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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(460) 視覚障害アスリートの祭典、開幕間近。ブラサカ、ゴールボールはパリパラ出場なるか?

パラリンピックはさまざまな障害を対象にしたパラアスリートの総合大会ですが、視覚障害だけを対象にしたスポーツの祭典がまもなく、開幕します。「バーミンガム2023 IBSAワールドゲームズ」で、IBSAは国際視覚障害者スポーツ連盟の略称です。大会は818日から27日までイギリスのバーミンガム大学と周辺地域で開催されます。

 4年に1度、パラリンピックの前年に行われ、パラリンピック競技である柔道をはじめ、非パラリンピック競技であるチェスやボウリングなども実施されます。今年の2023年大会では11競技が実施され、ブラインドサッカー(男子)とゴールボール(男女)は来年のパリパラリンピックの予選も兼ねて行われます。全11競技に70カ国から1250選手以上が参加予定で、日本代表は6競技に計61名が選考されています。

 ▼「バーミンガム2023 IBSAワールドゲームズ」公式サイト

https://www.ibsagames2023.co.uk/

 ■“ファミリー”一丸で目標達成へ。ブラインドサッカー

 ブラインドサッカー競技では今年のワールドゲームズは「世界選手権」として行われ、ブラインドサッカーには日本から男子代表と女子代表、そして、弱視者を対象に各自の視力のまま競技を行う、ロービジョンフットサル代表の3チームが出場します。3チームとも日本ブラインドサッカー協会の所属であり、3チーム合同の壮行会が729日、都内で開催され、各チームの監督やキャプテンらが大会への目標や意気込みを語りました。

 

日本ブラインドサッカー協会が主催して行われた世界選手権壮行会で整列する日本代表3チーム。ブラインドサッカー男子日本代表を中央に、左側に女子日本代表、右側にロービジョンフットサル日本代表

 ブラインドサッカー男子代表はパリパラリンピックの出場枠獲得に挑みます。全16チームが出場する今大会で上位3チーム(大陸別選手権で出場権獲得済みのチームを除く)に入ると、出場権を獲得できます。

 世界ランキング4位の日本はグループAに入り、15日の初戦でイタリア(16)、17日にタイ(5)、19日にトルコ(9)の順に対戦(カッコ内の数字は世界ランキング)。グループ上位2チームが決勝トーナメントに進出します。

 他にグループBはイングランド(12)、ドイツ(17)、アルゼンチン(1)、中国(6)、グループCはコロンビア(11)、スペイン(3)、フランス(8)、マリ(17)、グループDはイラン(13)、ブラジル(2)、メキシコ(10)、モロッコ(7)です。

 なお、パリパラ出場枠はすでにフランス(開催国)、中国(アジア1位)、トルコ(ヨーロッパ2位)、モロッコ(アフリカ1位)の4チームが獲得済みで、アメリカ代表枠は11月に開催されるパラパンアメリカン選手権の優勝国に与えられます。日本代表にとってはこの大会がパリパラへのラストチャンスになります。

 ・中川英治監督

「半年前のアジア選手権は3位という結果で(パリパラ出場を逃し)、世界選手権前はプレッシャーで恐れを感じるかと思ったが、今は早く試合がしたいと楽しみな気持ちでいます。5月にブラジル遠征(銀メダル)、6月にフランス遠征(銅)を行い、成果と課題を整理しました。選手たちも自信になっていると思います。チーム全体として持久力やトランジションの速さは強みであり、世界で誇れるところ。突き詰めてやって行きたいし、とにかく(パリパラ)出場権を獲って帰ってきたいです」

 ・攻守の要、川村怜キャプテン

「パリに向けてのラストチャンス。このチームで1分、1秒でも長く夢を追ってプレイしたいです。決して簡単な道のりではありませんが、最高の準備をして最高のパフォーマンスをして、パリパラ出場権を獲得し、全国のブラサカファミリーの皆さんと一緒に勝利を喜び合いたいです。中川監督のもと、ベテランと若手がうまく融合しながら強みを生かし合ってハードワークし、世界で勝ち切るサッカーを見せたい。個人としてはゴールを決めてチームを勝利に導きたいし、苦しい局面で、チームを救える選手になりたいです」 

