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【佐野稔のフィギュアスケート4回転トーク 2014~15ヴァージョン(10)】ミスが目立った女子 宮原には世界選手権での「挑戦」に期待~2015四大陸選手権を振り返って<第2回> 

●欧州選手権との差を感じた、女子の四大陸選手権

 率直に言うと、女子については全体的に低調、特にフリーに関してはミスが目立ち、あまり出来の良くない大会でした。日本勢ふたりが表彰台に昇った喜び、あるいは優勝を逃した悔しさよりも、そちらのほうが気になってしまいました。

 

 もちろん初優勝を飾ったポリーナ・エドモンズ(アメリカ)は、男子2位のジョシュア・ファリス(アメリカ)同様、ひじょうに質の良い、子どもたちのお手本になるようなスケーティングを見せていました。ですが、彼女の勝因をあげるとすれば、大きなミスらしいミスをしなかったことです。際立った個性には欠けていました。

 

 それに対して、今月初めの欧州選手権で表彰台を独占したロシアの選手たちは、全員が「踊れる」ことにプラスして、それぞれが個性にあふれています。これはジュニアの選手たちも同様です。ひとりの指導者として、どんな育成方法をしているのか。ひじょうに気になるところです。

 

 世界選手権に次ぐ同じ位置付けにあるはずの、四大陸選手権と欧州選手権との差が、今シーズンは大きかった。より正確に言えば、各国の女子選手たちが、ロシア勢に水を空けられてしまった印象を受けました。

 

●「らしくない」ミスが目立った宮原

 ほぼノーミスでSP(ショート・プログラム)を終え、最も優勝に近かったはずの宮原知子でしたが、フリーでは珍しくミスが目立ちました。本来は安定感抜群の選手なのですが、今回は総じてジャンプの高さが足りませんでした。1位のエドモンズとは、わずか2.43点差だったことを踏まえても、宮原が普通の滑りをしていれば…と、言うのは簡単ですが、SPとフリーの2本を揃えるというのは、やはり難しい作業になります。

 

 宮原は去年の四大陸選手権でも2位でしたが、前回は村上佳菜子、今井遥と、ふたりの先輩がいるなかでの大会でした。言わば、ほかに「風よけ役」がいてくれたのです。ところが、今回は全日本チャンピオンとして出場。彼女の立ち位置は変わっていました。そのことが影響したのか。頑張ろう頑張ろうとするあまり、気負いが空回りしていたようにも映りました。

 

 守りではなく、まだまだ挑戦者でよいのではないでしょうか。むしろロシア勢に向かっていく立場になる世界選手権のほうが、迷いなく氷上に立てるかもしれません。去年12月の全日本選手権のときにも、ジャンプには回転不足の傾向がありましたので、世界選手権までの残り1カ月、まずはクリーンなジャンプに取り組んで、うまく修正をはかって欲しいと思います。

 

●またひとつ実績を積み重ねた本郷、よい勝負度胸をみせた永井

 3位に入った本郷理華のフリーを見る限り、大きなミスはなく、男子の村上大介同様、もっと点数が高くてもおかしくありませんでした。ですが、採点表で確認すると、ジャンプに回転不足の判定が付いていて、ちょっともったいなかった。今シーズンがシニアデビューの本郷には、まだ見る側の印象が薄いのかもしれません。

 

 とはいえ今大会の3位は、彼女のたしかな実績になります。これを積み重ねていくことで、与える印象は自然と変わっていくものなのです。滑りの内容自体は良かったのですから、本郷についてはこのまま右肩上がりの状態で世界選手権にのぞむこと。そうすれば、ひじょうに楽しみな存在になります。

 

 今回がシニアの国際大会デビュー戦となった永井優香は、フリー冒頭の連続ジャンプでいきなりミス。そのままガタガタッと崩れてもおかしくなかったところを、すぐに連続ジャンプを成功させて取り返してみせたあたり、たいした勝負度胸をしています。

 

 ジュニアでデビューした当初から、ミスの多いタイプの選手だったのですが、だいぶ安定してきました。ジャンプのひとつひとつなどからは、ひじょうに高い資質がうかがえます。年齢では本郷とは2歳、宮原とは1歳しか違わないのです。本人も「シニアの選手と滑れて、すごく自信になった」と話していましたが、今回の経験を刺激にして大きく成長してもらいたい。来月上旬の世界ジュニア選手権では、樋口新葉、坂本花織とともに、シニアと同じくやはり世界を席巻しているロシア勢に、思いっ切りぶつかってくれることを期待しています。

 

●世界選手権では、どこまでロシアに対抗できるか。

 鈴木明子の引退、浅田真央の休養と、日本の女子フィギュア界は過渡期にあります。じつは今シーズンの開幕前、私は「来シーズンの世界選手権の出場枠を3つ確保するのが、難しいシーズンになるかもしれない(※)」と考えていました(※フィギュアの世界選手権の出場枠は、前年の大会の成績によって、種目ごとに1ヶ国最大3枠が与えられる)。

 

 ところが、グランプリ・シリーズ、グランプリ・ファイナル、全日本選手権と、シーズンが進むにつれて、その考えは変わってきました。それだけの成長を、宮原と本郷が見せてくれたからです。ふたりの伸び具合は、私の予想以上でした。いまでは「3枠獲得」の可能性が、充分あると思っています。

 

 来月の世界選手権ですが、女子については「ロシアの選手たちに、そのほか各国の選手たちがどれだけ対抗できるのか」。間違いなくそうした構図になるはずです。宮原、本郷、そして村上の3選手には、ぜひ「健闘」以上の大活躍をくり広げて、私の予想をさらに良い方向に裏切ってくれることを期待しています。

 

(佐野 稔)

PHOTO by David W. Carmichael [CC BY-SA 3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0)], via Wikimedia Commons