星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ(73) 2015.3.5~3.10
国内外のパラリンピック競技の話題を独自にセレクトしたパラスポーツ・ピックアップ・シリーズ。今号はシーズン終盤を迎えたスキーやマラソンの大会結果に加え、2020年東京オリンピック・パラリンピックに対する意識調査(2014年笹川スポーツ財団が実施)の興味深い結果についてリポートしています。会場観戦を希望する人がオリンピックの39%に対して、パラリンピックは18.4%・・・。「2020年大会の成功はパラリンピックしだい」と言われるなか、さらなる認知、普及が必要だと感じます。注目度アップにつながるよう、当コラムもがんばります。
■東京発
・6日: 笹川スポーツ財団は、全国の20歳以上の男女2000人を対象に昨年行ったスポーツについての調査結果を発表した。今回は初めて2020年東京オリンピック・パラリンピックに関する意識調査も実施され、会場で観戦を希望する人はオリンピックが39%、パラリンピックは18.4%だった。観戦したい競技は、オリンピックではサッカーが47.8%で1位だったが、パラリンピックでは車いすバスケットボールの42.3%がトップで、車いすテニスが40.7%で2位、陸上競技が37.0%で3位と続いた。
また、大会ボランティアを希望する人はオリンピックが10・8%、パラリンピックは8・8%で、両大会とも20歳代が最も高かった。両大会に期待することは「障害のある人のスポーツ機会や環境が充実する」が82.3%でトップだった。
そのほか詳細なデータは、『スポーツライフ・データ2014』(笹川スポーツ財団著)まで。
■アルペンスキー
◎カナダ・パノラマを舞台に4日から開幕されていた、IPC(国際パラリンピック委員会)アルペンスキー世界選手権が10日に閉幕。23カ国から100選手以上がエントリーしたなか、男子7名、女子1名で臨んだ日本勢は、金1、銀2、銅3の計6個のメダルを獲得した。各日の詳しい結果は、下記の通り。
なお、アルペンスキー競技はこのあと、3月21日~24日にかけて日本最高峰の大会「2015ジャパンパラアルペンスキー競技大会」が白馬八方尾根スキー場(長野県白馬村)で開催される。身体障害(立位、座位、視覚障害)に加え、知的障害クラスも実施される。観戦は無料。
【10日の回転で金メダルを獲得した鈴木猛史選手(駿河台大学)の果敢な滑り(写真提供:堀切 功/日本障害者スキー連盟)】
・5日: IPC(国際パラリンピック委員会)アルペンスキー世界選手権2日目、「男女スーパーG(スーパー大回転)」が行われた。ソチ冬季パラリンピックの男子座位クラスで日本が金、銀メダルを獲得した種目で期待されたが、森井大輝(トヨタ自動車)の5位が最高で、この日は表彰台を逃した。
・7日: 世界選手権3日目は、スーパーG(スーパー大回転とスラローム(回転)を1本ずつ滑った2本の合計タイムで競う、「スーパーコンビ(スーパー複合)」が行なわれた。1本目のスーパーGで日本選手はミスが相次いだが、2本目のスラロームで盛り返し、座位男子の森井と同女子の村岡桃佳(正智深谷高等学校)がともに4位まで順位を上げた。
・8日: 世界選手権4日目は男女「ジャイアントスラローム(大回転)」が行われた。座位女子の村岡と同男子の森井がそれぞれ銅メダルを獲得した。日本障害者スキー連盟によれば、春を思わせる晴天のもと北斜面の硬いバーンを舞台に、レースは2本の合計タイムで競われた。村岡は1本目を終えた段階でメダル圏内の3位につけ、2本目も順位を維持、一方の森井は1本目で5位につけ、2本目で順位を上げ、二人とも初日のダウンヒルにつづき2つ目のメダルを獲得した。
【大回転で銅メダルを獲得した村岡桃佳選手(写真提供:堀切 功/日本障害者スキー連盟)】
▼選手のコメント
・村岡桃佳: 1本目は、コースの雪がすごく硬く、自分にとっては苦手な条件で、それが露呈してしまったタイム差になってしまいました。でも2本目は、セットも雪のコンディションも自分の好きな感じになり、思い切って攻める滑りができたのでよかったと思います。ただ、3位という結果に満足しているわけではないので、これからもっと上をめざして頑張っていきたいと思います。
・森井大輝: 今日のレースもそうでしたが、この世界選手権を通して、世界のレベルがすごく上がっていることを実感しています。用具に関しても滑りの技術に関しても、僕たちが優位だということはもはやないと痛感しました。ただ僕たちにも、勝つためにやれることがまだまだあります。用具やスキー技術などの部分で、ピョンチャン・パラリンピックを見据えて、やらなければいけないことが明確に見えてきたのは、この大会の大きな収穫だと思っています。