パリ切符獲得への意気込みを語る男子日本代表の川村怜キャプテン(左)。右後方は中川英治監督

 ・チーム最年少、16歳のエース、平林太一選手

「代表入りしてから1年と数カ月経ちますが、最初からパリ出場権獲得をチームの目標としてやってきたし、僕の人生のなかでも山場になると思っています。僕には点を取ることが求められているし、ドリブルでゴールまでもっていくことが僕の強み。すべてを出し切れるように、勝ちにつなげられるようにしたいです」

 ・チーム最年長、44歳のエース、黒田智成選手

「新しいメンバーの力も伸びているので、チーム全体で一番力を出せる戦い方になると思います。自分も得点が欲しい場面で起用されると思うので、役割を果たし、日本の勝利に貢献したいです」

 ■初代王者へ! ブラサカ女子代表

 ブラインドサッカー女子代表は2017年から正式に編成され、女子カテゴリーとしては第1回となるこの世界選手権で初代王者を目指します。当初は202011月に予定されていたナイジェリア大会がコロナ禍で延期となり、2111月大会も中止、ようやく初開催となります。現在のところ、女子はパラリンピックではまだ実施はなく、世界選手権が世界最高峰の大会となります。

 2017年に初めて女子だけの国際大会が実施され、数カ国混成チームもあるなか、日本代表は優勝。昨年11月のアジア選手権(インド)ではインドチームと戦ってアジア王者になり、今季はドイツと並び、世界ランキング1位となっています。

 女子カテゴリーには全8チームが出場し、日本はグループAに入り、14日に開催国、イングランド(2)と、15日にスウェーデン(-)、17日にモロッコ(3)と対戦し、決勝進出を目指します。グループBはインド(2)、アルゼンチン(3)、ドイツ(1)、オーストリア(-)となっています。

 20221月から指揮を執る、山本夏幹監督

「『11ミリでもいいから成長していこう』と少しずつ積み上げてきました。互いのコミュニケーションの質も上がってきて、いい状態でバーミンガムを迎えられます。選手にとっては待ちに待った世界大会。いよいよ自分たちが輝ける場がこうして用意してもらえていることに感謝していると思うし、そのワクワクした気持ちをピッチのなかで表現しようというのが我々のやりたいサッカー。優勝を目標に、まずは目の前の相手に勝つという目標をシンプルにもちながら戦っていきたいです。応援ください」

 ・得点力にも期待、竹内真子キャプテン

「まだまだ成長できるチーム。大会期間中もたくさんのことを吸収して、11戦後悔することなく精一杯戦いたいです。皆がボールを持てるし、切り替えも速くなっているので、みんなで点を取りにいきたい。見て、面白かったなと思ってもらえるよう、私たちもワクワクして戦いたいです。優勝するためにバーミンガムに行ってきます」


マイクを手に優勝への意気込みを語る、女子日本代表の竹内真子キャプテン。左後方は山本夏幹監督

 ・世界トップ級のストライカー、菊島宙選手

「女子はパラリンピックもなく、国際大会もほとんどなく、やっと世界選手権が初開催されます。一番は優勝ですが、11戦を噛みしめて大切に試合をしたい。自分の強みはドリブルシュート。得点を量産してチームに貢献したいです。(女子として初の国際試合があった)17年よりも参加チームが8チームに増えました。自分たちと同じようにブラサカを楽しんでくれる女子が増えてくれて嬉しいです」

 ・東京パラ後、ゴールボール日本代表から転向、若杉遥選手

「こうしてまた、世界の舞台で戦え、世界一を狙えるチャンスや競技に打ち込める環境をいただけていることに感謝でいっぱいです。やりがいや楽しさを感じていますし、観ている人たちにもブラサカの魅力を伝える試合をしたいです。(ゴールボールからの転向で)課題は足元の技術だと感じ、自宅でもボールを蹴る努力をしたり、相手への身体の寄せ方やコースの切り方はだいぶイメージがついてきました。謙虚な気持ちを忘れず、自分がやれることをしっかりやってチームに貢献したいです」

