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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(451) ブラサカ日本代表、国際大会で準優勝! パリパラ出場権獲得に向け、つかんだ貴重な経験

523日にブラジル・サンパウロで開幕した「IBSA ブラインドサッカーワールドグランプリ2023」の決勝戦が27日に行われ、世界ランキング4位の日本はパラリンピック5連覇中の強豪、ブラジルに0-2で惜敗、準優勝で大会を終えました。準決勝で世界ランキング1位のアルゼンチンに勝利するなど、8月にパリパラリンピック出場権のかかった世界選手権(イギリス)を控える日本にとって大きな弾みとなる大会となりました。

 IBSA ブラインドサッカーワールドグランプリ2023」で準優勝し、銀メダルを胸に笑顔の日本代表チーム (提供:日本ブラインドサッカー協会)

 この大会はIBSA(国際視覚障害者スポーツ連盟)が主催する公認大会で、世界ランキング25位以内の8チームが出場します。開催5回目となった今年は日本、ブラジル、アルゼンチンに加え、世界ランキング5位のタイ、同8位のフランス、同12位のイングランド、同16位のイタリア、同22位のチリが出場。日本は予選グループB111分の勝ち点42位通過すると、準決勝でグループA1位のアルゼンチンを2-2からのPK戦(2-1)で下し、決勝戦に進んでいました。

 決勝では前半4分、ブラジルのエース、ノナト選手がゴール前で右からのパスをトラップして放ったシュートが日本ゴールに突き刺さります。先制を許したものの日本はその後、守備の要の佐々木ロベルト泉選手や前線の後藤将起選手を中心に堅い守りで、ブラジルの攻撃の芽を摘み、追加点を許しません。逆に前半終了間際には平林太一選手が得意のドリブル突破で相手守備陣を振り切って右足を振り抜きます。惜しくもキーパーの好セーブに合って得点にはならず、前半は0-1で終了。

 初戦のブラジル戦で代表デビューした後藤将起選手(右)。持ち味とする運動量で攻守にわたって活躍。3戦目からスタメンで起用されるなど存在感を放った (提供:日本ブラインドサッカー協会)

 後半も息詰まる展開が続きます。追加点を狙うブラジルの攻撃を守護神、佐藤大介GKが連続のスーパーセーブでしのぎます。終盤は攻守が激しく入れ替わるしびれる展開のなか、日本も川村怜主将や平林選手、後藤選手らが再三、ブラジルゴールに迫ります。が、あと一歩届かず、逆に残り6秒でブラジルのチアゴ・シルバ選手のカウンターを止められずに失点。試合はそのまま0-2で終了しました。

 ▼決勝戦(日本―ブラジル)アーカイブ映像

https://www.youtube.com/live/QM9KpYkfbys?feature=share

 このように決勝戦は悔しい結果とはなりましたが、日本の最終結果は準優勝。大会を通してみてもチームとして成長し、大きな成果となったように思います。

 楽な大会ではありませんでした。日本の初戦は地元、ブラジルとの大会開幕戦という難しい状況のなかで、結果は0-3の黒星発進。日本も攻守に進化を感じさせたものの、ブラジルの個人技やスピードなど強さを見せつけられました。2戦目は初対戦となったチリで、何度かチャンスも作りましたが、決めきれずにスコアレスドロー。予選最終のイングランド戦は予選突破には勝利しかない状況の中、果敢にチャレンジするもゴールが遠く、試合終盤まで0-0。残り約1分から、相手コーナーキックをインターセプトした川村主将が速いドリブルで厳しいマークをかいくぐって一気にゴール前に持ち込みシュート。値千金のゴールを奪い、1-0で勝利します。

 予選突破を決めたイングランド戦と決勝進出を決めたアルゼンチン戦で、貴重なゴールを奪った川村怜主将(左) (提供:日本ブラインドサッカー協会)

 苦しみながらもグループリーグを勝ち抜き、迎えた準決勝のアルゼンチン戦は今大会屈指の好ゲームとなりました。これまで未勝利の強豪に開始早々、先制点を奪われる苦しい展開の中、8分に平林選手が同点弾。後半立ち上がりにも失点したものの、残り5分でまたも川村主将がゴールネットを揺らし、同点。取られては追いつく、しびれる展開の2-2から、勝負はPK戦にもつれ込みます。