・10日: 世界選手権最終日は男女スラローム(回転)が行われ、座位男子で鈴木猛史(駿河台大学)と森井がそれぞれ金、銀メダルを獲得した。
【森井大輝選手は回転で銀メダルを獲得し、今大会3個のメダルを手にした(写真提供:堀切 功/日本障害者スキー連盟)】
日本障害者スキー連盟によれば、この日のコースはこれまでと異なり、硬い雪質に長い急斜面を併せ持つ難度の高い設定に変更され、少しのミスが命取りになる厳しいコースだったという。1本目から途中棄権者が続出するなか、座位女子の村岡が難しい急斜面を乗り切って4位に入った。同男子では森井が2位につけ、さらに、ソチ・パラリンピックで金メダルを獲得している鈴木がただ一人、急斜面を果敢に攻め、トップに立った。2本目も鈴木は実力を出し切り、森井も2位を守ってワンツーフィニッシュを達成した。
▼選手コメント
・鈴木猛史: 今日のレースは、コースが氷に近いコンディションで、朝からすごく緊張していました。スタッフの方が一所懸命にスキー板を仕上げてくれたおかけで、なんとか自分の滑りができたと感じています。2本目は、2位以下とのタイム差に余裕があったことはわかっていましたが、だからといって守りの滑りをしてしまうと、自分の悪いクセでどんどん順位を落としてしまうことが過去にもあったので、攻める気持ちだけは忘れずにいこうと決めてスタートを切りました。
・森井大輝: すごく硬いバーンの状況の中で、こうやって日本チームが1位2位をとれたことで、自分たちの技術はまだまだ世界に通用するということを確認できました。今回の大会で成績があまり振るわなかったこともあって、自分たちの技術はひょっとしたら世界から遅れているのではないかという不安もあったのですが、今日のレースでそれを払拭できて、とても良い終わり方ができたと思っています。でも、僕たちはまだまだもっと速くなれると思うので、そのために必要なことをこれから徹底的に追及していきたいと思います。
【今大会の獲得メダル】
・ダウンヒル(滑降)
銀・村岡桃佳/銅・森井大輝
・ジャイアントスラローム(大回転)
銅・村岡桃佳/銅・森井大輝
・スラローム(回転)
金・鈴木猛史/銀・森井大輝
(情報提供:日本障害者スキー連盟)
■クロスカントリースキー
◎国内最高峰の大会、「2015ジャパンパラ競技大会」が7日~8日にかけて長野県白馬クロスカントリー競技場で開催された。日本障害者クロスカントリースキー協会によれば、今大会の結果を元に全日本の強化指定選手が決定される重要な大会。身体障害(立位、座位、視覚障害)に加え、ID(知的障害)クラスも実施された。
なお、2月中旬に世界9カ国が参加して行われたIPC(国際パラリンピック委員会)クロスカントリースキー・ワールドカップ旭川大会のハイライトシーンをまとめた番組が15日午後10時から、BSスカパー!で放送される。詳細はこちらへ。(再放送3月22日深夜1時~、29日午前10時30分~)
・7日: 「2015ジャパンパラ競技大会」1日目は、男女クロスカントリースキー・クラシカルが行われた。各種目のクラス別優勝者は下記の通り。
【男子】
立 位 (5km): 新田佳浩 1位 12分56秒1
座 位 (5km): 長田弘幸 1位 24分11秒5
視覚障害(5km): 高村和人(ガイド 向 広大) 1位 18分52秒1
ID(知的障害): 西村潤一 1位 15分50秒1
【女子】 2.5km
立位: 阿部友里香 1位 08分47秒8
ID: 倉部宏美 1位 12分13秒5
▼選手コメント
・新田佳浩選手: 11時前のスタートということで、雪質の変化を想定したワックスの選択ができたのが勝因だった。滑りも非常に良かったので、ノルウェーに向けて弾みのつくレースができた。ノルウェーの最終戦に向けて、もう一度世界の選手と争えるように残りの期間を過ごしたい。
・阿部友里香 選手: 今日のレースは2.5kmで短い距離だったため、前半から飛ばしていくよう心がけた。平地が多いコースだったためダブルポールや一歩滑走を多く入れたが、あまり勢いがなかったように思う。しかし登りなどでは練習通りの滑りがようやくできてきた。
・8日: 男女クロスカントリースキー・・フリーが行われた。全日程を終えて、日本代表の荒井秀輝監督は、「今日の雪は非常に重くタフなレースだった。その中でも立位男子、中学生の川除大輝選手が強い脚力をいかし3位に入ったことはチームにとっても明るい話題となった。この後チームは、韓国平昌での現地調査、ノルウェーワールドカップ最終戦に参戦する。また、聴覚障害クラスのデフリンピック、IDクラスのINAS世界選手権大会も開催される。ジャパンパラリンピックの成果をこの後の大会につなげていきたい」と話した。各種目のクラス別優勝者は下記の通り。
【男子】