 ■弱視選手が自身の視力でプレイ、ロービジョンフットサル

 ロービジョンフットサルはブラインドサッカーのようなアイマスクは着用せず、それぞれの見え方でプレイします。「右側が見えにくい」「視野が狭い」など互いの特徴を理解し、互いに補い合うことが競技の難しさでもあり、醍醐味でもあります。

 競技人口はまだ少なく、国内で活動するクラブチームはまだ3つ。パラリンピックの正式競技入りしていないこともあり、知名度や普及度向上が課題であり、世界選手権がブラインドサッカーと併催される今回は競技をアピールする絶好の機会でもあります。

 今大会には全7チームが参加し、グループBに入った日本(世界ランキング7位)は16日に世界王者のウクライナ(1)、19日にトルコ(4)と対戦し、まずは世界選手権初勝利を目指します。なお、グループAにはイタリア(5)、スペイン(6)、イングランド(2)、フランス(-)が入っています。

 20219月に就任、金川武司監督

「ここ数年で最大の目標にしてきた大会で、選手たちは限られた時間のなかで、最大限の努力をしてきました。見えにくいなかでも見えるものがあり、支え合い工夫を重ねてきました。目指すフットサルは切り替えが速く、何かが起きてからどうするではなく、常に最高の準備をして臨むスタイル。合言葉は、『切り替え0秒』です。今大会ではまず、(世界選手権での)初勝利、そして予選突破を目指し、目の前の目標をひとつずつクリアしていきたいです。一緒に戦ってください」

 ・チームを牽引、岡晃貴キャプテン

1年半前にチームが発足しキャプテンを任されてから、『感謝を結果で表そう』とチームでは話してきました。チームとして芯ができ、『切り替え0秒』という新たな戦術で準備しチーム力も上がっています。初戦で世界チャンピオンのウクライナと戦えるので、1勝を挙げて夢や勇気を与えて、いい波を起こしたいです。(ブラサカ男女と)3カテゴリー一緒に“ブラサカファミリー”として戦えるのは嬉しい。しっかりと結果を残すことが大事だと思っています」 

世界選手権初勝利へ健闘を誓う、ロービジョンフットサル日本代表、岡晃貴キャプテン(右から3人目)

 なお、壮行会では、元サッカー日本代表で、日本障がい者サッカー連盟の北澤豪会長も来場。「3チームとも、しっかりした信念に基づいて準備をされていると感じました。勝負の世界なので何が起こるか分かりません。いろいろなトラブルを楽しめる状況でないと勝ち取れません。強いプレッシャーも楽しみながら、日本のために、仲間のために頑張ってほしい」とエールを送っていました。

 ■ゴールボール男女日本代表も、パリ切符獲得目指す

 ゴールボールは男女ともパリパラリンピック出場枠がかかります。各16チームが出場し、それぞれまだ出場枠を獲得していないチームの中で最上位に入ったチームにパリへの切符が与えられます。男子は予選グループXに、女子は同Bに入り、それぞれパリ切符獲得を目指します。

 男子予選

グループX: 日本、リトアニア、ドイツ、フィンランド、韓国、エジプト、イギリス

グループY: アメリカ、トルコ、イラン、ウクライナ、アルゼンチン、ギリシャ、オーストラリア

 女子予選

グループA: アメリカ、ブラジル、カナダ、フィンランド、ウクライナ、ドイツ、デンマーク

グループB: 日本、イスラエル、中国、オーストラリア、イギリス、ギリシャ

 ▼ゴールボール日本代表(男子・女子)

https://jgba.or.jp/2023/07/07/2023-ibsa-world-games-players/

 大会は27日まで行われます。ぜひ、応援ください。

 (文・写真:星野恭子)