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星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ(70) 2015.2.11~2.20

 国内外のパラリンピック競技の話題を独自にセレクトしたパラスポーツ・ピックアップ・シリーズ。今号は北海道旭川で開催された、アジア初のクロスカントリースキー・ワールドカップ大会の模様や大阪で行われた女子車いすバスケットボールの国際親善大会、そしてイングランド遠征中のブラインドサッカー日本代表の様子などをリポート。さらに、今週日曜(22日)に行われる東京マラソンの招待選手会見に臨んだ、山本浩之選手と土田和歌子選手の意気込みもどうぞ。両選手とも連覇を目指し、東京の街を駆け抜けます。ぜひご声援ください。

 

クロスカントリースキー

・14日: 「2015IPC(国際パラリンピック委員会)クロスカントリースキー・ワールドカップ(W杯)」が北海道旭川市の富沢クロスカントリースキーコースで開幕した。アジア地区でワールドカップが行われるのは史上初めて。ロシアやアメリカなど9カ国から約50選手が参加し、日本からは昨年のソチ・パラリンピック銅メダリスト、久保恒造(日立ソリューションズ)や2010年バンクーバー・パラリンピック2冠の新田佳浩(同)ら19選手が出場した。19日までの日程で、座位、立位、視覚障害の3クラス別に男女25種目が実施された。

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【2014ソチ冬季パラリンピック銅メダリストの久保恒造選手のラストスパート。ソチ以降は陸上競技に専念しているが、地元北海道でのW杯の開催に伴い、一時復帰。大きな声援で迎えられた=2015年2月14日/旭川市富沢クロスカントリースキーコース(撮影:星野恭子)】

 

 初のW杯成功に向け、旭川市や周辺の多くの市民がボランティアなどで大会を盛り上げた。たとえば、選手に授与されるメダルは北海道の大地を図案化したデザインの陶製で、大会組織委員会の依頼を受け、地元の北海道雨竜(うりゅう)高等養護学校と美深(びふか)高等養護学校の生徒が制作したものだ。

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【地元養護学校生が制作した特製のメダル。北海道の大地を模したひし形に、山地と2本の河川が配され、同地の起伏に富んだ地形がデザインされている=2015年2月15日/旭川市ロワジールホテル(撮影:星野恭子)】

 

 大会初日は男女ミドル(クラシカル)種目が行われた。金メダル第1号は、女子座位2.5キロを制したオクサナ・マスターズ(米国)が手にした。日本勢では、女子立位5キロで、ソチ代表の阿部友里香(日立ソリューションズJSC)が3位に入り、自身初のW杯メダルとなる銅メダルを獲得した。

 

▼コメント

・オクサナ・マスターズ: 今日は雪質も天候もよい中でいいレースができ、優勝できて興奮している。手づくりのメダルなんて、すごく特別。それに、今までもらったメダルで一番素敵で美しい。大事にしたい。

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【特製の金メダルを手に、笑顔のオクサナ・マスターズ選手と、表彰式のアテンドを務めた、北海道雨竜(うりゅう)高等養護学校生。左から保土澤栞菜さん、川本麻衣さん、高橋杏実さん】

 

・阿部友里香: 地元開催でメダルが獲れたことは嬉しいが、(表彰台の)一番上を目指していたので悔しい。登りは大きく滑れたが、他は力みすぎている部分があったので、明日はそういう部分を改善して頑張りたい。

 

・15日: 大会2日目は男女スプリント(1キロ)クラシカルが行われ、女子立位の阿部友里香と男子立位の新田佳浩がそれぞれ銀メダルを獲得した。

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【1キロスプリントで2位に入った阿部友里香選手(右)はフィニッシュ後、優勝したブリタニー・フダック(カナダ)選手と健闘を称えあう=2015年2月15日/旭川市富沢クロスカントリースキーコース(撮影:星野恭子)】

 

 競技終了後には、市内のホテルで開会式とウエルカムパーティが開かれ、選手と大会スタッフ、ボランティアらが交流した。

 

▼コメント

・阿部友里香: まだ波に乗り切れていない感覚がある。あと3日間あるので、今の自分の力をしっかり出し切れるよう頑張りたい。

 

