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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(434) ロービジョンフットサル日本選手権でCA SOLUA葛飾が初優勝!~あなたはこんな見え方でフットサルをできますか?

「ロービジョンフットサル」というスポーツをご存知でしょうか? ロービジョンとは「弱視」を意味し、視覚障害のなかでも全く見えないわけでなく、なんらかの見えにくさがあることで、そうした弱視者を対象にしたサッカーです。ブラインドサッカーのようなアイマスクや鈴の入ったボールは使わず、一般のフットサルとほぼ同じルールで行われます。なお、ゴールキーパーは晴眼の選手も務めることができます。

そんなロービジョンフットサルの「第17回日本選手権」が1月7日、墨田区総合体育館(東京・墨田区)で開かれました。下記の画像はその大会ポスターです。
「第17回ロービジョンフットサル日本選手権」の大会ポスター。競技の特性や魅力が伝わる内容になっている (提供: 日本ブラインドサッカー協会)

〈あなたはこんな見え方でフットサルをできますか?〉という冒頭の文章で始まるポスターには、「こんな見え方」の例として、「ぼやけ」や「欠け」、「にごり」といったさまざまな弱視の状態がビジュアルとともに表現されています。

このように、「ロービジョンフットサル」の選手たちの見え方はそれぞれ異なっています。チームメイトの見えにくさや特徴を理解し合い、補い合いながらのパス回しやポジション取りなどが必要なので、互いのコミュニケーションが重要なスポーツであり、そこが魅力のサッカーです。

■熱戦が展開された日本一決定戦

さて、この日行われた日本選手権は3チームの総当たり戦で争われ、「CA SOLUA葛飾」が第1試合で「CLUB VALER TOKYO」を2-0で、第2試合で「FC SFIDAつくば 」を3-2で破り、2戦全勝で初優勝を飾りました。
日本選手権初優勝を飾ったCA SOLUA葛飾のエース、松本光平選手(中央)。司令塔としてピッチを縦横無尽に走り回り、シュートやアシストでもチームの勝利に貢献 (撮影: 星野恭子

なお、第1試合では、CA SOLUA葛飾の松本光平選手と西達也選手が得点しました。第2試合では、CA SOLUA葛飾の岩田朋之選手が2得点、大平英一郎が1得点、FC SFIDAつくばの小室智也選手と角谷佳祐選手がそれぞれ1得点を挙げました。また、第3試合はスコアレスドローでしたが、得失点差で、「FC SFIDAつくば」が準優勝、「CLUB VALER TOKYO」 が3位となりました。

スコアを見ても分かりますが、3チームは実力拮抗で、3試合ともスピード感にあふれ、選手の気合がこもった緊張感と激しさあふれるプレーの数々に引き込まれました。そして、想像していた以上に選手の動きもボールの展開も速く、迫力もあって驚かされました。

選手のなかにはもとも、サッカーやフットサルに取り組んでいるなかで視覚障害を負ったり、あるいは視力障害が進んだりして、ロービジョンフットサルに転向する選手も多いそうです。テクニックの高さや動きのスピードも納得ですが、視覚障害はプレーに影響することはないのでしょうか。

今大会のMVPを受賞したCA SOLUA葛飾の松本光平選手にお話を聞いてみました。

■ロービジョンフットサルならではの魅力とは?

大会MVPに選ばれたCA SOLUA葛飾の松本光平選手は、「前回、前々回とも準優勝で悔しかったので、今回はどうしても優勝したいと思って臨みましたが、しっかり結果もついてきてよかったです」と笑顔。
大会MVPに選ばれたCA SOLUA葛飾の松本光平選手。「視覚障害があっても、サッカーが、スポーツができる環境があることが大きな魅力」 (撮影: 星野恭子)

「個人的にはシュートを外しまくったので、しっかりシュート練習をして、来年は内容ももっといいものを出せるようにしたい」と反省も口にしていましたが、チームとしての手応えもあったようです。

「以前は遠慮がちの選手もいましたが、今は個人個人が責任感をもち、ボールに対してしっかりプレッシャーをかけたり、ボールをもったときは仕掛けたりなど、かなり成長を感じました。僕自身は神戸が拠点なので、(東京でのチーム練習には)なかなか参加できませんが、他のチームよりは練習機会が多いチームなので、練習の成果が試合に現れていてよかったです」

松本選手が東京でのチーム練習になかなか参加できないのは、実はフットサルのFリーグ2部で神戸を拠点とするデウソン神戸にも所属するプロ選手だからです。

松本選手はもともとサッカーのプロ選手で、ニュージーランドのクラブチームに所属していた2020年春、トレーニング中の事故で右目はほぼ失明、左目も視力が落ち、今はぼんやりと見える程度。「プレーのすべてにおいて、やりにくくなった」と言います。

それでも、サッカーを諦めなかった松本選手は、地道なリハビリとトレーニングを重ねてアピールした結果、ニュージーランドのチームからオファーがあり、復帰を果たします。ただし、コロナ禍で渡航が難しかったこともあり、日本で練習機会を保つためにフットサルにも挑戦を始めます。ロービジョンフットサルのCA SOLUA葛飾チームにも2021年から所属し、すぐに日本代表強化指定選手にも選ばれたエースです。

「(練習や試合など)場数を増やしていくうちに、(障害による難しさを)改善できているという手ごたえはあります。もっと挑戦をつづけて、目が見えていたときよりもうまくなろうと思って、やっています」

実際、2022年春にはデウソン神戸から声がかかってプロ契約。今は健常者のチームのなかで主軸として活躍し、キャプテンも任されています。視覚障害のために、とくに右からくる選手が見えないそうですが、「なるべく首を振ったり、体の向きを工夫して、補っている」そうです。

