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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(429) ゴールボール世界選手権開幕。日本代表「オリオンJAPAN」、男女ともに初戦白星発進!

視覚障害者のために考案されたチーム球技、ゴールボール。その4年に1度の世界一決定戦、「2022 IBSAゴールボール世界選手権」が12月7日、ポルトガル・マトジーニョスで開幕し、日本代表「オリオンJAPAN」は男女ともに初戦で快勝しました。今大会は男女各上位2カ国にパリ2024パラリンピック出場枠が与えられる重要な大会でもあります。大会は16日まで行われます。
「2022 IBSAゴールボール世界選手権」の開幕戦を戦う男子日本代表(右)とホスト国ポルトガル

まず、世界ランキング8位の男子が7日の大会開幕戦でホスト国、ポルトガル(同39位)を7-5で退けて勝利。同4位の女子は8日、同2位で東京パラ銀の「格上」、アメリカを6-2と圧倒。それぞれ「パリ切符獲得」に向け、幸先良い滑り出しを果たしました。(*世界ランキングは2022年3月時点。以下同)
「世界選手権」の初戦、アメリカに勝利し、喜ぶ日本女子チーム

■シーソーゲームも、「勝ち切ったことに意味がある」

大会開幕戦を戦った男子は有観客、しかも華々しい開会式の直後。さらには、見えない選手のよりどころとなる「音の聞こえ方」は会場によって異なるため、会場慣れしているポルトガルに分があるなど独特の緊張感がある難しいなかでの初戦でした。

先発メンバーはセンターに川嶋悠太キャプテン、ライトに佐野優人選手、レフトに金子和也選手。試合開始直前、日本は遅延行為によるチームペナルティを取られ、ポルトガルにペナルティスローで先制点を奪われ、1点ビハインドの立ち上がりとなりました。

しかし、開始1分で佐野選手がポール際に放ったストレートボールが決まり、すぐに同点に追いつきます。その後も金子選手、途中交代で入った宮食行次選手が得点を重ねますが、ポルトガルも食らいつき、シーソーゲームの展開に。前半は4-4で終了します。

後半開始早々に宮食選手が勝ち越しゴールを決めると、日本がペースをつかみます。残り5分で焦ったポルトガルがあいついで犯したハイボール、ロングボールのペナルティに対し、2回とも金子選手がペナルティスローをものして3点差と突き放します。残り2分でポルトガルに1点を返されたものの、落ち着いて守り切った日本が貴重な勝ち点3をつかみました。
3点を挙げた金子和也選手(中央)と佐野優人選手(奥)、川嶋悠太キャプテン(手前)

試合後、川嶋キャプテンは、「ポルトガルとは初対戦で、データが少なく難しかったが、勝ち上がるには落とせない試合だった。流れが悪いなかでも耐えきれたことはよかった」とほっとした表情で話しました。

この試合で最も活躍した選手に贈られる「プレイヤー・オブ・ザ・マッチ」にも選ばれた川嶋選手。この賞は世界選手権では初の試みであり、川嶋選手も「ゴールボールをやっていて、初めてもらいました」と笑顔を見せつつ、「明日1日のオフをはさんで以降は、(東京パラ金の)ブラジル戦から6連戦が始まる。とくにベルギー、トルコ、ドイツの山場にベストコンディションを持っていきたい」と次戦以降に向け、気を引き締めていました。
大会開幕戦を制し、大会第1号の「プレイヤー・オブ・ザ・マッチ」を獲得した川嶋悠太キャプテン。手に持つ証書には、優勝トロフィーのイラスト(右)と、それぞれが獲得した対戦チームと日付が記載されたスペシャルなもの

この日3得点の金子選手は、「初戦を勝ちで突破できたのは最高。チームペナルティで先制されたときも、『1点くらい、どうとでもなる』という気持ちだった」と力強くコメント。後半の勝負所で相手を突き放すペナルティスローでの2得点については、「センターの川嶋さんと合わせてきたフェイクも決まり、練習の成果が一番いいところで出せた」と笑顔で振り返りました。

途中交代で入って2得点の宮食選手は、「相手のボールが異質で音が取りにくく、守備に神経をすり減らされたが、ひとまず良かった」と安堵の表情。次戦のブラジルには自身が憧れるL・モレノ選手がいます。「気合が入りまくり。すごいボールがビシバシ来ると思うが、逆にレオンから点を取りたい」と、活躍を誓っていました。

男子代表を指揮する工藤力也コーチは、世界ランキングでは格下の相手に対し、「最低限の勝ち点3を死守できてほっとしている。国際大会での初戦で、いつも通りの入り方や準備したものを出し切ることの難しさを改めて感じた。それも実力。男子チームが少しずつ成長していることは感じているが、(動画などで)内容を検証し、次戦は出し切って勝ちたい」と意気込みました。

なお、今大会は東京パラのメダリストや各大陸別選手権上位国など、男女各16チームが出場。それぞれ8カ国ずつに分かれて予選リーグを戦い、上位4カ国が決勝トーナメントに進出します。決勝までいけば、最大10試合を戦うことになる長丁場です。

東京パラに開催国枠で初出場し、5位入賞と躍動した男子は、「自力出場」でパリを目指しています。予選グループCに入り、この後は世界ランク1位で東京パラ金のブラジル、同12位のアルジェリア、同7位のベルギー、同6位のトルコ、同5位のドイツ、同14位のカナダの順に戦います。