・新田佳浩: (今シーズンは)この旭川大会が自分の中で最も重要なレースと位置付けていた。昨日、メダルを獲りたかったが、残念ながら届かなかった(4位)ので、今日、集中してメダルを獲れて良かった。今大会の目標は複数のメダル獲得。まず一つ獲れたので、17日以降もしっかり集中して頑張りたい。

 

・西川将人旭川市長: 大会最終日まで市をあげて、大会成功に向けてサポートしたい。

 

・選手兼大会組織委員長、長田弘幸(日立ソリューションズ): 大会を成功させるのは地元の方たちの力。ボランティアなどで多くの方に関わっていただき、感謝している。地元の子どもたちもたくさん観戦に来てくれている。この経験が障害者や競技への理解のきっかけになればと思うし、海外選手にも市民との交流で心に残る大会にしてもらいたい。大会を成功させるよう、残りの日程も大きなトラブルなく運営できるよう気を配っていきたい。

 

・17日: 大会3日目は男女ロング・クラシカルが行われた。晴天で気温が上がり、時間を追うごとに雪のコンディションが変化する難しい条件のなか、日本から6選手が出場し、女子立位15キロで阿部友里香が2位、男子立位20キロで新田佳浩、男子視覚障害20キロで加藤弘(ぎしん治療院/ガイド:山本克俊)がそれぞれ3位に入った。加藤の銅メダルは今大会、視覚障害クラスの日本人選手として、今大会初のメダルだった。

 

▼コメント

新田佳浩: レースが日中ということで気温が上がることを想定しながらグリップワックスを選択するのは難しかったが、良いワックスを選択でき、不安なくレースに臨むことができた。レースでは、終盤までロシア選手と争うことができたことは収穫だったが、最後に競り負けてしまったところは今後の課題でもある。

 

・加藤 弘: ブラインドクラス初のメダル獲得ができて嬉しい。これは皆さんの力の結集で獲得できたメダル。ありがとうございます。

 

・18日: 男女スプリント・フリー1キロが行われ、女子立位の阿部友里香が2位に入った。決勝ではスタートから激しい2位争いを繰り広げ、上り坂でブリタニー・フダック(カナダ)に交わされたが、必死に食らいつき、ゴール手前で差を詰め、最後の直前で競り勝った。ゴール後は倒れこみ、しばらく立ち上がれないほどのラストスパートだった。

 

▼コメント

・阿部友里香: 予選でスローペースでのスタートになってしまったため、決勝ではピッチを上げて滑ることを心がけた。上り坂で抜かれたが、板が抜群に滑っていたのでゴール手前で差を詰め、最後の直線で競り勝つことができた。レースを振り返ると、上りから下りに入る時しっかり足を入れ、勢いをつけて下っていくことができた。また、滑る板をつくってくれたワックスマンに感謝したい。

 

・長濵一年クロスカントリーコーチ: 今日の阿部は、技術とレースの先々を読めるほどの冷静さがあり、特に技術面では大きく滑らすスケーティングと地形にあった走法の使い分けができ、制動を落さない、ほぼ完璧なレース運びができた。今日のレースは阿部自身を新たに成長させる内容であり高く評価したい。

 

・19日: 大会最終日は男女ミドル・フリーが行われ、日本から10選手が出場し、女子立位5キロの阿部友里香と、男子視覚障害10キロの高村和人(岩手県立盛岡視覚支援学校)がそれぞれ3位に入った。

 

▼コメント

・阿部友里香: 今日のレースは1周目からスプリントのように、攻めるレースをすることができた。2周目で失速してしまったが、最後まで諦めずレースを終えることができた。今大会を振り返って、残念ながら金メダルを取れなかったが、次につながる良いレースを展開できたと思う。最終戦のノルウェーまでしっかり調整して最後まで頑張りたい。

 

・高村和人: スプリントはクラシカル(15日)、フリー(18日)とも4位と悔しい思いをしたので、今日のメダル獲得は本当に嬉しい。最終戦ということもあり、レースを楽しむ気持ちで臨んだ。結果的に緊張することなく練習通りの滑りができた。今日のメダル獲得は今後のスキーに必ず生きるものと信じている。大会スタッフ、コーチ陣、応援してくれた選手たちに感謝したい。

 