 実はこれまで日本はPK戦では苦い思いが多かったのですが、反省をいかし強化を進めてきた成果がここで発揮されます。ブラインドサッカーのPK3人制で行われますが、アルゼンチンの1人目、世界屈指のストライカー、エスピニージョの強烈なシュートを佐藤GKが見事にセーブ。一方、日本1人目の平林選手は冷静に決めてリードします。アルゼンチン2人目は成功し、日本の2人目、川村選手のシュートは惜しくも枠外となるも、アルゼンチン3人目のシュートはクロスバーに阻まれノーゴール。そして、日本3人目の後藤選手は今大会が初代表でしたが、プレッシャーの中で見事に成功。日本はアルゼンチンに初勝利という新たな歴史も作りました。

アルゼンチン戦で最初の同点弾を決め、チームスタッフから兜をかぶせられて祝福を受ける平林太一選手(中央)。左は佐々木ロベルト泉選手、右は中川英治監督 (提供:日本ブラインドサッカー協会)

 ▼準決勝(日本―アルゼンチン)アーカイブ映像

https://www.youtube.com/live/u0Z3WM_ry9A?feature=share

 今大会前に、「世界選手権に向けた課題を洗い出したい」と話していた中川英治監督は日本ブラインドサッカー協会を通じ、大会について次のようにコメントしました。「(グループリーグ)3戦目に絶対に勝利が必要となったシチュエーションは、8月の世界選手権の予選グループリーグ突破のシミュレーションにはなった」と振り返り、準決勝のアルゼンチン戦は、「これまでの対戦では受け身のゲームだったが、今回は自分たちが相手を変化させる取り組みをできたことが良かった」と手応えを語りました。

 また、決勝のブラジル戦は、「以前は歯が立たないと思うこともあったが、仕掛けて自分たちの時間を作り出すこともできた。結果的には0-2で敗戦したが、最後の失点は仕掛けていっての結果で、実質0-1だったと思うと、最後に攻め切れるかが自分たちの課題」と話し、「日本代表チームとして成長してきていると感じた。8月の世界選手権に向けて、ブラジル、アルゼンチンもさらに成長してくると思う。自分たちも成長スピードを高め、準備していきたい」と前を見据えました。

 また、同様に川村主将もコメントを寄せ、追い込まれた状況からあきらめずに戦い、自らの得点で勝ち切ったイングランド戦や2度リードされ、2度追いつけたアルゼンチン戦での手応えを語るとともに、決勝のブラジル戦について、「(0-4で敗れた)東京パラの時は何もできなかった感覚があったが、(今大会は)ブラジルも日本に苦しんでいる時間もあったように感じた。日本が取り組んでいることを実行すれば、世界でも戦える確信が持てた試合になった」と振り返りました。一方で、5試合でPK戦勝利以外では1勝のみの結果は、「厳しく受け止めている。もっと精度を上げながら、戦えるマインドと勝ち切るチーム作りに取り組んで行きたい」と課題を挙げ、さらなる成長を誓っています。

 日本はもともと堅い守備に定評がありますが、ブラジルなど個人技も高い海外選手にも2人以上で取り囲んで簡単に突破させない、組織的で粘り強い守備で進化を見せました。攻撃面でもイングランド戦やアルゼンチン戦で追い込まれてから得点できたことやPK戦で勝ち切れたこと、初戦の反省から修正して戦えたブラジルとの決勝戦など、収穫の多い大会となったのではないでしょうか。

ボールを追ってアルゼンチン選手と激しく競り合う佐々木ロベルト泉選手(右)。体を張った守備で何度もチームのピンチを救った (提供:日本ブラインドサッカー協会)

 日本代表はこの後、623日から72日までフランスで開かれる「ブラインドサッカーグランプリ in フランス2023」に出場予定。ここで最終調整後、いよいよ812日からはパリパラの出場権がかかった大一番、「IBSA ブラインドサッカー男子世界選手権 2023」(~25日/英・バーミンガム)に臨む予定です。自力で出場権をつかみ取り、パラリンピック2大会連続出場を目指すブラサカ日本代表をぜひ、応援ください。

(文:星野恭子)