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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(439) 「車いすバスケ新時代」を感じさせた天皇杯。鳥海選手率いるパラ神奈川が22大会ぶりに優勝!

1年の始まりとなる1月から2月の時期に、1年を締めくくる「日本選手権」を開くパラスポーツ競技も少なくありません。1月20日から21日にかけて東京体育館(東京・渋谷区)で開催された、車いすバスケットボールのクラブチーム日本一決定戦、「天皇杯第48回日本車いすバスケットボール選手権大会」もその一つ。コロナ禍の影響で約3年半ぶりに開かれた国内最高峰の大会は、「車いすバスケ新時代の到来」を印象づける大会となりました。

天皇杯が中断していた3年半の間に、東京パラリンピックが開催され、車いすバスケ男子日本代表はベテランと若手が融合し、初の銀メダルを獲得。また、昨年秋には男子U23日本代表も世界選手権を初制覇しています。長年の強化が実った大きな成果が今年の天皇杯に好影響を与えたことは間違いありません。
「天皇杯第48回日本車いすバスケットボール選手権大会」で22大会ぶり4回目の優勝を果たしたパラ神奈川スポーツクラブの選手、スタッフ

■王座、奪還!
日本車いすバスケットボール連盟によれば、2023年1月現在、66のクラブチーム(+女子6チーム)が登録されていますが、今年の天皇杯には出場したのは8チーム。前回大会(2019年)優勝チームに加え、昨年秋から冬に行われた全国10ブロックでの第1次予選から東・西日本に分かれての2次予選でそれぞれ上位に入った6チームと、第 32 回日本選抜車いすバスケットボール選手権大会(高崎大会)の優勝チームです。

天皇杯では2日間にわたるトーナメント戦で順位が競われ、決勝戦はパラ神奈川スポーツクラブ(関東)がNO EXCUSE(東京)を51-44で破って優勝。3位決定戦は埼玉ライオンズ(関東)が千葉ホークス(同)に66-46で勝利しました。以下、5位にLAKE SHIGA BBC(近畿)と伊丹スーパーフェニックス(近畿)、7位に宮城MAX(東北)、ワールドBBC(東海・北陸)という結果になりました。

さて、車いすバスケ新時代の一つ目は、「チーム勢力図の変化」です。前回まで11連勝中だった宮城MAXが今年は天皇杯初戦で千葉ホークスに57-36で敗れて連勝がストップ。代わって頂点に立ったパラ神奈川は1997年以来となる22大会ぶり4回目の王者奪還でした。

パラ神奈川を率いたのは東京パラでMVPを獲得する活躍を見せた鳥海連志キャプテン(クラス2.5)です。「これまで宮城MAXが不動のチャンピオンとして勝ち続けていたあの姿を見て、このコートに立ちたかったし、あの姿になりたかった思いがありました」と感慨深げに語りました。

とはいえ、鳥海キャプテンを始め、現チームの主軸は王者時代を知らない新世代たち。「これから、連勝をするチームに作り上げるためにもしっかりとチームビルティングをしていきたい」と意気ごみを力強く語りました。ここからまた新たな連勝の歴史が刻まれていくのか、注目です。
大会MVPに選出された、パラ神奈川の鳥海連志キャプテン。スタンドには同チームのカラー「赤」を身に着けた熱心なファンたちの姿が!

■巻き返しに、期待
大会中断の3年半に、メンバーや戦略に変化が見られたクラブチームも少なくありません。準優勝のNO EXCUSEの香西宏昭キャプテンは決勝戦後、「去年の6月にチームが再始動して、そこからちょっとずつ変化を加えながら、正直『よくここまで来たな』というのが僕たちの中にはあったりもする」と振り返っています。実は香西選手自身が長くプレーしたドイツリーグから帰国、さらに長年、日本男子代表のヘッドコーチ(HC)などを務めていた及川晋平氏も6年ぶりにチームHCに復帰し、新体制となっていたのです。天皇杯に向けて約7カ月間、創部20年目での初優勝を目指し、メンバーや戦術も新たに準備してきたといい、「負けたことはもちろん悔しいですが、自分たちのやるべきことをやり続けようとみんなで言ってやった結果。ある意味で悔いはないというか、ここまでの自分たちの全ては出せたかなと思ってます」と香西選手。

及川HCは選手が罹患したり、練習拠点がワクチン接種場になったりなど、「コロナに悩まされながらもチームを作ってきた」と苦労を明かし、準優勝という結果については「僕はまず、選手がよくやったということを称えたい」と強調しました。さらに、この先のチーム作りについて、「東京(パラ)で結果が出て、あのレベルのバスケができたわけだから、それがクラブチームでどこまでできるかは楽しみにしたい。(HCとして)代表でやってきて、(これから)僕が車いすバスケにできることはクラブチームの選手たちが活躍し、代表に行きたいと思えるような環境をつくることだと思っている」と言葉に力を込めました。
創部20年目に新体制で再スタートしたNO EXCUSEの香西宏昭キャプテン(右)。攻守にチームを牽引

また、11連勝がストップした宮城MAXは、東京パラ後に日本男子代表の豊島英キャプテンと同女子の藤井郁美キャプテンが引退。さらに、男子代表エースでもあるベテラン、藤本怜央選手がドイツリーグ参戦中のため、天皇杯は不在でした。

