女子レスリングのユニフォームがビキニに? そんな馬鹿な! 吉田紗保里も猛反対
2月23日放送の『オプエド』で、『1964年のジャイアント馬場』など、プロレス関係の名著を上梓されている柳澤健氏と、「大論争」になった女子アマレス・ビキニ・ユニフォーム問題(柳澤氏は大賛成。守勢は大反対)。
その後、テレビ朝日の『ビート・タケシのTVタックル』に出演して話したりもしましたが、小生が「反対」する理由を述べておきます。
1月15日にスイス・ローザンヌで開かれた世界レスリング連盟(UWW)の理事会で、現在使用されている「シングレット」と呼ばれるレスリングのユニフォームを変更する「改革案」が提案され、話題を集めた。
日本レスリング連盟(JWF)の公式ホームページによると「若い観客にアピールするため、in variety of color(様々な色)」で「従来の赤と青を主体としたシングレット(上下一体のつなぎになっているユニフォーム)から大きく様変わりする可能性がある」らしい。
理事会では新しいユニフォーム案がいくつか紹介されが、写真撮影は禁止で、実態がよくわからないまま、次のような記述が俄然注目された。「女子はビーチバレーのユニフォームのようなセパレート・タイプも提案された」
ビーチバレーのユニフォームは男女ともルールで大きさが決められており、「女子のパンツの深さについてはサイドが7センチ以下でなければならない」とされている。ちなみに男子のパンツは丈が「膝上10センチ以上」というだけで、こちらは別に「問題」はないだろうが、女子の「サイドが7センチ以下」というのは完全にビキニである。
いや、何もここで強調しなくても、一度でも女子ビーチバレーの試合を見たことのある人なら、あれはビキニだとおわかりだろう。
しかし海岸の砂浜(ビーチ)を模したコートの上で、多くの選手がサングラスを着用し、ネットを挟んでボールを打ち合うバレーボールと、相手の身体に直接触れ合い、掴み合い、投げ合い、抑え込み、格闘するレスリングとでは、まったく競技の種類が異なる。
この「ビキニのユニフォーム」にいち早く反対し、「採用されれば引退」と表明した吉田沙保里選手の意見を聞くまでもなく、レスリングでビキニとなれば、いかに強靱な布地で仕立てられても、相手選手の手がユニフォームの内側に滑り込んだり、思わずパンツ掴む選手が現れたり、その結果脱げることまではないにしても、脱げ落ちかかってしまうことは考えられる。
もしも、そういうハプニングや女性選手の露出度アップに喜ぶ(助平男性の)視線を集めてレスリングの人気を高めようとしているなら、それこそ助平根性と言うべきで、それはショービジネスの世界の話であり、最早オリンピック・スポーツの話ではあるまい。
とはいえ最近はオリンピック・スポーツもショー・ビジネス化しており「ショーの要素」は「オリンピック・ビジネス」にも欠かせない、と反論する人がいるかもしれない。
が、レスリングとは、もともと「動物がじゃれ合う」という意味の言葉(wrestle)から生まれた格闘技で、フルネルソン、ヘッドロック、ベアハッグ、ブレーンバスター、スープレックス、コブラツイスト……等の技は、すべて動物相手に想定され、人間相手の格闘技である柔道などとは異なり、相手の着衣を掴むことが反則とされている(動物は服を着ていませんからね)。
それでも勝負となると、反則を承知で思わず相手の着衣を掴んでしまうこともあり得るから、レスリングのユニフォームは出来るだけ掴む場所の少ない上下一体型のシングレットが採用されてきたはずだ。
その点で反則がショーの要素として組み込まれ、楽しまれているプロレスと、オリンピック・スポーツであるアマレスとでは、選手の金銭授受やショーアップなどでどれほど酷似してきたとしても、両者は決定的に別種の競技なのだ。
ビキニのユニフォームがアマレスに不適格な理由が、もうひとつある。
それは肌の露出面積の拡大が、女性レスラーのレスリングに臨むモチベーション(やる気)の向上につながるとは思えないことだ。
一流のスポーツマンやスポーツウーマンには、強い自己顕示欲を持つ人物が多い。より見られること、より注目されることで、より強い力を発揮する人物が少なくないのだ。早い話が目立ちたがり屋のことで、あるスポーツ心理学者は「露出症」と名づけた(露出狂ではありませんから御注意)。
陸上競技のパンツにビキニを採用する女子選手や、肌の露出度の大きいユニフォームを好んで着用する女子テニス選手やバドミントン選手、派手な色のユニフォームを身につける卓球選手……などは、こういった傾向のあるアスリートであり、典型的な例として、ツメまで綺麗にネイリングし、派手な化粧と派手なユニフォームで陸上競技に臨んだジョイナー選手を憶えている方も多いだろう。
「露出症」をエネルギーにする選手は男性にも多く、特に野球ではチームのなかでただ一人フィールドの真ん中の山(マウンド)の上に立つピッチャーも、衆目の注目する中でただ一人打席に向かって歩くバッターも、見られることを歓びと感じる「露出症」的要素を持っていないと成功しない(名選手になれない)。
が、そういう「露出症」的要素の乏しい性格で、目立つことを好まない人は、野球でなくサッカーやラグビーといった常に大勢のチームメイトと一緒にプレイするスポーツの(それもストライカーやポイントゲッターではなく)アシスト専門選手になるべきだろう。
もうおわかりだろうが、「露出症」をエネルギーにするレスラーはプロレスラーへの道に進むべきで、細心の注意と集中力で、一瞬の技を仕掛けたり、微妙な身体の動きを察知したりするアマレスラーは、試合と技に集中するあまり、周囲の目など意識できず、それをパワーに変えているヒマなどないのが普通だ。
40年間続いたアマレスのユニフォームの変更は今年末に結論が出るが、女性の肌の露出を嫌うイスラム諸国の反対もあり、ビキニの採用は難しいとも言われる。が、話題だけでレスリングは十分注目を集めた。それが本当の狙いだったなら、今回の騒動の仕掛け人に拍手を送りたい。
(玉木正之)
※アサヒ芸能連載「日本スポーツ内憂内患」+「ビート・タケシのTVタックル」+NBSオリジナル
PHOTO by Tim Hipps [Public domain], via Wikimedia Commons