さらに、チームメイトとコミュニケーションをよく取り、個々の見え方を理解することを大切にし、「この選手はこういう見え方だから、こんなパスを出そうとか、しっかり声をかけようと心がけています。コミュニケーションがしっかりとれている点も、うちのチームの強みです」と胸を張ります。

ロービジョンフットサルへの挑戦について、「視覚障害があっても、サッカーができる環境があることが大きな魅力。もっと多くの人に知ってもらいたいし、自分がプレーすることで、そういう舞台で活躍できる可能性があることを伝えていきたいです」と熱い思いを語ってくれました。

■見えにくさのある選手に対する工夫や気配りも

もう一人、CLUB VALER TOKYOのゴールキーパー(GK)で、日本代表強化指定選手でもある加渡主悟GKにもお話を聞きました。10歳からサッカーを始めて、ドイツにサッカー留学後、フットサルに転向していますが、GK一筋。ロービジョンフットサルには大学時代に出合い、健常者でもGKなら参加できると聞いて競技を始めて今年で5年目、日本代表経験もあります。ロービジョンフットサルでは見えにくい選手たちに声で指示を出してプレーをサポートすることもゴールキーパーの役割です。

「情報を多く、より具体的に与えることを意識しています。もう一つ、選手それぞれの見え方が違うのも特徴なので、全員に同じ声掛けをしても効果的ではありません。視野が狭い、ぼやけているなど、その選手がどれくらい見えて、どの辺までカバーできるかという状況も把握して、効率的な声掛けを工夫しています」

そのためには、食事など日常生活から一緒に過ごすなどでコミュニケーションをよく取り、チームメイトそれぞれの情報を得るようにしたり、「ボールを出す前に声掛けをしたり、フィードのときも右脚か左脚かなど、試合前に合わせておく」など、プレー上でも工夫しているそうです。
CLUB VALER TOKYOの加渡主悟ゴールキーパー。「参加するコミュニティが一つ増えれば、もっと人生が楽しく、華やかになると思っていますが、僕にとってロービジョンフットサルはそのひとつ」 (撮影: 星野恭子)

審判にもお話を聞いてみました。フットサルの審判資格を持ち、ロービジョンフットサルやブラインドサッカーの審判に関わって10年以上になるという高木和男審判は、「ロービジョンフットサルのルールはフットサルとほとんど同じなので、日ごろの感覚で審判を行っています。それほど、難しさはありません」

ただし、見えにくさのある選手たちなので「声掛けをはっきりしたり、時にはボールを近くに置いてあげたり、(ルール上は不要でも)声を出したり、笛を吹いたり」など、配慮している部分はあるそうです。

とはいえ、過度に意識することはなく、「私たち審判には選手それぞれがどう見えにくいのかは分かりませんし、パッと見では視覚障害があることすら分かりません。ロービジョンフットサルだからと特に考慮することなく、『フットサルの試合』という意識で審判を行っています」と話していました。

■競技の可能性や世界の広がり

パラリンピック競技でもなく、まだあまり知られていない競技ですが、ロービジョンフットサルは大きな可能性を秘めています。眼鏡やコンタクトレンズで矯正しても視力が出ないなど、「見えにくさ」を感じているサッカー選手やフットサル選手でも、競技をあきらめることなく活躍できる場ですし、日本代表となって世界で戦う道だって開かれています。
「見えにくさ」を感じさせないスピード感やアグレッシブさで、転倒など激しいプレーも多く、見ごたえたっぷり (撮影: 星野恭子)

実際、今年8月にはイギリス・バーミンガムで世界選手権が開催予定で、ロービジョンフットサルは日本代表強化指定選手として2022年10月現在で15名が活動し、晴眼者のフットサルチームと練習するなど強化が進められています。ちなみに、ブラインドサッカー男女の世界選手権も併催なので、日本からは3つの代表チームが出場予定です。

加渡GKは、「世界大会ではなかなか勝てていませんが、代表チームは2020年から再始動し、選手やスタッフ一丸で勝てるように活動しています。個人でも努力しながら、しっかり結果を出せるようにしたいし、まだ代表選考段階なので、僕も選ばれるように頑張りたいと思います」と意気込みます。松本選手も、「自分が入ったことで一つでも多く勝てるようにしたいですし、結果を出すことで、もっとロービジョンフットサルの認知度も上がると思います。チームとして結果を出せるように頑張りたい」と力を込めていました。

実際、ロービジョンフットサル日本代表は世界選手権に2013年大会から3大会連続出場して未勝利。しかし、その2013年大会に審判として参加した高木審判によれば、当時から比べると、日本の選手たちの技術レベルは上がり、スピード感も増しているそうです。

「着実にはレベルアップしていると思いますし、激しいプレーも増えてきましたね。でも、フェアでありさえすれば、私はいいと思っています。それが、フットボールの魅力ですから。(8月の)世界選手権でも頑張ってほしいです」とエールを送っていました。

競技人口も少なく、大会も少ないロービジョンフットサルですが、面白い競技です。ぜひ、応援ください。また、「やってみたい」という方はぜひ、日本ブラインドサッカー協会までご一報ください! 

観客席近くには「弱視体験ブース」も設置され、弱視ゴーグルやパネルなどでロービジョンについて啓発活動も実施  (撮影: 星野恭子)

弱視体験ゴーグル各種。にごりのゴーグルを着けた子どもは、「フランスの国旗がドイツに見える!」や、視野狭窄のゴーグルを着けた子どもは、「足元が見えなくて、小さい子にぶつかっちゃった」など感想も。

(文:星野恭子)