星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ(71)2015.2.20~2.26
国内外のパラリンピック競技の話題を独自にセレクトしたパラスポーツ・ピックアップ・シリーズ。今号は、アルペンスキー、車いすマラソン、陸上競技、ブラインドサッカー、ボッチャなど国内外で行われた各大会の結果のほか、産業技術総合研究所が主催したスポーツ義足をテーマにした研究発表フォーラムについてもリポートしています。2020年東京パラリンピックに向けて、さまざまな取り組みが広がっているようです。
■アルペンスキー
・25日~26日: IPC(国際パラリンピック委員会)アルペンスキー北米カップがカナダ・キンバリーで開催され、日本の座位クラスの選手が活躍した。25日は男女滑降が2レース行われ、1レース目は森井大輝が1位、夏目堅司が2位、2レース目は夏目が1位、森井が2位に入った。女子は村岡桃佳が2レースとも唯ひとり完走を果たし、1位となった。
・26日: 男女スーパー複合が行われ、男子座位で森井大輝が1位、狩野亮が2位に入り、女子座位でも村岡桃佳が1位に入った。
日本アルペン陣はこのあと、2月28日に開幕する2015年世界選手権カナダ・パノラマ大会(~3月10日)に出場する。同選手権には30カ国から約130選手がエントリーしている。北米カップの好調さを弾みにして、さらなる活躍を期待したい。
■陸上競技
・22日: 第9回東京マラソンが東京都庁前から東京ビッグサイトにフィニッシュする42.195キロのコースで行われ、車いすの部男子は第1回大会から連続出場中の洞ノ上浩太(エイベックス)が1時間30分23秒で2007年の初優勝を飾った。同女子は2008年以来、7連覇中の土田和歌子(八千代工業)が1時間46分30秒で連勝記録を「8」に伸ばした。
来年の東京マラソンは2016年2月28日(日)に行われる。車いすの部も海外からパラリンピックレベルのエリート選手を招聘し、「国際化」されることが決定しており、より迫力あるレースが期待される。
・25日: 22日からドバイで開催されていた、「IPC(国際パラリンピック委員会)陸上競技グランプリシリーズの今季第1戦」は4日間の日程を終え、閉幕した。45カ国から約450選手が参加し、10個の世界新記録と54地区新記録が誕生した。日本勢の主な成績は下記の通り。
▽T52クラス (車いす)
佐藤友祈: 400m/1位、800m/1位、1500m/1位
野田昭和: 200m/3位、400m/2位、800m/2位
▽T42クラス (大腿切断など)
手塚圭太: 200m/2位
▽T46/47クラス (上肢切断など)
芦田 創: 100m/3位、400m/3位、走り幅跳び/3位
渡辺大輔: 円盤投げ/3位、砲丸投げ/3位
▽F11-13/42/46/47 (視覚障害/大腿切断など/上肢切断など)
渡辺大輔: やり投げ/3位
▽F44/46 (下腿切断など/上肢切断など)
高土文子: 砲丸投げ/3位、円盤投げ/3位
▽T13/20/36/37/44 (視覚障害/知的障害/脳性まひ/下腿切断など)
中西麻耶: 走り幅跳び/3位
IPC陸上グランプリシリーズの次戦は4月のオーストラリア・ブリスベンで開催される予定で、その後はチュニス(チュニジア)、北京、サンパウロ(ブラジル)、メサ(米)、ノットビル(スイス)、グロッセート(伊)、ベルリンを経て、7月26日にロンドンでの最終戦の開催が決定している。
■ブラインドサッカー
・20日: 今月14日からイングランド遠征中のブラインドサッカー日本代表がイングランド代表との国際親善試合に臨み、0-2で敗れた。
・21日: 地元のクラブチーム・リーグ戦に参加して地元3チームと対戦した。Mersey sideではFP川村怜の決勝点で1-0で勝利したが、West Bromwich Albion戦、RNC戦ともスコアレスドローに終わり、1勝2分けだった。この結果、今年最初の海外遠征は全6試合を行い、イングランド代表とは1分2敗、地元クラブチームとは1勝2分けで全日程を終えた。
日本代表は23日に帰国し、3月14日、15日の代表合宿を経て、同22日に行われる、「さいたま市ノーマライゼーションカップ2015」でコロンビア代表と対戦する予定となっている。
▼日本代表の魚住稿監督のコメント
