週刊Jリーグ通信 第1節「レフェリングが変わった」
23シーズン目のJリーグが開幕した。
2015シーズンのJ1は11年ぶりの「2ステージ制」。過去10年間、18クラブ他のチームとそれぞれ2回対戦し、総勝ち点で順位を決めるという、最もフェアで最もシンプルな形だったのだが、それをホームかアウェーの試合を1回ずつこなす少しアンフェアな方法でステージごとの優勝を決め、その2クラブに年間勝ち点上位3クラブを加えた最多5クラブで「年間チャンピオン」を争うという非常に複雑な方式となった。
大会方式変更の最大の要因はJリーグの財政難である。年間チャンピオンを決めるシーズン終盤のミニトーナメントの放映権収入などでスポンサー収入の減少をカバーしようというのが真意だった。「みどころが多くなる」などというたわごとを信じてはいけない。たわごとだとわかりつつ立場上そう唱えていた人びとがいつの間にかそれを真実と信じ込んでしまうのは、世の中によくあることだが…。
しかしシーズンを通じてみれば全クラブがそれぞれの相手とホームとアウェーで対戦し、年間で全34節、306試合を行うという「リーグ戦」の形がなくなるわけではない。それぞれのチームは、全身全霊を傾けてその34試合を戦い抜く。うまくいくときも、いかないときも、幸運に恵まれるときも、見放されるときもあるが、過去22シーズンのJリーグを見てきて、投げやりな試合をしたチームなど、私はいちども見たことがない。その1試合1試合にこそ、Jリーグの価値がある。1節9試合、全34節、306試合。そこにこそ、語るべきものはある。
「スターづくり」や「代表選考レース(アピール合戦)」や「個人記録」などで近年のJリーグ報道が埋め尽くされていることに、私は大きな苛立ちを覚える。それはあたかも、Jリーグの1試合1試合には何の価値もないと言っているようだからだ。
だから私はこのコラムを書くことにした。
私自身が現場で見ることができるのは、通常、1節に1試合でしかない。録画を含めても、すべての試合をカバーするのはとても不可能だ。しかしできうる限りアンテナを張り巡らせてその節の動向を探り、いまJリーグで何が起こっているかをお伝えしたいと思う。
前置きが長くなりすぎた。
3月7日(土)と8日(日)の両日に行われた第1節、私は7日に平塚で行われた「湘南ベルマーレ×浦和レッズ」を取材し、そのほかに3試合をテレビで見た。
湘南のサッカーには語るべきものがある。だがそのテーマは次の機会に回したい。第1節で私が強く感じたのは、「レフェリングの変化」である。
今季、Jリーグのレフェリーたちはちょっとしたことでは笛を吹かない。
「些細なファウルで笛を吹かれて試合が止まると、スピード感もなくなるし、国際的に活躍できるたくましい選手が育たない」と、技術サイド(日本サッカー協会とJリーグの技術委員会)から審判サイド(日本サッカー協会の審判委員会)に要請があった。審判サイドも臨むところと、本当に悪質なファウル、危険なプレー以外は笛を吹かず、プレーを続行させることにした。もちろん、全クラブの選手たちには、「ことしはこういう基準でいきます」という説明をしてある。
そして第1節の試合では、そうしたレフェリングがどの試合でもふんだんに見られた。
その結果何が起こったか。選手たちも、倒れてもすぐに立ち上がり、ボールを追い始めたのだ。倒れたままだったり文句を言っていたら、プレーから取り残されてしまう。自然に試合はスピーディーになり、迫力が増した。実際にプレーが動いている時間(アクチュアル・プレーイングタイム)も伸びたのではないか。
残念ながら第1節にはレフェリングの問題がいくつかあった。ガンバ大阪×FC東京で、完全にゴールラインを割っていたボールをG大阪FW宇佐美貴史が持ち直してパスし、そこから先制点が生まれるというシーンがあった。ボールが選手たちの体に隠れていたというわけではなかったので、なぜ副審がこれを見逃したのか、不可解だ。
またAFCチャンピオンズリーグとの関係で他の試合からひとつだけ遅れて8日(日)に開催された清水エスパルス×鹿島アントラーズ、後半24分の鹿島の同点ゴールのシーンでは、ボールはゴールラインを割っていなかった。
鹿島MF遠藤康のシュートを清水GK櫛引政敏が防ぎきれずボールはころころとゴール方向に。そこに鹿島MF金崎夢生が詰めるが、その外側から清水DF三浦弦太がスライディングしながらクリア。ボールは櫛引の胸元に収まった。映像で見るとボールはまだラインにかかっており、ゴールのはずではなかった。
もっとも、これを「得点」と認められた鹿島は、この後にFW金崎が放ったシュートを清水DF犬飼智也が腕ではじき出したシーンでPKをとってもらえなかった。ただ腕に当たったのではなく犬飼は腕を動かしてはじき出しておりレッドカードが出される場面のようにも見えた。「損得」でいえば「フィフティ・フィフティ」だったが…。
だが、こうした失敗はあったとしても、第1節に登場したレフェリーたちは例外なく些細なファウルでの笛が減り、これまで日本の審判が弱いとされてきたアドバンテージの適用も見違えるばかりによくなっていた。
強く願いたいのは、この基準を忘れず、1シーズン続けてほしいということだ。シーズン前に掲げた「新しい判定基準」が、開幕から1カ月もたつと忘れられてしまい、元の木阿弥になってしまうことが過去になんどもあった。些細なことで倒れる選手、大けがをしたわけでもないのに倒れたままで起き上がろうとしない選手など、もう絶対に見たくない。
第1節では、いくつものスタジアムで満員になり、総観客数は19万3848人。1試合平均2万1539人だった。これは昨年のシーズン通算での1試合平均観客数(1万7240人)だけでなく、昨年の第1節の平均観客数(1万9215人)も大きく上回るものだった。
そしてその多くが、激しくスピーディーな試合に「新しいJリーグのサッカー」を見る思いがしたのではないか。それを続け、さらに伸ばしていかなければならない。
(大住良之)
PHOTO by WAKA77 (撮影者自身による投稿 ( It took a picture for myself )) [Public domain], via Wikimedia Commons