブに対し競技、施設、人事体制・組織運営、法務、財務の5分野で56項目の基準を設け審査を行い、結果により毎シーズン、J1クラブライセンスもしくはJ2クラブライセンスが交付される(J3リーグ参加クラブにも基準を設けているが、この制度とは別)。

 

 現在、J2に参加しているクラブの内、J1クラブライセンスが交付されていないのは、水戸ホーリーホック、金沢、FC岐阜、ギラヴァンツ北九州の4つ。つまりこの4クラブは今のところJ1に昇格する資格を持っていない(実際、北九州は昨季5位で権利を持ちながらJ1昇格プレーオフに参加できなかった)。

 

 当然ながら各クラブ、J1クラブライセンス取得に向け活動を行っている。金沢は今季、J2に昇格したばかりで具体的な動きはこれからだが、北九州は満たしていなかったスタジアムの施設基準(J1クラブライセンスでは入場可能数15,000人以上)に対し、北九州市が新スタジアムの建設を決定、すでに今月16日に起工式を行った。完成後15年間の管理運営費を含めた総事業費は107億円、2017年シーズンからの運用を予定しており、クラブも2年後のJ1クラブライセンス交付を目指している。

 

 水戸もスタジアムの施設基準を満たしていないが、具体的なスケジュールは未定とはいえホームスタジアムの所有者、水戸市が座席増設を含めた改修を表明している。

 

 その中で来シーズンのJ1クラブライセンスに最も近いのはFC岐阜だ。岐阜がクリアできていないのは他クラブ同様、施設基準。具体的にはスタジアムの入場可能数とクラブハウス、練習場(優先的に使用できる天然芝のピッチ)の所有である。岐阜は長らく成績、人気ともに下位に低迷していたが、昨シーズン、ラモス瑠偉監督や川口能活など知名度の高い選手が集まると人気も爆発。一気にJ1クラブライセンス取得への気運が高まった。恩田聖敬・FC岐阜社長は「千載一遇のチャンス。ラモス体制3年目である16年はJ1で戦いたい」と表明し、具体的な活動に移った。

 

 しかし問題は、クラブ自身が何も出来ないことだ。スタジアムの所有者は岐阜県であり、増席改修を行うのは県である。またクラブハウスも、クラブの財政を考えると自前で所有するのは難しく、岐阜市に建設の陳情を行ってきた。つまりJ1クラブライセンス取得に「我々はお願いするしかない」(クラブ関係者)状況。

 

 さらに時間的制約も付きまとう。ライセンス交付スケジュールでは、クラブは6月30日までに申請書類の一切を提出しなくてはならず、竣工が来シーズンに間に合うにせよ、6月までに具体的な計画を整えなくてはいけない。計画から設計、施工、完成までが1年に満たない日程での公共工事は異例であるが、岐阜県、岐阜市ともに素早く動いた。

 

 岐阜県は本年度予算から4億2800万円を投入しスタジアム改修を決定。6月中に設計を終え着工、2016年2月完成を目指している。岐阜市も様々な検討のすえ、現在チームが練習で使用している公園の隣の土地を購入、市民のためのトレーニング施設を建設し、FC岐阜が(クラブハウスとして)優先的に使用できる案を議会に諮り、同様に2億6600万円を確保した。こちらも来年1月末完成を目論んでいる。

 

 両自治体の担当者とも「他の事業では時間がかかることも関係部署の協力があり、迅速にできている」と話し、事業は順調にいっており例外的なことがない限りは大丈夫だろうという。これで岐阜は来シーズンのJ1クラブライセンス取得に一定の目処はついた。

 

 財務基準を別とすると、FC岐阜に限らず多くのクラブで、スタジアムやクラブハウス、練習場など施設基準をクリアすることがクラブライセンス取得の大きな障壁となっている。特に経営規模がJ1に比べ小さいJ2(平均営業収益約11億円、J1は平均約31億円)では施設を所有することが難しい。クラブの多くが地元自治体の施設を借りている身であり、改修、建設など、クラブの意向だけではどうにもならない部分がある。

 

 ともすると、クラブライセンス制度は関係自治体にも課せられた基準と言え、昨シーズンの北九州のように結果を残しても昇格する権利さえ与えられないという理不尽さが加わると、制度への疑問を感じざるをえない。しかし当事者である恩田社長は言う。「逆に制度がなければクラブハウスなども建てられない可能性がある。本当に地域に何が必要か考えるきっかけになっている」

 

 6月末までに申請書類を提出すると、調査、審査が行われ、もうひとつの戦いのゴールは9月末。FIB(クラブライセンス交付第一審機関)によるJライセンス判定結果が発表される。

 

〈写真:FC岐阜の本拠地・岐阜メモリアルセンター長良川競技場(Jリーグ公式サイトより〉