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星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ(72)2015.3.1~3.5

 国内外のパラリンピック競技の話題を独自にセレクトしたパラスポーツ・ピックアップ・シリーズ。今号は、カナダで開幕したアルペンスキー世界選手権の模様などをお届けします。日本アルペン陣は昨年のソチ・パラリンピックで合計5個(金3・銀1・銅1)のメダルを獲得し、18年ピョンチャン大会に向けた新体制で臨む大舞台です。また、3月5日は1998年長野パラリンピック開会式が行われた日であり、2020年東京パラリンピック開幕までちょうど2000日という節目の日でした。大会成功に向けて何ができるか、何をすべきか。待ったなしの、あと2000日です。

 

■アルペンスキー

・4日: 2年に1度のビッグイベント、IPC(国際パラリンピック委員会)アルペンスキー世界選手権がカナダ・パノラマで開幕した。23カ国から100選手以上がエントリー。日本からはソチ・パラリンピックのメダリスト3名を含む8選手が出場する。大会は10日まで、5種目が行われる。大会のライブ配信も行われている。

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【世界選手権初日の滑降で銀メダルを獲得した村岡桃佳選手の滑り(写真提供:堀切 功/日本障害者スキー連盟)】

 IPCのアルペンスキーは3つのカテゴリーに分かれて競技が行われる。シッティング・クラスは下肢に障害があり、チェアスキーと呼ばれる専用のスキーを使って滑るクラス。座席に1本のスキー板が固定されており、またストックの代わりにアウトリガーと呼ばれる、先に小さなスキー板のような部品がついた専用の杖を使ってバランスをとりながら滑る。

 

 スタンディング・クラスは立って滑るクラスで、片足1本で滑ったり、義足で滑ったり、上肢に障害があってストックなしで滑るなど、障害よってさまざまな選手がいる。もう一つ、ビジュアリー・インペアード(視覚障害)はガイドスキーヤーが選手の前方を滑り、声や音で滑るコースを選手に指示する。

 

 各カテゴリーとも、障害の内容や程度に応じてさらに細かいクラスに分けられており、公平な勝負ができるよう「計算タイム制」が採用されている。これは、クラスごとに係数が設定され、実走タイムに係数をかけた計算タイムによって順位が決定される。

 

 初日はダウンヒル(滑降)が行なわれた。天候は晴れ。放射冷却現象によって気温が下がったことで硬く仕上がった北斜面のコースを舞台に、日本からは7選手が出場。「世界最強」ともいわれる日本シッティング陣から、女子の村岡桃佳(正智深谷高等学校)が2位、男子の森井大輝(トヨタ自動車)が3位に入り、それぞれ銀メダルと銅メダルを獲得した。

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【メダルを手に笑顔の村岡桃佳選手(左)と森井大輝選手(写真提供:堀切 功/日本障害者スキー連盟)】

 

▼選手コメント

・村岡桃佳: 2本のトレーニングランを通して取り組んできたことをふまえて、一番良い滑りができたと思います。2日連続で失敗していた急斜面への飛び込みの部分も、今日はインスペクションのときから注意して見ていて、レースではうまく滑ることができました。とても良いレースができたと思っています。

 

・森井大輝: 攻めきることができたレースだったと思います。ダウンヒルは、ところどころで抑えてしまったりして、自分の思った滑りができないことも多いのですが、今日は思う存分に攻めることができたので、順位は関係なくすごく気持ちのいいレースでした。明日は得意種目のスーパーGがあり、さらにはジャイアントスラロームも控えているので、その中でぜひ一度は1位をとりたいと思います。

 

【世界選手権競技日程】

 3月4日 ダウンヒル(滑降)

 3月5日 スーパーG(スーパー大回転)

 3月6日 予備日

 3月7日 スーパーコンビ(スーパー複合)

 3月8日 ジャイアントスラローム(大回転)

 3月9日 予備日

 3月10日 スラローム(回転)

 

【日本選手団】

《男子シッティング》

狩野 亮(マルハン)/森井大輝(トヨタ自動車)/鈴木猛史(駿河台大学)/夏目堅司(ジャパンライフ)

