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【週刊Jリーグ通信】第5節「G大阪を勝利に導く宇佐美のシュートは、日本代表も牽引する?」

 昨年3冠のガンバ大阪のエンジンが温まってきた。第3節から3連勝。勝ち点を10に伸ばし、気がつけば首位に並ぶ浦和レッズとFC東京(ともに勝ち点11)に1差と迫っている。その3連勝を牽引するのは、FW宇佐美貴史(22)のシュートの才能だ。

 

 宇佐美はこれまでの5試合のうち4試合で得点。総得点は6でランキングのトップ。第4節と第5節はともに2得点でチームを勝利に導いている。

 

 宇佐美の今季の6得点を振り返ってみよう。

 

 今季の得点「第1号」はF東京との第1節。後半8分に宇佐美自身へのファウルで得たPKをけった。G大阪の本来のPKキッカーはMF遠藤保仁だが、このときは宇佐美が遠藤に「自分にけらせてほしい」と要求し、受け入れられたという。しかしG大阪の長谷川健太監督は後に「PKは遠藤」とチームに再確認したというから、苦々しく思ったに違いない。

 

 「第2号」は1節おいて甲府との第3節。自らのシュートが当たり損なったこぼれ球をMF阿部浩之が決めて先制した直後の後半19分、前線でFWパトリックがポイントをつくり、阿部に下げたボールがゴール正面20メートルの宇佐美に渡ると、宇佐美は足元にぴたりと止めて相手DFが出てくるところを2タッチ目で右斜め前に出してかわし、そのまま右足を振り抜いて左隅に決めた。

 

 「第3号」は第4節名古屋戦の前半終了間際。左サイドでボールを受けた宇佐美は中央の見方に低いライナーでパスを送ったつもりだったが、相手DFの頭に当たって方向が変わり、ゴールに吸い込まれた。最初は「オウンゴール」と発表されたが、後に「宇佐美の得点」と変更された。

 

 「第4号」は同じ名古屋戦の後半4分。右からDF米倉恒貴が突破、ゴールライン際から戻したところを宇佐美が右足ワンタッチでゴール左に送り込んだ。米倉の突破に合わせてゴール方向に動いていた宇佐美だったが、米倉がパスを出す直前には止まっていた。これによってマークが外れ、フリーでのシュートとなった。

 

 「第5号」は第5節清水戦、0-0の前半29分、MF阿部が相手ゴールに向かって送ったパスを清水DF平岡康裕が頭でクリアしようとしたが、宇佐美がその頭の前に右足を上げてボールに触れ、平岡の背後に落とすとワンバウンドしたボールを前進するGKよりも早くとらえて叩き込んだ。

 

 そして「第6号」は2-2の同点で迎えた後半40分。ペナルティーエリア前で相手ゴールを背にしてボールを受けた宇佐美は、目の前を左に走り抜けたFWパトリックに相手守備陣がつられたと見ると右に反転、タックルにくる相手をかわすと、右45度、ゴールまで10メートルから思い切り右足を振り抜き、ゴール右上隅に決めた。

 

 6ゴールはすべて右足。PKによる「第1号」と「オウンゴールぎみ」の「第3号」を別にすると、どれも非常に美しいものだった。

 

 宇佐美のシュートの才能の第1のポイントは、シュートを打つための「スペース」を自らつくり、タイミングを逃さずに使っていることだ。甲府戦で決めた「第2号」と、名古屋戦の「第4号」にそれが表れている。甲府戦では意図的に足元にぴたりと止めることで相手DFを引き寄せ、それによって生まれるスペースを即座に使って得点した。名古屋戦の「第4号」は、「動いてきて止まる」ことでスペースをつくった。

 

 第2のポイントは、瞬間的なスピードと足の振りの速さだ。甲府戦のゴールは、生まれたスペースを振りの速さで生かして決めたものだった。清水戦の「第5号」は、平岡をかわした後、ボールは宇佐美と相手GKとの間に落ちた。普通ならGKが処理できるか、悪くてもシュートを体でブロックできるはずのタイミングだったが、宇佐美は素早くバランスを立て直してボールに寄ると、驚くべき速さで再びボールにタッチしてゴールに送り込んだ。

 

 そして何よりも宇佐美のシュートの才能を示したのが、清水戦の「第6号」だった。右45度から宇佐美がゴールに迫ったとき、多くの人が日本代表のウズベキスタン戦で宇佐美が決めたゴールを思い浮かべたのではないか。あのときも、ドリブルでペナルティーエリアの右にはいると、宇佐美は低く鋭いシュートをゴール左隅に決めた。

 

 しかしこの清水戦、宇佐美は力いっぱい右足を振り抜くと、ゴール右上隅に決めたのだ。

 

 右45度からもってはいったとき、シュートのポイントは2つある。ひとつは左下隅。プロでも95%はここを狙う。

 

 しかしきちんとけることができるなら、より得点の確率が高いのが右上隅なのだ。相手GKは左下隅へのシュートを予測するからその準備をする。右上隅へのシュートは、距離としてはGKから近くても、予測の裏をつくからGKの反応は遅れ、また、低いシュートと比較すると高いシュートはコースの把握が難しく、その分防ぎにくくなる。

 

 ところがここを狙ってシュートを決められる選手はJリーグの日本人FWではほとんどいない。昨年のリーグで川崎フロンターレのFW大久保嘉人(32歳)が同様のシュートを決めたが、宇佐美は、「第6号」で2年連続得点王の大久保なみのシュートの才能の持ち主であることを証明した。

 

 才能には疑いのない宇佐美。しかし本物の「日本のエース」になるには、まだまだ課題が多い。なかでも90分間戦うことのできるフィジカル面の強化は不可欠だ。また、厳しいマークに合うとサイドや中盤に「逃げる」傾向も是正しなければならない。

 

 宇佐美が課題を克服し、才能をフルに発揮し始めたら、G大阪だけでなく、日本代表も日本のサッカーも、一歩前進できるはずだ。

 

 

〈写真:G大阪・宇佐美選手(Jリーグ公式サイトより)〉