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【佐野稔のフィギュアスケート4回転トーク 2014~15ヴァージョン(11)】男子は三つ巴 女子はトリプル・アクセルの時代へ!? ~2015世界選手権を振り返って<第3回> 

●予想もしていなかった小塚と無良の惨敗 

 女子の来シーズンの世界選手権出場枠「3枠確保」が嬉しい誤算なら、男子の「1枠減少」は悲しい誤算でした。まったく予想していなかった。‘まさか’の出来事でした。小塚崇彦にしても、無良崇人にしても「君たちはそんな低いレベルで争っている選手じゃないだろう」と言いたくなるくらい。残念な気持ちです。

 

 無良にしてみれば、今シーズンはスケート・カナダの優勝でスタートしたはずだったのに、そこからずっと下降線をたどってきた。両選手それぞれにとって、この大会は‘意地の見せどころ’だったはずです。

 

 ですが、かえってそれがリキみにつながってしまったのか。SP(ショート・プログラム)は完全な空回り。フリーではそれなりに順位を上げたとはいえ、まるで納得のいかない内容でした。

 

 もちろん誰よりも悔しい思いをしているのは当人たちでしょう。それでなくても、今月上旬に行われた世界ジュニア選手権では宇野昌磨が優勝、山本草太が3位と、才能豊かな後輩たちが突き上げてきているのです。このオフには、一度すべてをやり直すくらいのつもりで、再出発して欲しい。

 

●大会として、見応えのあった世界選手権

 8度目の出場で、ついに初優勝となったハビエル・フェルナンデス(スペイン)については、ソチ五輪からずっと難易度の高いプログラムに取り組んできて、今回は大半のジャンプを成功させてみせた。なかでもSPに関しては、もっと点数が出てもおかしくないくらい良い出来でした。まだスピンの粗さなど、ところどころに改善の余地はありますが、世界の頂点に立つにふさわしい演技を見せてくれました。

 

 3位のデニス・テン(カザフスタン)ですが、場内に流れる音楽のミスがあって、かわいそうな面はありましたが、SPでのつまずきが大きかった。ひじょうに素晴らしかった先月の四大陸選手権の演技と較べると、やや落ちた印象を受けました。フリーの得点だけを見れば、金メダルのフェルナンデス、銀メダルの羽生結弦より高かったのですから、余計にもったいなかった。底力を持った選手であることは間違いありません。

 

 今回の世界選手権は、ソチ五輪金メダリストの羽生、欧州選手権優勝のフェルナンデス、四大陸選手権優勝のデニス・テンと、個性の異なる3人の王者がそれぞれの力を出し合いながら三つ巴にぶつかった、ひじょうに見応えある面白い大会でした。

 

 しかも羽生が20歳、フェルナンデスは23歳、デニス・テンが21歳と、この3選手はいずれも若く同世代です。おそらくこの3人が、2018年の平昌(ピョンチャン)五輪まで、世界の男子フィギュアをリードしていくことになるのでしょう。そういった意味で、五輪の翌シーズンに行われた大会にふさわしい、次の五輪までの新たな戦いを予感させる、男子の世界選手権でした。

 

 

●女子もトリプル・アクセルが欠かせない時代に!?

 女子シングル優勝のエリザヴェータ・トゥクタミシェワ(ロシア)については、ひとり別次元の内容でした。18歳とは思えない、あの妖艶さ。なによりSPで披露したトリプル・アクセルは見事でした。じつは以前から、彼女がトリプル・アクセルを成功させている映像が動画サイトにアップされていて、日本の関係者の間でも話題になっていたのですが、世界選手権の大舞台であれだけキッチリ成功させてくるとは。驚きました。

 

 なんとも憎らしいことに(笑)、記者会見では「女子フィギュアも進化していかなくてはいけない」なんて話していましたけど、たしかに現在男子で4回転ジャンプが不可欠なように、来シーズン以降は女子でもトリプル・アクセルを組み込まないと、世界のトップには立てない日が来るのかもしれません。

 

 今シーズンはあらゆる大会を総ナメ、ロシア勢が女子フィギュア界を席巻しました。彼女たちと互角に勝負していくには、より高難度のジャンプ、たとえば「3回転+3回転」のコンビネーションを、プログラムに入れていく必要があるかもしれません。あるいは、樋口新葉のようにトリプル・アクセルの完成を目指すべきでしょう。少なくとも今のままでは、ちょっと手が付けられない存在です。

 

 ただし、トゥクタミシェワに関しては華々しくデビューしていながら、その後の体重増などで一度は「消えかけた」存在でした。心身ともに絶好調ないまの状態を、3年後の平昌五輪までキープしていけるのかと言えば、やや疑問が残ります。それでなくても10代の女子選手たちは体型の変化が激しくて、将来が読みにくい。体重が軽いからこそ跳べるジャンプ、少女の柔軟性があるからこそ可能なスピンなどもあるわけです。

 

 だからといって、ロシア勢の「自滅」を待っていても仕方ありません。ぜひ日本の女子選手たちには、今大会で銀メダルに輝いた宮原知子のように、自分にしかないオリジナルの武器を磨きあげて、対抗していって欲しいと思います。

 

(佐野 稔)

PHOTO by David W. Carmichael (http://davecskatingphoto.com) [CC BY-SA 3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0)], via Wikimedia Commons