市川喬一総監督は事前に、「中盤のベルギー、トルコ、ドイツ戦が山場」と話していましたが、連戦となるのでコンディション調整も重要です。難しい初戦での勝利を弾みにし、勢いに乗った戦いぶりに期待です。

■攻守に安定。「プラン通り、ひとつ越えた」

東京パラ銅メダルの日本女子は8日の初戦で、攻守の要センターに高橋利恵子選手、ライトに萩原紀佳選手、レフトにベテラン欠端瑛子選手が先発。「格上」のアメリカに対し、終始リードする展開で6-2と快勝しました。

試合序盤は両チームとも持ち味を発揮して膠着しましたが、前半6分のタイムアウト後、日本がペースをつかみます。まず、エース萩原選手がセンターに移動して放ったグラウンダーが相手センターとレフトの間を抜いて先制。その後も欠端選手や萩原選手の追加点で前半を4-1で折り返します。後半開始早々にも萩原選手が得意のコースから1点を追加。その後、1点を返されるも、残り4分で代わって入った天摩由貴キャプテンが残り55秒でノータッチゴールを決めるなど主導権を渡さず、「格上」を圧倒しました。
3人で壁をつくって守るゴールボール。中央は日本の攻守の指令塔、センターの高橋利恵子選手

市川総監督は、「まずはプラン通り。合宿でやってきた攻撃パターンで焦らせば、パワーチームのアメリカは崩れると思っていた。失点2点は良くなかったが、(難しい初戦を)ひとつ越えたので、(次の山である)ブラジル、イスラエルにしっかり勝利して予選をいい方向にもっていきたい」と前を見据えていました。

途中出場で攻守に活躍した天摩キャプテンは、「初戦を勝っていい流れを作りたい思いがあったので、よかった」と安堵の表情。ダメ押しの1点については、「指示されたコースに狙って投げたら決まった。これまでアメリカ戦ではよく得点してきたので、監督から『今回も何かある』とずっと言われていたので、嬉しい」と笑顔がこぼれましたが、6連戦が控える今後に向け、「チーム全員がそれぞれの役割を果たし、勝ち点を積み上げ、いい順位で予選を勝ち上がって(決勝)トーナメントに行きたい」と気合を入れなおしていました。

先制など4得点と活躍し、「プレイヤー・オブ・ザ・マッチ」も獲得した萩原選手は、「女子はスロースタートが課題だったが、初戦に勝って勢い良くスタートできてよかった」と笑顔を見せました。初出場だった東京パラではチーム最多25得点と活躍したシンデレラガールは初陣の世界選手権でも躍動。「オフェンスはベンチの指示通りに投げられた。ディフェンスはゼロに抑えられなかったが、(守備姿勢での)脚の出し方などの課題を大会中に改善していきたい」と今後への意気込みを口にしました。
4得点でチームの勝利に貢献した萩原紀佳選手も、「プレイヤー・オブ・ザ・マッチ」を受賞して笑顔

東京パラからセンターに定着した高橋選手は、「東京パラを思うと、初戦はどうなるかと思っていたが、『自分たちのやるべきことをやればいい』と言われ、その通りにできた」とほっとした表情で振り返りました。東京パラの初戦では強豪トルコ戦に1-7と大敗していたからです。

さらに、萩原選手の先制点について、「コースも球種も私が指示した通りのボールで得点してくれたので、『もう大丈夫だ』と思えた。『してやったり』の気分だった」と攻撃面でも司令塔の役割を全うし、自信を深めた様子がうかがえました。

次戦の相手はポルトガルで、男子同様に初対戦であり、今大会2つあるコートのうち初戦とは別のコートになります。少し狭い建物内にあるため音が反響して聞こえ、「まるでお風呂場のよう」と選手たちは話します。高橋選手は、「初めてのチーム、新しい会場を意識しながら、自分たちのやれることをやって勝ちたい」と言葉に力を込めました。

グループBに入った女子はこの後、世界ランク53位のポルトガル、同6位のブラジル、同7位のイスラエル、同8位のオーストラリア、同11位のイギリス、同27位のエジプトの順に対戦します。6大会連続でのパラとなるパリ大会出場に向けた女子の戦いぶりにもご注目ください。

なお、大会の模様はライブ配信されています。9時間の時差がありますが、アーカイブ動画もあります。「静寂のなかの熱い戦い」をくり広げ、パリへの切符獲得を目指す男女「オリオンJAPAN」の挑戦をぜひ、応援ください!

▼2022 IBSAゴールボール世界選手権大会公式サイト
https://www.goalball2022.pt/

▼ライブ配信チャンネル
https://www.youtube.com/@KuriakosTV/streams

▼オリオンJAPAN試合予定 (時刻表示は日本時間)
・女子予選グループB
12月8日(木) 23:50: vsアメリカ (6-2で勝利)
12月9日(金) 18:00: vsポルトガル
12月10日(土) 23:50: vsブラジル
12月11日(日) 21:30: vsイスラエル
12月13日(火)  2:10: vsオーストラリア
12月13日(火) 21:30: vsイギリス
12月14日(水) 22:40: vsエジプト

・男子予選グループC
12月8日(木) 4:00: vsポルトガル (7-5で勝利)
12月10日(土)  1:00: vsブラジル
12月10日(土) 20:20: vsアルジェリア
12月11日(日) 23:50: vsベルギー
12月12日(月) 18:00: vsトルコ
12月14日(水) 1:00: vsドイツ
12月14日(水) 19:10: vsカナダ

(文・写真:星野恭子)