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ハリル・ジャパン分析!「『前に速いサッカー』は諸刃の剣」

 バヒド・ハリルホジッチ監督が就任して2戦目、日本代表は3月31日に東京の味の素スタジアムでウズベキスタンを5-1で下し、連勝を飾った。

 

 前半6分にMF青山敏弘のロングシュートで先制、後半9分にはDF太田宏介のクロスをFW岡崎慎司が頭で決めて差を広げ、後半30分には相手FKを奪ってのカウンターからMF柴崎岳が3点目。左CKからウズベキスタンに1点を返されたものの、38分にFW宇佐美貴史、45分にFW川又堅碁と交代出場の選手がたたみかけた。

 

 ゆっくりとパスをつないで相手守備のギャップを探す「ポゼッション・スタイル」を捨て、相手ゴールに向かってスピーディーに攻め込むサッカーを掲げるハリルホジッチ監督。この試合は前線に本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、乾貴士と欧州のクラブでプレーする選手を先発させ、それらの選手を交代させながらも、90分間速い攻撃を貫いた。その結果が、シュート21本、5得点という勝利だった。

 

 だがこの試合には奇妙な側面があった。日本代表のボール支配率が相手を下回り、44.6%だったのだ。前半は50.7%。しかし後半は38.4%に下がった。これまでのアジアのチームの対戦では常に日本が支配率で上回ってしたし、ハリルホジッチ監督の初戦、3月27日のチュニジア戦も前後半とも相手を上回り、試合通算では54.2%だった。

 

 ウズベキスタン戦のロスタイムを入れた後半の47分04秒間のなかで、日本がボールを保持していたのは10分14秒間にすぎなかった。そのなかで13本のシュートを放ち、4ゴールを挙げたのだから、日本の攻撃がいかに効率的だったのかがわかるだろう。

 

 「速く攻める」とは、ボールを奪ったらできるだけ早く前線に送り、そこから下げずにゴールに向かっていくという形。相手に守備を固める時間を与えず、相手より走り勝って攻めきろうという考え方だ。

 

 速い攻撃を指向するようになったことで、前線の選手たちのボールなしの動きは格段に増えた。味方がボールをもっているときの周囲の選手の動き方がまったく変わったのだ。動きだしが早くなり、スプリントが多くなり、そしてそうやって動いている選手の数が格段に増えた。

 

 手元にデータがあるわけではないが、選手の「走行距離」を、味方がボールを保持しているとき(すなわち攻撃時)と、相手が保持しているとき(守備時)で比較すると、以前よりずっと攻撃時のランニングが増えているはずだ。それもスプリント数が増えているのではないか。攻撃が活性化したのは、そうした「ボールなしの動き」の増加がベースにある。

 

 だが逆に見れば、このサッカーでは、ボールを奪ってから失うまでの時間が短くなり、必然的にそこから相手に攻撃を許すことになる。ハリルホジッチ監督はボールを失ったらそこから即座に守備にはいり、できるだけ前で奪い返すという考え方を示しているが、最初の守備がうまくいかないと、あるいは相手がうまく切り抜けると攻め込まれることになる。

 

 この試合では、前半に7本、後半には8本、計15本ものシュートをウズベキスタンに許している。後半に限っていえば、ウズベキスタンに日本の1.5倍の16分25秒間もボールをもたれ、61.6%の支配を許している。

 

 支配率や保持時間自体は問題ではない。しかしその間に8本ものシュートを許し、1点を奪われたのは少し考えなければならない。

 

 今回来日したウズベキスタンはベテランを外し、多くの若手を入れていたが、過去の対戦時と比較すると攻撃面が非常に洗練されたチームだった。アルゼンチンのMFディマリアを思わせる左利きのMFラシドフのような才能ある選手も出てきている。とはいっても、ウズベキスタンはブラジルではない。個々の力で圧倒されるチームではない。

 

 攻撃面では良いものが出た日本代表だったが、チームとしての守備は機能せず、残念なことに「ノーガードの打ち合い」のような試合になってしまった。すなわち、この試合の「速い攻め」は、同時に相手の攻撃を容易にする「諸刃の剣」でもあったのだ。

 

 ワールドカップで優勝したドイツは、速い攻めをベースにしつつ、ボールを取り戻す力も強く、ほとんどの試合で相手を上回る支配率を示し、守備も安定していた。

 

 だが、その攻撃から守備にどう切り替え、どうポジションをとって組織的な守備を構築することができるのか、次の段階では、そこが焦点となるだろう。

 

 

〈写真:日本サッカー協会ホームページより〉