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日本代表新監督ハリルホジッチは日本代表の閉塞感を打破するか

 2月3日にハビエル・アギーレ監督との契約を解除して以来、さまざまな憶測や怪情報が飛び交った日本代表の後任監督選び。日本サッカー協会は3月12日(木)にボスニア・ヘルツェゴビナ生まれでフランス国籍のヴァイッド・ハリルホジッチ氏の就任を発表。新監督は翌3月13日(金)朝に来日してさっそく記者会見を行った。

 

 旧ユーゴスラビア代表のストライカーだったハリルホジッチ新監督。1952年5月15日生まれの62歳、182センチの長身、鋭い目つき。ボスニアの内戦など厳しい状況を生き抜き、モロッコ、フランス、トルコ、クロアチアのクラブチームを指導し、コートジボワール代表、アルジェリア代表を率いてきただけに、風格を感じさせた。

 

 ところで、Vahid Halilhodzicは、本来「バ(ヴァ)ヒド・ハリルホジッチ」と発音するはずである。ちなみにVahidはアラビア語系の名前で「唯一の者」という意味をもっているという。彼はフランスに長く住んでフランス国籍をもっており、この日の会見もフランス語だった。フランス人のコーチとフィジカルコーチを伴っており、今後の日本での仕事もフランス語でする。

 

 日本サッカー協会が発表したカタカナ名は、名を「ヴァイッド」というフランス読みにしていたのだが、姓は本来の発音にした。フランスではHalilhodzicは「アリロジッチ」と読むらしい。本来の読み方にするのか、それともフランス語ふうに読むのか、どちらにしろ、混在はおかしいと思うのだが…。

 

 それはともかく、日本サッカー協会から接触を受けた2週間前から、彼はワールドカップやアジアカップを中心に日本代表の試合をビデオで見て分析し、日本の選手たちはテクニックがあり、また規律があって、強くなるためのクオリティーを十分備えていると話す。しかし現在は少し自信を失っているように見えるという。そして「それは自分が変えることができる」と自信の表情を浮かべる。

 

 「私は負けることが大嫌いだ。たとえ世界最強のチームと戦うときにも、『絶対に勝とう』と選手たちに話すだろう。最も悪いのは、トライをしないで負けてしまうこと。勝負に対する気持ちを植え付けたい」と話し、今月27日(金)に大分で行われるチュニジア戦、そして31日(火)に東京で行われるウズベキスタン戦は、絶対に勝たなければならない試合だと宣言した。

 

 そして目標は2018年のワールドカップ・ロシア大会。まずは出場権を獲得することだが、それだけでなく、そこでグループを突破してラウンド16以上を目指すという。選手たちを鼓舞するために「ベスト4宣言」をした2010年大会の岡田武史監督を除くと、これまでの日本代表監督は「ワールドカップの出場権獲得が私の仕事」と語ってきた。ハリルホジッチは初めて「上位進出」を明確な目標としたことになる。

 

 彼が目指すのは、全員で守り、全員で攻めるサッカー。そしてボールを奪ったらどんどん前に出て、ワンタッチ、ツータッチでのプレーを主体にし、最後の段階では相手のペナルティーエリアで3人も4人もがプレーにかかわってゴールを目指すという。

 

 アルベルト・ザッケローニ監督が就任した2010年から2012年にかけて日本代表は大きく伸び、非常に生き生きとしたサッカーを見せていた。しかし2012年の後半から伸び悩みとなり、同時に生き生きとしたプレーが次第に消えていった。おそらくそれは、選手を固定しすぎたためだっただろう。ザッケローニは選手たちを信じ、「以前のようなプレーができるはず」と最後までほぼ固定したメンバーで戦ったが、ブラジルで2012年当時のような躍動感が出ることはなかった。

 

 それを受け継いだハビエル・アギーレは、思い切った若手の投入でチームに刺激を与えた。しかしアジアカップ(ことし1月)で「勝たなければならない」と思い始めた昨年11月以来、顔ぶれはザッケローニ時代とほとんど同じとなり、ふたたび躍動感が消えた。

 

 そうなったから監督交代になったわけではないが、結果として日本代表としては良いタイミングでそうした状況を打破するのに適した人材を得たように思う。

 

 ハリルホジッチは「確定した選手も、先発出場が決まった選手もいない」と語る。かつて指揮したチームでは、スター選手を平気でチームから外し、ファンやメディアと対立したこともあったが、勝利という結果を出して沈黙させた。

 

 「スターはチーム。個人の能力はチームの勝利のために生かされなければ意味がない」という考えの持ち主だからだ。

 

 「バルセロナのようなサッカーをするのか、ブラジルのようにプレーをするのか。いや、われわれは日本代表。日本の戦い方をしたい」と話すハリルホジッチに、「日本代表のサッカーを日本化する」と宣言したイビチャ・オシム元監督が重なる。

 

 「オシムが推薦した」という報道もあったが、今回のハリルホジッチ就任については、オシム氏は日本サッカー協会に誰も推薦しておらず、ハリルホジッチもオシム氏に相談して日本からのオファーを受けることにしたわけではなさそうだ。しかし「私の人生はフットボールに捧げている」と語るハリルホジッチは、オシム氏と共通するサッカー哲学をもっているように感じる。

 

 とにもかくにも、日本代表の命運はハリルホジッチの手に任された。閉塞感が見え始めた日本代表がどう変わり、再び活気あふれるチームになるのか、チュニジア戦とウズベキスタン戦が楽しみになってきた。

 

(大住良之/文と写真)