「皆さんの知っている(王者)宮城MAXではなく、ゼロからのスタート。まずは一勝を目標にしたい」と天皇杯開幕前に話していたのは今大会でアシスタントコーチを兼務した萩野真世選手です。目標は未達でしたが、「今できる自分たちの100%をコートで出せた。新しいチームとして成長できた大会だった」と振り返り、前を向いていました。
新星、宮城MAXの伊藤明伸選手(右)は21歳。ローポインターながらスピードがあり、世界制覇を果たした男子U23日本代表でも活躍。「来年リベンジするために、個人の能力をもっと上げたい」

■さらなる強化、進化へ
3位の埼玉ライオンズも2019年の準優勝チームからメンバーが多数入れ替わり、昨年から新体制で再スタート。新キャプテンを担う赤石竜我(2.5)選手は、「日本一が目標だったので、チームを勝たせられず責任を感じているし、悔しい。ただ、(3決で)勝って終われたのは、去年から始動したばかりの新チームとしては大きな収穫」と手ごたえも口にし、悔しさを糧にさらなる成長を誓っていました。
埼玉ライオンズの赤石竜我キャプテン(右)。定評ある堅守に加え、最近は3ポイントの確率も上がり、シューターとしても活躍

もう1点、天皇杯には西日本から3チームが出場したものの、ベスト4はすべて関東勢のチームでした。伊丹スーパーフェニックスの堀内翔太キャプテンは大会前の会見で、「天皇杯に優勝して西日本を盛り上げていきたい」と抱負を話していましたが、主力の故障欠場なども響き、初戦で埼玉ライオンズに54-62で敗戦。伊丹はもちろん、西日本勢の奮起にも期待です。

■20代の若い選手たちの躍進
宮城MAXに代表されるように、今大会では「世代交代」も一気に進んだ印象です。例えば、大会オールスター5に選出されたMVPの鳥海選手が24歳、川原凜選手(千葉ホークス/1.5)が丸山弘毅選手(パラ神奈川/2.5)、古澤拓也選手(同/3.0)がともに26歳、そして、森谷幸生選手(NO EXCUSE/4.0)選手が30歳と、年齢だけ見れば若手ばかり。
今年の天皇杯で、「オールスター5」に選ばれた選手たち。左から、クラス1の川原凛選手、同2の丸山弘毅選手、同3の古澤拓也選手、同4の森谷幸生選手、そしてMVPの鳥海連志選手

他に、埼玉ライオンズの赤石キャプテン(2.5)も22歳ですし、ローポインターながら攻守に存在感を放った二人、宮城MAXの伊藤明伸選手(1.5)は21歳、LAKE SHIGA BBCの宮本涼平(1.0)は23歳。4大会ぶりに4強の千葉ホークスのポイントゲッター、池田紘平選手(4.5)は26歳、東京パラ代表でもある緋田高大(1.0)選手も27歳など、天皇杯で活躍した20代選手は枚挙に暇がありません。

東京パラの日本代表も半数は20代選手でしたが、今後さらに世代交代が進んでいきそうです。

■カラフルな客席が新鮮
東京パラなど国際大会での好結果に伴って注目度や人気も高まったものの、なかなか見るチャンスがなかった車いすバスケを間近で応援しようと、今大会は多くの観客が来場しました。最終日の21日は天皇杯史上初めて、有料化が導入されましたが、有料チケットを購入して来場したのは約3,000人。国内のパラスポーツ大会としては手ごたえある数字でしょう。
会場内には東京パラリンピック日本代表を写真パネルも展示され、多くのファンが見入っていた

さらに、驚かされ、「新時代」と思ったのは客席の様子です。各クラブチームのチームカラーを身に着けたファンが大勢、客席を埋めていたのです。NO EXCUSEの香西選手は決勝戦後、「僕たちのファンはオレンジの服を着て、パラ神奈川のファンは赤い服を着ているというのがすごく良い景色だなと感じました。こういう中でプレーできるのはすごく光栄なこと」と喜びました。

日本代表戦ではなく、国内大会でクラブチームに多くのファンがつき、熱心に応援する状況はパラスポーツではまだ珍しく、それだけに車いすバスケの人気浸透ぶりを感じさせるシーンでした。

このように、さまざまな部分で、「新時代到来」を感じさせた車いすバスケの天皇杯。今後のさらなる発展が楽しみです。

【天皇杯 第48回日本車いすバスケットボール選手権大会】
<チームリザルト>
1位:パラ神奈川スポーツクラブ(関東)
2位:NO EXCUSE(東京)
3位:埼玉ライオンズ(関東)
4位:千葉ホークス(関東)
5位:LAKE SHIGA BBC(近畿)、伊丹スーパーフェニックス(近畿)
7位:宮城MAX(東北)、ワールドBBC(東海・北陸)

<オールスター5>
MVP: 鳥海連志 (パラ神奈川SC/2.5)
クラス1: 川原 凜 (千葉ホークス/1.5)
クラス2: 丸山弘毅 (パラ神奈川SC/2.5)
クラス3: 古澤拓也 (パラ神奈川SC/3.0)
クラス4: 森谷幸生 (NO EXCUSE /4.0)

(文・写真:星野恭子)