(日本ブラインドサッカー協会プレスリリースより、原文まま)
去年の世界選手権の結果を受けて攻撃が課題であり、点を取って勝つことが(パラリンピック予選の)アジア選手権を見据えると重要。これまでの守備重視から、高い位置でボールを奪って、攻撃の機会を増やすシステムをテストした。攻撃の回数は増えたが、イングランド代表からは点を取れなかった。個々の課題が見つかった。イングランドの選手は体格が大きく、中盤のプレスも早かった。真剣勝負だからこそ、(アジアのライバルの)イランなどを想定した貴重な経験になった。有意義な遠征になったと思う。
■ボッチャ
・20日~22日: 第16回日本ボッチャ選手権大会が千葉市で開催された。各クラスの優勝者は以下の通り。詳細は日本ボッチャ協会公式サイトに掲載されている。
ボッチャは、重度脳性麻痺者、もしくは同程度の四肢重度機能障がい者のために考案されたスポーツで、1984年のニューヨーク大会からパラリンピックの正式競技になっている。ジャックボール(目標球)と呼ばれる白いボールに、赤と青の各6球ずつのボールを投げたり、転がしたり、他のボールに当てたりして、いかに近づけるかを競う。競技は男女の区別なく行われるが、障害の程度によりBC1~4のクラス(⇒註)に分かれて行う。
BC1: 藤井友里子 (富山ボッチャクラブ)
BC2: 優勝:廣瀬隆喜 (市原ボッチャクラブ)
BC3: 優勝:加藤啓太 (チーム心-kokoro-)
BC4: 優勝:藤井金太朗 (市原ボッチャクラブ)
オープン車椅子: 優勝:安井達哉 (あいちボッチャ協会)
オープン立位: 優勝:前田キヨ子 (王子ホールドスターズ)
⇒BC1クラス: 車いす操作不可で四肢や体幹に麻痺がある脳性麻痺者か、下肢で車いす操作可能な脳性麻痺者(競技は足けりで行う)。
BC2: 上肢で車いす操作可能な脳性麻痺者。
BC3: ひとりでは投球不可のため、介助者とランプ(勾配具)を使って競技する者(脳性麻痺以外の障害も含む)。ただし、介助者はコートからは常に背を向けていなければならず、選手の口頭での指示に従いランプや車いすを動かすことしかできない。
BC4: BC1、2と同等の機能障害がある脳性麻痺以外の重度四肢麻痺者(頚髄損傷、筋ジストロフィーなど)。
■東京発
・25日: 「International Research Forum on Biomechanics of Running-specific Prostheses(スポーツ用義足国際フォーラム)」が独立行政法人産業技術総合研究所(産総研)臨海副都心センター(東京江東区)で開催された。開会の挨拶を行った同センターの八木康之所長によれば、同センターは2020年東京オリンピック・パラリンピックの主会場に近い環境に立つこともあり、「科学技術の革新を通して2020年大会に貢献したい」とさまざまな研究を進めているという。なかでも、今回のテーマであるスポーツ義足の研究は将来有望で実現化が見込まれる研究の一つであり、今後、産業界などとのさまざまなコラボレーションが生まれ、より発展していくことが望まれると話した。
この日は当フォーラムを主宰した産総研デジタルヒューマン工学研究センターの保原浩明博士による、「Running-Specific Prostheses: its history, regulation and controversy(ランニングに特化した義足-歴史、ルール、議論)」をはじめ、ドイツ体育大学ケルンのポットハスト・ヴォルフガング教授による「Dynamic performance determination in amputee sprinting(義足での短距離走における、動的パフォーマンスの測定」など、スポーツ義足をテーマにした5つの研究発表が行われた。
また、研究発表に先立ち、日本パラリンピック委員会の中森邦男事務局長も、「Toward the Successful Tokyo 2020 Paralympics Games」と題し、日本における障害者スポーツの普及・発展の歴史と2020年に向けた選手強化体制の現状などを講演した。
聴講者のなかには研究者のほか、義肢装具士やパラアスリートなどの姿も見られた。産総研では今後も、2020年東京大会を意識した研究フォーラムを開催していく予定だという。
(星野恭子/文)