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「週刊Jリーグ通信」第6節「テレビは役割を果たせ」

 浦和レッズが首位を走り、ガンバ大阪が追う―。Jリーグ1部(J1)のファーストステージは、なにやら昨年の終盤と同じような展開になってきた。

 

 J1第6節、前節の時点で首位に並んでいた2チームのうち、FC東京がサンフレッチェ広島に1-2で敗れて一歩後退する一方、浦和は横浜F・マリノスに1点を先行されたものの前半のうちに2-1と逆転に成功して勝利をつかみ、第1節から続いている首位を守った。

 

 一方のG大阪は、開幕から2試合は引き分け(2-2F東京)と敗戦(0-1鳥栖)で、第2節終了時では13位だった。しかしそこから4連勝。エースの宇佐美貴史の4試合連続ゴールで、2-0甲府、3-1名古屋、3-2清水、2-0湘南と勝利を重ね、浦和(勝ち点14)と1差の勝ち点13で2位に上がった。

 

 ところで、第6節湘南戦の宇佐美の先制点は完全なオフサイドだった。

 

 右のCKからの流れでMF遠藤保仁がペナルティーエリアに送ったロビングをDF丹羽大輝が頭で落とすと、後方から走り込んだDF米倉恒貴が強烈なシュート。湘南GK秋元陽太が反応よく防いだが、ゴール前にふらふらと上がったボールに宇佐美が飛びついて頭で押し込んだ。

 

 しかし米倉がシュートした瞬間には宇佐美はこぼれ球を狙って飛び出しており、体ひとつ分ほど「オフサイドポジション」にあった。宇佐美がボールに触れた(プレーした)のは相手GKがセーブした後だったが、こうした場合にも「オフサイドポジションにいたことを利用した」としてオフサイドルールが適用されることは、明確にルールブックに書かれている。

 

150418湘南vsG大阪1点目の直前、米倉のシュートの瞬間

図.4月18日湘南vsG大阪1点目の直前、米倉のシュートの瞬間のポジショニング

 

 この試合の主審は榎本一慶氏。このプレーがあった側の副審は小椋剛氏。もしかしたら、シュートを放った米倉がそのまま走り込み、小椋副審から見ると宇佐美と重なるようにゴール前に殺到したため、小椋氏はシュートを打った米倉自身がヘディングしたと思ったのかもしれない。だとすれば、榎本主審は、笛を吹いた後に小椋副審と確認し合っていれば防ぐことができた誤審だったと思う。だがそれは今回のテーマではない。

 

 問題は、これだけ明確な誤審でありながらメディアではほとんど触れられていないことだ。私はこの日は平塚でなく他の競技場で取材していた。この試合を中継したのは、Jリーグの全試合を中継している「スカパー!」である。その放送でも、そしてその夜に放送されたNHK BS1の「Jリーグタイム」でも、スカパーの「Jリーグ マッチデーハイライト」でも、この宇佐美のゴールがオフサイドであったことはまったく触れられていないのだ。

 

 現代のテレビ放送というメディアには、他のメディアには絶対にまねのできない長所がある。「リプレー」である。すばらしいゴールをいろいろな角度から繰り返し見せて、いかに得点が決まったかを詳細に理解させてくれるツールだ。

 

 私は、サッカーは競技場で見るものと思っている。しかしただひとつ競技場での観戦がテレビに絶対にかなわない点が、「リプレー」があることだ。

 

 「リプレー」が威力を発揮するのは得点のときだけではない。反則があったらその反則を再生し、どのようなファウルをしていたのかを明らかにする。あるいは反則ではないのにレフェリーが誤審をしたことを明らかにする。

 

 そして何より、本当にオフサイドだったかどうかを明確に検証できるのがテレビのリプレーだ。ワールドカップや欧州のサッカー中継では、副審と同じようにDFラインを追って動くカメラを使い、味方がプレーした瞬間でVTRを止めてDFラインに線を引き、オフサイドであったかどうかをいちいち検証している。カメラが動かなくても、DFの最後尾にラインを引くことのできるソフトもある。

 

 ところが、スカパーも、毎週1、2試合を放送するNHK BSも、オフサイドかどうかの検証をほとんど行わないのだ。

 

 「番組制作の予算が限られているから、オフサイドを検証するカメラまで手が回らない」と放送局は言う。しかしリモートコントロールの小型カメラをペナルティーエリアのラインの延長上に固定するなど(それだけでかなりカバーできるはずだ)、工夫次第でいくらでもできのではないか。

 

 オフサイドをしっかり検証しないのは、放送局の怠慢なのか、それとも「誤審」を暴いて騒ぎを起こしたくないのか。いずれにしても、現在のJリーグ放送は「テレビ放送」の本来的な役割を果たしておらず、まったくの欠陥放送と言える(「欠陥放送だから競技場に行ったほうがいいよ」という、入場者を増やすためのJリーグ支援策なのだろうか…)。

 

 また「Jリーグタイム」や「マッチデーハイライト」のようなダイジェスト番組で宇佐美のゴールを流して「オフサイドではないか」というコメントのひとつも出ないのは、ジャーナリズムとして機能していないと言わざるをえない。

 

 宇佐美のオフサイドを見逃して得点にしてしまったのは大きな誤審だった。しかしもしオフサイドかどうかを中継のなかでしっかりと検証する放送ができれば、スタンドからはまったくオフサイドに見えないオフサイド判定や、オフサイドにしか見えないのにプレー続行とされたケースの大半(おそらく9割以上)が正しい判定であることがわかるはずだ。すなわち、レフェリーたちの優秀性をファンに訴えるうえでも、「オフサイド検証リプレー」は不可欠と思うのだ。

 

〈写真:ガンバ大阪宇佐美選手(Jリーグ公式サイトより)〉