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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(437) 車いすラグビー日本代表、国際強化大会で全勝優勝。パリパラ切符獲得への弾みに!

車いすラグビー日本代表の強化を目的とした大会、「2023ジャパンパラ車いすラグビー競技大会」が2月2日から5日まで4日間の日程で、千葉ポートアリーナ(千葉市)で開催されました。コロナ禍の影響により4年半ぶりに海外チームも参加。日本代表(*世界ランキング4位)とアメリカ(同1位)、オーストラリア(同2位)、フランス(同5位)の強豪4カ国が総当たり戦を2回行い、上位2チームが決勝戦に、下位2チームが3位決定戦に進む形式で、熱戦を展開しました。(*2022年10月17日発表分)

日本は予選ラウンドを6戦全勝の1位で突破し、同じく4勝2敗の2位で駒を進めたフランスが5日の決勝戦で対戦。序盤で日本がリードするも、ミスもあって追いつかれ、1点を取り合う大接戦となった前半は27-27の同点で折り返します。しかし、激しいタックル、巧みなパスやチェアワーク、献身的な守備など各選手が攻守にわたってやるべきことを全うしながら好プレーを続けた日本が第3ピリオドで43-41と再びリードを奪い、最終ピリオドも集中力高くリードを守った日本がフランスを57-54で退け、7戦全勝の完全優勝を果たしました。
「2023ジャパンパラ車いすラグビー競技大会」で全勝優勝を飾り、喜ぶ日本代表 (撮影: 吉村もと)

「東京パラリンピックは銅メダルだったが、そこから日本がどれだけ強くなっているかを、ぜひお見せしたいと思っていた。優勝できて、嬉しい」。試合後に笑顔で語ったのは攻守にわたってチームを牽引した池透暢キャプテン(日興アセットマネジメント)です。目下、「パリパラリンピックへの出場権獲得」を最大の目標とする日本にとって、強豪国との貴重な実戦の場となった今大会での勝利は大きな手ごたえとなったようです。

ケビン・オアーヘッドコーチ(HC)も、大会前に「プレーの精度」と「チームの厚み」の向上を目標に掲げていたと言い、「チームの成長を確認でき、素晴らしい大会だった」と振り返りました。さらに、第一の強化ポイントとして「メンタルタフネス」を挙げたオアーHC。自国開催となるパリ大会への強化中で、ベストメンバーを送り込んできたフランスに対し、一度追いつかれてから突き放して勝ち切った決勝戦を高く評価しました。

■多様多彩な選手が、持ち味を発揮

オアーHCはまた、「さまざまなラインアップを試せたこと」も収穫に挙げました。「ラインアップ」とはコート上の4選手の組み合わせのこと。車いすラグビーには選手の障害に応じた「持ち点制」という基本ルールがあり、コート上4人の持ち点合計を8.0点(**)以内に編成しなければなりません。ラインアップは持ち点制限だけでなく、選手個々のプレーとの相性の良さも重要で、そのち密さや多様さがチームに厚みと強さをもたらします。(**女子選手1名につき0.5点が上乗せされる)

今大会のメンバー12人は東京パラから2人が入れ替わっていましたが、オアーHCは戦況を見ながらラインアップを入れ替え、チームの流れを変えたり、リズムを取り戻したり。池キャプテンは、「しびれる采配だった」と振り返りましたが、オアーHCはさまざまな選手を試すことで、「チーム内の競争が生まれることで、チームの底上げを図りたい」とその意図を語っていました。

また、「若手選手にも出場機会を与えられたこと」も収穫に挙げ、なかでもチーム最年少の20歳、橋本勝也選手(日興アセットマネジメント)に対し、「ミスもあったが、力強いパフォーマンスを見せてくれたし、プレーを通して自信を深め、コート上のリーダーシップも発揮してくれた」と高評価。

橋本選手は障害の最も軽い3.5点の選手で、高速のチェアワークやアグレッシブなプレーでチームに貢献。自身も試合後、「大会を通してアドバイスをいただき、チームメートの皆さんのおかげで成長できた」と手ごたえを語っていました。
好プレーを重ねた橋本勝也選手(左から2人目)。「ディフェンスで抜かれたら全力で戻るなどハードワークを意識した。今大会、できていた部分もあったので、プラスにとらえてもいいかな」 (撮影: 吉村もと)

橋本選手と同じラインアップで出場することが多く、ロングパスを絡めたコンビプレーで得点を重ねたベテラン、48歳の島川慎一選手(バークレイズ証券)は「成長を続けているライン(アップ)。年齢は親子ほど離れているが、いいライバル。一緒にトレーニングすることも多く、コミュニケーションもよくなっている」と二人の相性の良さを語りました。
鋭いタックルで相手の攻撃の芽を何度も摘み取った島川慎一選手(左)。オアーHCも、「彼は今、メンタルもフィジカルも、キャリア史上最高のラグビーをしている」と絶賛 (撮影: 吉村もと)

持ち点制のある車いすラグビーではローポインターと呼ばれる障害の重いクラスの選手の動きも重要です。オアーHCが活躍を称えた一人で、持ち点1.0の小川仁士選手(バイエル薬品)は、昨年の世界選手権でミスが多かったと反省するパスを磨いてきたと言い、「今大会はパスミスがなく、そこは成長かな」と自身のプレーを前向きに振り返りました。
攻守にわたって活躍を見せた小川仁士選手(右)。「今後は身体づくりにももっと取り組み、1.0のなかでも世界的にトップレベルを目指したい」 (撮影: 吉村もと)

エースの池崎大輔選手(三菱商事)は、「自分たちのプレーをしっかりしようと臨み、それが(今大会の)優勝につながったが、まだ完璧でなく、細かい修正点もたくさんあった。車いすの動きやハードワークするメンタルなど、チーム一丸となって取り組んでいきたい」と、目標とする「パリへの切符獲得」に向け、意気込みを語りました。

なお、3位決定戦も大接戦となりましたが、アメリカがオーストラリアに53-52で勝利しました。アメリカは国際戦初出場3選手を、オーストラリアは女性選手3人を含むなど、新編成のチームで臨み、選手層の厚みを感じさせました。

大会は4日間で約4,000人が世界トップレベルのパフォーンマンスを堪能。激しいタックルには大きなどよめきがあがり、華麗なロングパスや献身的な守備などには拍手が響きました。

■パリ切符をかけた大一番は6月、東京で開催!

日本代表の次なる舞台は、6月29日から7月2日にかけ、東京パラリンピックの会場でもあった東京体育館(東京・渋谷区)で開催される「2023アジア・オセアニア選手権(AOC)」です。4から6カ国の参加が見込まれており、優勝国にはパリパラリンピック出場権が与えられる重要な大会で、最大のライバルは今大会にも参加したオーストラリアです。

「AOCでパリの切符を獲ることが一番大切なこと。(ジャパンパラ大会での)プレーをさらに越えて、応援したくなったと言ってもらえるよう、がんばります」と池キャプテン。

車いすラグビー日本代表のさらなる進化と、悲願のパリ切符獲得をぜひ、応援ください。
大会閉幕後、互いの健闘を笑顔で称え合った日本、フランス、アメリカ、オーストラリアの選手たち(撮影: 吉村もと)

(文:星野恭子)