立 位 (10km): 新田佳浩 1位 28分33秒3
座 位 (2.5km): 長田弘幸 1位 13分12秒4
視覚障害(10km): 高村和人(ガイド 向 広大) 1位 36分08秒6
ID (10km): 西村潤一 1位 31分16秒9
【女子】
立位(5km): 出来島桃子 1位 18分15秒9
ID(5km): 倉部宏美 1位 23分47秒9
▼選手コメント
・高村和人選手: 今大会では、クラシカル、フリー共にトップを取ることができ非常に嬉しい。クラシカルについては課題が多いものの、フリーについては今できる自分の滑りができたと思う。次のレースは海外のノルウェー。アウェイでの戦いを上手く攻略し、いい滑りをしたい。今大会を盛り上げてくださったたくさんの方々、ありがとうございました。
・西村潤一選手: 今回のレースはID選手には勝てて16連覇したけど、LWクラスの新田選手や佐藤圭一選手には負けているので、これからも頑張って、勝ちを広げたいです。
(情報提供:日本障害者クロスカントリースキー協会)
■パラ・スノーボード
◎昨年のソチ冬季パラリンピックで正式競技入りを果たしたスノーボード。その、本格的な国内大会が初めて、8日に開催された。全7名の義足選手が参加した。
・8日: 障害者スノーボード協会主催の、「第1回全国障がい者スノーボード選手権大会」が長野県白馬乗鞍温泉スキー場で開催された。スノーボードクロス競技の立位下腿義足の部に、男子6名、女子1名が出場し、3本の合計タイムで競われ、鈴木隆太が初代王者、山口明美が同女王になった。
スノーボードクロスは昨年のソチ冬季パラリンピック大会で、アルペンスキー競技の1種目としてデビューし、下肢に障害のある義足選手が参加した。日本からの出場はなかったが、今回の選手権大会に出場した選手らを中心に、18年のピョンチャン大会での初出場を目指す。
また、大会では、日頃、障害者の支援活動を行っている人や支援の意思を持つ人らを対象にした、健常者の部として、「サポーターズカップ」も併催され、参加した4選手中、田渕伸司が優勝した。
■陸上競技
◎マラソンシーズンも終盤を迎え、8日は車いすマラソンの大会も各地で行われた。
・8日: 名古屋ウィメンズマラソン2015との併催で、第2回となる「ウィルチェアマラソン(車いす)の部(クオーター・マラソン)」がナゴヤドームから瑞穂公園陸上競技場までの10.5kmコースで行われた。女子10選手が出走し、フルマラソン女子の世界記録保持者、土田和歌子(八千代工業)が24分36秒で2年連続で優勝した。
同ウィメンズマラソンは、2011年に幕を閉じたエリート選手対象の名古屋国際女子マラソン大会を引き継ぎ、2012年から新たに一般の部も加えて女性限定ながら10000人以上が参加するフルマラソンとしてスタート。ウィルチェアマラソンの部は女子だけの車いすレースとして2014年から新設された。
また同日、京都では、都府県や都市代表など計24チームが参加した、「第26回全国車いす駅伝競走大会」が国立京都国際会館前をスタートし、西京極陸上競技場にゴールする5区間21・3キロで行われた。福岡A(洞ノ上浩太、大津圭介、渡辺勝、山本浩之、田中祥隆)が44分31秒で史上2チーム目の4連覇を達成、通算5度目の優勝を果たした。2位は昨年3位の東京(鈴木朋樹、花岡伸和、安岡チョーク、吉田竜太、西勇輝)で46分32秒、3位は47分57秒で昨年2位の大分A(廣道純、渡辺習輔、佐矢野利明、河室隆一、笹原廣喜)だった。
福岡は1区の洞ノ上が8秒差の2位だったが、2区大津が区間2位のタイムで先頭に立つと、3区渡辺、4区山本がともに区間賞の走りでトップを守り、最後はアンカーの田中が2位東京に2分1秒差をつけてゴールに飛び込んだ。
東日本大震災の被災地から仙台市チーム(千葉幸市、及川幸司、高橋公博、小山敏光、小松博志)も招待されて力走、16位でゴールした。
■車いすバスケットボール
・7日~8日: 明日より千葉ポートアリーナで「第四回長谷川良信記念・千葉市長杯争奪車椅子バスケットボール全国選抜大会」が開催された。全国から男子の日本トップレベルの5チームと、関東選抜チームの計6チームが出場し、リーグ戦、決勝トーナメントを経て、昨年2位に終わった埼玉ライオンズが、昨年の覇者宮城MAXを下して、優勝した。3位は昨年と同じ、千葉ホークスだった。
車いすバスケットボールはこのあと、5月(4日~6日/東京体育館)に、日本一のクラブチームを決定する、「第43回日本車椅子バスケットボール選手権大会」が開催され、10月には男女日本代表が来年に迫ったリオデジャネイロ・パラリンピックのアジア・オセアニアゾーンの予選に臨む。会場は今大会と同じ、千葉ポートアリーナで開催される予定。
(文:星野恭子/写真提供: 堀切 功・日本障害者スキー連盟)