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【佐野稔のフィギュアスケート4回転トーク 2014~15ヴァージョン(12)】安定のフィギュアを称賛したい 宮原知子の銀メダル ~2015世界選手権を振り返って<第2回> 

●薄皮を積み重ねるように手にした銀メダル 

 初出場の世界選手権で銀メダルを獲得。先月の四大陸選手権では負傷の影響もあってフリーでミスをくり返した宮原知子ですが、しっかりと立て直して、いまの自分にできることを全力でやり切りってみせました。

 

 彼女の表現する世界は、けっして派手ではありません。たとえば、金メダルを獲得したエリザヴェータ・トゥクタミシェワ(ロシア)のような「妖艶さ」とは、真逆のタイプです。それでも、薄皮を一枚一枚積み重ねるように、コツコツと精一杯努力を続けてきた。常に自分の持てる力を、すべて出し切ってきた。そして、それがいま報われている。そこが日本人の琴線に触れると言うのか。なんとも「いじらしい」じゃないですか(笑)。

 

 とかく華やかさにばかり注目されがちなフィギュア界にあって「宮原のようなやり方もあるんだな」と、参考にして見習うべき選手です。似たような課題に突き当たっている後輩のスケーターたちに、希望を与えてくれる存在です。

 

 

●その安定感は、真似のできない武器に

 この大会でも、ミスらしいミスはフリー後半の3回転ルッツだけ。そのほかの滑りは、ひじょうに安定していました。それと同時に、いまの自分が持っている技術を最大限に活かして得点をアップするために、彼女は身体も頭もフル回転させています。初優勝した去年の全日本選手権のときにも話題になりましたが、演技前半のコンビネーションを「3回転ルッツ+2回転トゥ・ループ+2回転ループ」に変更する代わりに、基礎点が1.1倍になる後半に「ダブル・アクセル+3回転トゥ・ループ」を2度入れる構成変更などは、その象徴だと思います。

 

 ともすれば、これまでは地味で面白みに欠ける印象がありました。濱田美栄コーチのコメントなどからも、そこは課題として自覚しているようです。が、その一方で地道な努力で身に付けた宮原知子の「安定感」はここに来て、誰にも真似のできない個性と武器になってきました。17歳になったばかり、まだまだ成長の余地もあるでしょう。今回はロシア勢の表彰台独占を阻止してみせましたが、これからは世界の頂点を目指して、これまで通りにひたむきに取り組んでいって欲しいと思います。

 

●たしかな成長の跡が見られた本郷、村上

 順位としてはロシア勢、アメリカ勢を下回った本郷理華と村上佳菜子ですが、それぞれに大健闘だったと言えるのではないでしょうか。今シーズンが始まる前の時点で、私は「女子は来シーズンの世界選手権の出場枠を、3つ確保するのは難しいかもしれない」と考えていました。ところが、日本人選手が3人揃って世界選手権の最終グループで演技してくれた。これは嬉しい誤算でした。

 

 その大きな要因のひとつが、本郷の成長です。このコラムでも何度か指摘していますが、全体的な「線」がひじょうに美しくなっている。昨シーズンまでは、彼女の長い手足がかえって邪魔になり、ジャンプやスピンが汚く映ってしまうことが珍しくなかった。ですが、その欠点を克服して、今シーズン大会を重ねるごとに、どんどん綺麗になっていった。彼女の成長なしに、来年の3枠確保は難しかったはずです。

 

 また今シーズン、ひじょうに苦しい戦いを強いられることになった村上佳菜子ですが、本当によく頑張ったと思います。去年までは浅田真央や鈴木明子といった先輩たちのもと、末っ子的な立場だった彼女が、望むと望まないに関わらず、いきなり長女のポジションを与えられた。言ってみれば、ここ十数年に渡って築かれてきた日本の女子フィギュアの栄光や責任を、全部背負わされることになったわけです。相当な重圧だったことでしょう。

 

 それでも今回、世界選手権の出場3枠を途切れさせることなく、来年にバトンを渡してみせた。彼女の果たした重責は、大いに評価されてよいものだと思います。去年12月の全日本選手権のときに、自分では成功させたと思ったジャンプがことごとく回転不足と判定されて、かなりショックだったようですが、この世界選手権ではしっかりと修正がなされていました。そこも評価してあげたい。

 

 同様なことが、宮原知子のジャンプにも言えました。全日本選手権のジャッジは、‘世界一厳しい基準の判定’でした。誤解して欲しくないのですが、闇雲に厳しかったわけではありません。あくまで決められたルールに則って、キッチリと正確な判定を下していたのです。ある意味で、日本人ならではの判定だった、と言えるかもしれません。

 

 そのことで、村上にしても、宮原にしても、あらためて自分のジャンプを見つめ直すことになりました。その成果が、今回の世界選手権では見受けられました。あくまで「結果的に」ではありますが、あの全日本の判定が大きな契機となったことは間違いないでしょう。

 

(佐野 稔)

PHOTO by Luu (Own work) [CC BY-SA 3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0)], via Wikimedia Commons

 

※「佐野稔の4回転トーク~世界選手権を振り返って・第3回」は、あす掲載の予定です。