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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(440) プロが若手にテクニックなどを直接伝授! 日本車いすテニスの躍進を支える画期的なイベント

1月22日に現役を引退され、3月3日に国民栄誉賞の正式受賞が決まった国枝慎吾さん(ユニクロ)をはじめ、世界で活躍する選手が多く、レベルの高さを誇る日本の車いすテニス界。その強さの秘密や明るい未来を想像させるようなイベント、「第2回車いすテニススペシャルクリニックByプロ車いすテニス選手実行委員会」が2月23日、立川ルーデンステニスクラブ(東京都立川市)で開催されました。次世代の若手車いすテニス選手の強化や育成を目的としたイベントで、日本のトッププロ選手らが講師となり、トレーニングやテニスの基礎技術などを直接指導するのが特徴です。

昨年につづき2回目の開催となった今年は、11歳から25歳の次世代選手19人(男子13、女子6)が全国から参加しました。講師陣は発起人の眞田卓選手(凸版印刷)をはじめ、上地結衣選手(三井住友銀行)、齋田悟司選手(シグマクシス)、荒井大輔選手(BNPパリバ)、船水梓緒里選手(三菱商事)、小田凱人選手(東海理化)のトッププロ6人に、OBの国枝さん、さらに国枝さんなどが師事したコーチやトレーナーらも加わった豪華な顔ぶれが揃いました。
「第2回車いすテニススペシャルクリニックByプロ車いすテニス選手実行委員会」を終えて、参加者全員で笑顔の記念撮影

クリニックはフィットネストレーニングから始まり、休憩をはさみながらテニスレッスンやプロヒッティングという3部構成。約4時間にわたる長丁場でしたが、時折、笑い声も聞こえるような和気あいあいの雰囲気の中、参加者には中身の濃い時間となったようです。

参加者の一人、競技歴7~8年という14歳、吉田有悠さん(千葉県)は「自分にはないスキルやチェアの使い方を教えていただいた。憧れの国枝さんがフレンドリーに話しかけてくれて、人柄としても憧れるなと思った」と笑顔を見せ、同2年の25歳、寺田伊織さん(神戸市)は「改めてトップレベルで戦っている選手のすごさが分かったし、自分もそこに追いつけるように頑張りたいと思った」と話しました。

目標を新たにした参加者も。競技歴1年の12歳、岩本希心さん(横浜市)は「楽しかった。憧れの上地選手のようにパラリンピックに出て、いろいろな選手と戦いたい」と話し、同2年の16歳、岩切一馬さん(神奈川県)は、「僕も左利きなので、小田選手が憧れ。パワー系の選手になれるように、もっと力をつけて追いつけるように頑張りたい」と言葉に力を込めました。
プロ選手とともに、コーチからトレーニングの方法や意義などの説明を熱心に聞く参加者
ジュニア選手の質問に気さくに答えるレジェンド、国枝慎吾さん(左)。「1年前に比べて、こんなにうまくなったんだという子もいて、驚いた」と笑顔

■車いすテニス文化を根付かせたい!

実行委員会の代表も務める眞田選手はイベント開催について、18年ほど前に千葉市の吉田記念テニス研修センター(TTC)で開催された車いすテニスのキャンプに自身が参加し、当時から世界で活躍していた国枝選手や齋田選手に指導を受けた経験がきっかけだったと話しました。
車テニスクリニック発起人の眞田卓選手(右)と、きっかけとなった先輩選手の一人、齋田悟司選手(右)

「第一線で活躍する選手と同じメニューに参加し、直接指導を受けて、上達へのヒントなども吸収できたが、それ以上に同じ空気の中に一緒にいられることが、アマチュアだった僕にはインパクトがあった。自分がプロになった要因でもあったなと思う。先輩たちから受け継いだバトンを、今度は次世代の人たちにつなげたかった。その思いを国枝さんや齋田さんにぶつけると、『ぜひ、やろう』と賛同してくれたのでプロ実行委員会を立ち上げた。(海外ツアー転戦中の)プロ選手とのスケジュール調整は大変だったが、実現できてよかった」