・荒井秀樹日本代表監督: 今日が大会最終日となったが、この1週間、我々にとっても収穫の多い大会だった。3年後のピョンチャン(パラリンピック)へ向けた戦いはすでに始まっており、この旭川大会では各国とも10代や20代前半の選手らが活躍した大会でもあった。大会成功に向けて旭川市の皆様、多くの企業の皆様、競技役員やボランティアの皆様、会場に駆けつけてくれた2000人を超える観客の皆様、本当にありがとうございました。

 

 大会はこの日で全日程を終了し、閉幕した。各日のレース結果など詳細は、大会公式サイトに掲載されている。

 

 日本代表はこのあと、3月7日、8日に長野県白馬で行われる国内最高峰の大会、「ジャパンパパラ クロスカントリー競技大会」を経て、ワールド杯今季最終戦、「ノルウェー・サニーベール大会」に臨む。

 

■車いすバスケットボール

・11日: 日本代表と世界トップクラスの3カ国で争う、「2015国際親善女子車椅子バスケットボール大阪大会」が開幕した。開幕戦では、昨年の世界選手権で9位に終わった日本が同5位のイギリスと対戦、56-61で惜しくも勝利を逃した。もう一戦は、オーストラリアがカナダを54-38で1勝を挙げた。

 

・12日: 大会2日目は、日本がカナダを71-32で破った。カナダは昨年の世界選手権優勝国だが、今大会は若手選手中心の編成であり、必勝必至の日本にとってプレッシャーのかかるゲームだった。また、オーストラリアがイギリスを59-49で破り、2勝目を挙げた。

 

・13日: 日本がオーストラリアに54-37で快勝した。世界選手権6位で、今大会ここまで2勝と好調だったオーストラリアを破り、日本が決勝に進出。もう1試合でイギリスがカナダを60-51で下し、決勝戦で日本と対戦することが決まった

 

・14日: 大会最終日、決勝で日本はイギリスを59-42で破り、優勝を果たした。3位決定戦はオーストラリアがカナダを75-73で下した。

 

 日本代表はこのあと、今年10月に千葉市で開催が予定されている2016年リオデジャネイロ・パラリンピックのアジア・オセアニア予選大会に向け、さらなる強化を目指す。

 

▼個人賞

〈MVP〉

 萩野真世 (日本)

〈ベスト5賞〉

 クレア・グリフィス (イギリス)

 エイミー・コンロイ (同)

 カイリー・ガウチ (オーストラリア)

 ケイティー・ハーノック (カナダ)

 網本麻里 (日本)

〈フレンドシップ賞〉

 トム・カイル (オーストラリアヘッドコーチ)

 

ブラインドサッカー
・13日: 
日本ブラインドサッカー協会によれば、ブラインドサッカー日本代表が今年初の海外遠征のため、成田空港からイングランド・ヘレフォードに向けて出発した。ヘレフォードは2010年の世界選手権の開催地で、今遠征中の日本代表はイングランド代表と3回、さらに同国国内リーグにも参加して、クラブチームとの試合にも挑む予定という。

 

 イングランド代表は昨年秋、東京で開催された世界選手権の出場は逃したものの、06年と10年の世界選手権で日本と対戦し、2戦2勝。日本は昨年の世界選手権で史上最高の6位に入った勢いで、イングランドにリベンジし、初出場を目指すリオデジャネイロ・パラリンピック予選に向けて弾みをつけたいところだ。

 

 今回の遠征メンバーには昨年の世界選手権代表4名を軸に、若手6選手という構成になっていおり、幅広い選手に国際経験の機会を与え、選手層の強化を図る狙いもある。

 

<遠征メンバー> 名前(所属チーム)

GK:清都俊仁(buen cambio yokohama)/菅谷竜太(たまハッサーズ)

FP:落合啓士(buen cambio yokohama)/加藤健人(埼玉T.Wings)/寺西 一(乃木坂ナイツ)/日向 賢(たまハッサーズ)/川村 怜(Avanzareつくば)/山口 修一(埼玉T.Wings)/佐々木 ロベルト泉(Avanzareつくば)

監督: 魚住 稿(Avanzareつくば)

コーラー: 藤井 潤(ラッキーストライカーズ福岡)

 

・17日(現地時間16日): イングランド遠征3日目、日本代表はイングランド代表と対戦し、後半23分に第2PK(⇒註)から失点を喫し、0-1で敗れた。

 