《男子スタンディング》

三澤 拓(キッセイ薬品工業)/小池岳太(JTBコミュニケーションズ)/東海将彦(エイベックス・グループ・ホールディングス)

《女子シッティング》

村岡桃佳(正智深谷高等学校)

(情報提供:日本障害者スキー連盟)

 

■水泳

・1日: 静岡県立水泳場で平成27年度春季静岡水泳記録会が開催され、男女計約100人の選手が参加した。この大会は7月(13日~19日)にイギリス・グラスゴーで開催される、「2015世界水泳選手権大会」への派遣標準記録の突破大会にも指定されていた。各種目の詳細な結果は日本身体障がい者水泳連盟(JPSF)の公式サイトに掲載されている。

 

・2日: JPSFは前日に行われた静岡記録会後に選手選考委員会を開き、「グラスゴー2015世界水泳選手権大会」に派遣する選手13名と1名の保留選手(要確認事項があるため)を決定し、発表した。JPSFによれば、2016年のリオデジャネイロ・パラリンピックと2020年東京大会に向け、メダル獲得が期待できるチーム編成を目指したという。なお、同選手権で1位になった選手は、2016年リオ大会の日本代表として推薦仮決定をするという。

 

▼派遣決定選手(順不同) 13名

木村敬一、鈴木孝幸、生長奈緒美、小野智華子、江島大佑、小山恭輔、山田拓朗、一ノ瀬メイ、梶原紀子、木村潤平、笠本明里、池愛里、藤原光里

 

▼保留選手1名(保留理由―確認事項があるため)

中村智太郎

 

■陸上競技

・5日: IPCは、6日に開幕する陸上グランプリシリーズの第2戦、オーストラリア・ブリスベン大会に向けて、注目の種目や選手を発表した。グランプリシリーズがオーストラリアで開催されるのは史上初めてで、日本やオセアニア諸国などから7カ国約100人の選手がエントリーしている。大会は8日まで行われる。

 

 日本選手では、強豪がひしめく女子400mのT20クラス(知的障害)で、日本記録保持者の田中華子と池崎恵の名前が挙がっている。

 

 他に、パラリンピックの金メダリストで、地元オーストラリアのエヴァン・オハンロンはT38クラス(脳性麻痺)の100mで、自身の持つ世界記録10秒79の更新が期待されている。26歳の同選手は今季絶好調で、今月末に行われる健常者のオーストラリア選手権への出場権も獲得しているという。

 

 また、オハンロンの練習パートナーで、T42(片大腿切断など)の2013年世界選手権チャンピオンのスコット・リアードンは念願の10秒台突入なるかが注目されている。

 

 今季のグランプリシリーズは全9大会で、ドーハ(カタール)、ブリスベン(豪)、チュニス(チュニジア)、北京、サンパウロ(ブラジル)、メサ(米)、ノットビル(スイス)、グロッセート(伊)、ベルリンを経て、最終戦となるグランプリ・ファイナルは7月26日、ロンドンでの開催が決定している。

 

■東京発

・5日: 2020年東京パラリンピックの開幕までちょうど2000日を迎えたこの日を記念して、東京・港区のインターナショナル・スクールではブラインドサッカーの体験会が開かれた。3年生から6年生の約20人が、ブラインドサッカー日本代表の加藤健人選手とサッカー元日本代表の北澤豪さん、三浦淳寛さんと一緒にプレイした。

 

 IPC公式サイトによれば、加藤選手は、「今日の体験会に参加してくれたみんなが今日の経験を一生忘れないでいてほしい。もし、2020年東京パラリンピックの開催によって、障害の有無に関わらずあらゆる人にとってスポーツに参加し、スポーツの力を楽しむ機会が増えるとしたら、僕はそれが最高のレガシーだと思います」とコメントした。

 

 また、体験会に参加した生徒のひとりは、「アイマスクをしてサッカーをしたのは今日が初めてだったけど、とても楽しかった。ボールを蹴るのは難しかった。目の不自由な人もサッカーを楽しむことができると分かったことも良かった」と話した。

 

 2020年東京パラリンピックは8月25日から9月6日まで、ブラインドサッカーなど22競技が実施される。

 

(星野恭子/文・写真提供/堀切 功・日本障害者スキー連盟)