また、開催の目的については、「イベントをきっかけに、プロになる、ならないに関わらず、生涯を通じて車いすテニスを楽しんでもらいたいし、車いすテニス文化を日本に根付かせていきたい」と説明。今後の展望についても、「昨年から参加者の数も、(講師の)プロ選手も増えて嬉しい。後世につながっていくイベントにしたいので、どんどん新しいプロ選手を入れていきたいし、参加者もトーナメントを組めるくらいに増やしていきたい」と意気込んでいました。

ハードスケジュールの中でも、昨年から参加の5人に加え、今年はさらに2人が加わったプロ選手たち。参加の感想を聞いてみると、「これからも参加し、皆で盛り上げていきたい」という力強い声ばかり。それぞれに参加する意義や収穫を見いだしているようです。

国枝さんや齋田選手からバトンを受け取った眞田選手や上地選手が、さらに小田選手や船水選手へと引き継いでいる日本車いすテニス界。今後、若手選手たちの成長ともに、さらなる進化や躍進が期待され、ますます楽しみになった今回のイベントでした。
プロヒッティングでペアを組んだジュニア選手をタッチで激励する、若きエース、小田凱人選手(右)
■講師として参加したプロ選手の感想

・上地選手
「第2回で、講師側もパワーアップして充実した内容になった。昨年からちょうど1年が経ち、参加者の成長も感じられてよかった。次世代に伝えるためには自分自身がしっかり理解できていないとできないので、私にも充実の時間だった。今後は、大阪など関西地域の子を対象にしたり、女子選手がメインとなるパターンなども考えられる。いろいろな可能性を探っていきたい」

・齋田選手
「今は日本の中にトップ選手がたくさんいて、トップ選手と一緒に練習したり、トレーニングができる機会があることは今の若い選手にとってすごくプラスになる。その講師の一員になれて嬉しく思う。今日参加してくれた若い選手たちから『強くなりたい』という思いが伝わってきたし、自分も刺激を受けた。明日から、自分の練習にも一段と身が入りそう」

・荒井選手
「密にコミュニケーションをとって指導するのは貴重な機会。教えることはなかなかないので、いろいろ自分を振り返りながら取り組んだ。テニスを通して僕の人生は変わった。そこに恩返しできるよう活動したいし、自分自身も選手としてもっと上を目指せるという思いもあり、楽しみ」

・船水選手(初参加)
「私がジュニアの時に、プロ選手に教えてもらう機会はなかった。ジュニアの選手とプレーする機会は少ないので楽しかったし、自分も頑張らないとという気持ちになった。自分のフィーリングを言語化することは難しいが、アウトプットとして重要なことだと学んだ」

・小田選手(初参加)
「(参加者と)年代も近いので、一緒にテニスをして、グランドスラムやトップで戦っている球質とか姿とかを感じ取ってもらえれば、僕としては嬉しい。教えるという感覚でなく、自分が得た情報を共有したいという思い。国枝さんの言葉は説得力が違うので、僕自身も選手として勉強になった。学びがいっぱいあって、(この機会に)感謝したい」

・国枝氏
「今日は久しぶりのテニスだった。いろいろなプレッシャーから解放されて、テニスをまた純粋に楽しめている。選手時代は対戦の可能性があったので、自分の情報をあまり伝えられないところがあったが、引退してから、純粋に自分の持っているものを伝えたいという思いになっている。自分の引き出しを小出しにしながら、伝えていきたい」
国枝慎吾さん(中央)の偉業を称え、花束が授与されたあと、国枝さんを囲んで、講師陣で記念撮影。左から小田凱人選手、船水梓緒里選手、荒井大輔選手、(国枝さん)、齋田悟司選手、上地結衣選手、眞田卓選手

(文・写真:星野恭子)