 日本は前半、体格に勝るイングランドのダイナミックな攻撃を、持ち前の固い守備で無得点に抑えた。後半はやや強引な突破を図るイングランドに対し、日本もチャンスをつくり出すなど一進一退の攻防を繰り広げたが、後半22分、FP川村怜のファールで、第2PKがイングランドに与えられる。イングランドのキッカー、オーエン・ベインブリッジが強烈なシュートを日本のゴールに突き刺し、決勝点となった。

 

(註)第2PK: 前後半それぞれで、各チームの累積ファールが4つ目を超えた場合に、相手チームに与えられるPKのこと。通常のPKはゴールラインから6m地点で行うが、第2PKは8m地点から行う。

 

・19日(同18日): 遠征5日目、日本代表はイングランド代表との2戦目を行い、0-0で引き分けた。両チームとも前半から前がかりの攻撃的なサッカーを展開するも、互いにチャンスを活かせない。後半、日本代表はメンバーを若手中心でスタートしたが、イングランドの攻撃をうまく防ぎ、無失点を続ける。残り12分からベテランを投入し、得点を目指して攻勢に出たが、あと一歩及ばず。残り7秒で日本のファールからイングランドに第2PKが与えられたが、キッカーのオーエン・ベインブリッジのシュートはGK清都の正面に飛び、清都がセーブして、試合終了となった。

 

 次戦は21日(同20日)対イングランド(国際親善試合)戦で、続いて22日 (同21日)にはイングランド国内リーグに参加し、クラブチームと対戦の予定。

 

■陸上競技

・20日: 第9回東京マラソン(22日開催予定)の招待選手記者会見が都内のホテルで行われ、車いすの部招待選手の山本浩之(48)と土田和歌子(40/八千代工業)が出席した。

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【2月22日の東京マラソンで連覇を目指す山本浩之選手(左)と土田和歌子選手=2015年2月20日/東京・京王プラザホテル(撮影:星野恭子)】

 

 山本は2010年、12年につづき、昨年も大会を制し、今年は連覇を目指しての参戦となる。1月にインフルエンザを発症した影響でスタミナに不安を残すが、「他の大会も含めて連覇の経験がないので、ぜひ連覇を狙いたい。体調的には不安はあるが、経験でうまくカバーしてトップ集団に食らいつき、競り合いを見せられたらと思う。最後まであきらめず、優勝を目指したい」と力を込めた。

 

 土田は初出場の2008年以来、7連覇中だ。昨年10月の所属先移籍を機にレーサー(競技用車いす)も新調し、連勝記録更新とともに好タイムも期待される。「体のコンディションとしては例年になくいい状態にある。(タイムは)気象条件しだいだが、(新調したレーサーの調整具合も)今季は合ってきたので、日曜日のレースはとても楽しみにしている」と手ごたえを口にした。

 

 また、会見の冒頭、東京マラソン財団の早野忠昭レースディレクターが、来年の第10回大会から車いすの部も一般の部と同様に、パラリンピックレベルの海外選手を招へいし、国際レース化する計画を発表した。ニューヨークシティ・マラソンやロンドンマラソンなど海外のメジャーな大会はすでに国際化が進んでおり、東京マラソンもそうした大会と肩を並べることになる。

 

 ベルリンマラソンなどでも優勝経験のある土田は、「選手としてワクワクしている。海外選手と一緒に戦うことで、東京マラソンが本当に価値のある大会になると思う。(勝負としては厳しくなるが)より多くの選手と戦って勝ってこそなので、また頑張りたい。(国際化は)2020年東京パラリンピックの成功に向けても大切なこと」と歓迎した。

 

 2013年ボストンマラソン覇者の山本も、「これまでは日本のトップ3の誰かが表彰台に乗る状況だったが、海外選手が参加するようになれば、もっと迫力のあるレースが見せられる。日本ではまだ、生活のなかで車いすの人を見る機会が少なく、まして車いすのスポーツを見る機会は本当に少ない。だから、『障害者スポーツ=かわいそう』という意識がまだ感じられる。でも、日本のコースを各国の選手がすごいスピードで走っている姿をみることで、日本の人たちの意識も変わるのではないか」と期待を込めた。

 

 東京マラソン車いすの部は22日午前9時5分に東京都庁前をスタートする。

 

(星野恭子/文と写真)