ノーボーダー・スポーツ/記事サムネイル

【佐野稔のフィギュアスケート4回転トーク 2014~15ヴァージョン(11)】羽生2連覇ならず 勝負を分けた4回転 ~2015世界選手権を振り返って<第1回> 

●見る側にとっても複雑な銀メダル 

 約4ヵ月前、氷上の衝突アクシデントで始まったシーズンを、舞台も同じ上海で、世界選手権2連覇で締めくくる―。そんな劇的なクライマックスにするチャンスは充分あっただけに、もったいないと言うべきか。それとも、よくやったと言うべきなのか。今大会の羽生結弦の銀メダルには、複雑な思いがしています。

 

 フリー冒頭に予定していた4回転サルコゥが2回転になり、続く4回転トゥ・ループでは転倒。その瞬間、私は「これはマズい」と感じました。ただ優勝を逃すかもしれないといった懸念だけでなく、そのまま立て直しが利かなくなってボロボロな演技になってしまうのではないか。そういった‘大敗’の予感がしたのです。

 

 というのも、大会前に羽生の状態について、関係者に尋ねてみても、なんとなく言葉を濁されるばかり。正確な情報がほとんど伝わってこなかったのです。SP(ショート・プログラム)の滑りを見ると、かなりの練習量を積み重ねてきたように見えました。けど、フリーの4分半というのは、SPとは別次元の長丁場です。昨年末の尿膜管遺残症の手術、年明けの右足首捻挫といった報道を聞くにつけ、演技後半に向けた体力面での不安が拭いきれなかったのです。

 

 ところが、その後はすべてのジャンプをビシビシ決めて盛り返し、最後はキッチリとまとめてしまう。そのあたりが、並のフィギュア・スケーターとは違うところ。羽生結弦が「超一流」であることの証とも言えます。

 

 

●さほど伸びなかった出来栄え点

 ただ、後半は完璧と呼べるような、あれだけ見事な演技をしていながら、点数は思ったほど伸びませんでした。特に出来栄え点(GOE)が伸び悩んだ印象です。おそらく4回転ジャンプを一度も成功できなかったことが、マイナスに作用したのでしょう。

 

 たとえばスピンの速さや美しさでは、優勝したハビエル・フェルナンデス(スペイン)より、羽生のほうが間違いなく上を行っていました。ですが、フェルナンデスはフリーで3度トライした4回転ジャンプのうち、キッチリと2度成功させた。しかも「4回転サルコゥ+2回転トゥ・ループ」のコンビネーションジャンプについては、基礎点が1.1倍になる後半に決めてみせました。

 

 現在の男子フィギュアで世界のトップに立つためには、やはり4回転ジャンプが不可欠なのです。妥当な採点だったと思います。やるべきことをやったフェルナンデスには、相応の報酬があって当然です。今回、勝者フェルナンデスと、敗者の羽生を分けた差は、4回転ジャンプを決めたか、決められなかったか。そこに尽きると思います。

 

 

●痛恨だった4回転サルコゥの失敗

 ただ、結果論であることは重々承知した上で言わせてもらえば、同じ4回転サルコゥを失敗するにしても、基礎点1.30の2回転サルコゥになってしまうのではなく、4回転した上での転倒であれば、基礎点10.50に転倒の減点やGOEのマイナスがあっても、2回転サルコゥのときよりも、差し引きでプラスになっていたはずです。最終的にフェルナンデスとは、わずか2.12点差でしたから、羽生が合計点で上回っていた可能性は大きかったのです。

 

 なぜ、このような言っても仕方のない「たら・れば」を言ったかといえば、羽生が1位だったならば、12位だった小塚崇彦との順位の合計が「13以下」となり、来年の世界選手権の出場枠を「3つ」確保できていたからです。そのことがあまりに残念で、「試練を乗り越え、よく頑張った」と称賛する気持ちだけでなく、「惜しいことをしたなぁ」との思いを、完全に消し去ることができないのです。

 

(佐野 稔)

PHOTO by deerstop (Own work) [Public domain], via Wikimedia Commons

※「佐野稔の4回転トーク~世界選手権を振り返って・第2回」は、あす掲載の予定です)