「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(427) ブラサカ日本代表、アジア選手権で3位に。「ひとつ歴史は塗りかえられた」
11月11日からインド・コチで開かれていた、2年に1度のアジア王者決定戦「IBSAブラインドサッカーアジア・オセアニア選手権 2022」は18日に最終日を迎え、日本代表はイランとの3位決定戦に挑みました。両者一歩も引かない試合は0-0で終了しましたが、つづいて行われたPK戦(3人制)で日本が2-1で勝利。この結果、日本の最終順位は3位となりました。
「IBSAブラインドサッカーアジア・オセアニア選手権 2022」で3位となって、表彰された日本代表チーム (©︎IBF Foundation / H.Wanibe)
今大会の日本は予選ラウンドを4戦全勝のグループB首位で終え、17日の準決勝でグループA2位のタイと対戦。激しい攻防が展開されるも両チーム無得点で試合は終了。日本はPK戦に1-2で惜しくも敗れ、3位決定戦に回っていました。
イランとはグループリーグでも激しい攻防の末、日本が1-0で勝ちましたが、再戦となった準決勝ではイランの堅い守備に阻まれてゴールを割れず、2試合連続のPK戦に入りました。前日の悔しさが残るなか、同じオーダーで臨み、まず園部優月選手(19)がゴール左上隅に決めました。イラン1人目の成功後、日本2人目の鳥居健人選手(31)はキーパーに止められたものの、イラン2人目のシュートを日本の佐藤大介キーパーが止めて、互角に持ち込みます。3人目の川村怜主将(33)がきっちりとネットを揺らして優位に立つと、イラン3人目が外して日本の勝利が決定しました。
3戦目の韓国戦でハットトリックや3位決定戦のPK戦でシュートを決めるなど、チームをけん引した川村怜主将(©︎IBF Foundation / H.Wanibe)
3位決定戦でPK戦の末、イランに勝利し、喜び合う日本代表選手たち (©︎IBF Foundation / H.Wanibe)
ただし、日本代表が今大会で最大の目標に掲げていたのは、「優勝チームに与えられるパリパラリンピック出場権獲得」でした。残念ながら今大会では獲得ならずでしたが、パリ出場へのチャンスはもう1回あります。今大会ベスト4以上に与えられる来年8月にイギリス・バーミンガムで開催される世界選手権の出場権は獲得しており、そこで再び、そして最後のパリ大会出場権獲得に挑戦します。同大会での条件は、各大陸別選手権で出場権を得ていないチームのなかで上位3位に入ることです。
中川英治監督は日本ブラインドサッカー協会を通して、「(パリ)パラの切符を逃し、非常に悔いの残る大会ではあったが、準決勝でPK戦で負けた後、3位決定戦でPK勝ちできたことは非常に大きかった。公式戦では2006年以来のPK勝ちだったので、一つ日本代表の歴史を塗りかえられたと思う」と手ごたえを語りました。
■鉄壁の守備や厚みの増した選手層など、示した進化
実際、収穫も多い大会でした。例えば、6試合を無得点で抑えた堅い守備は大きいでしょう。川村主将は、「6試合戦って無失点で大会を終えたことは、守備面は非常に評価できると思いましたし、攻撃から守備のトランジションはしっかりできて、練習の成果が出たと思う。厳しい戦いの中でも、環境に適応して戦うことができた」と振り返りました。
準決勝対戦で、相手コーナーキックに備える日本代表選手たち。左から、守備の要として無得点試合に貢献した佐々木ロベルト泉選手、攻守でチームをけん引した川村怜主将、若きエースとして強い印象を残した平林太一選手と、守護神の佐藤大介ゴールキーパー(提供:日本ブラインドサッカー協会)
また、選手層の厚さも示しました。例えば、フィールドプレーヤー8人中5人が得点者に名を連ねるなど、選手交代を多用しながら高いチーム力を維持しました。川村主将は「このチームは経験豊富な選手と若手が融合した、とても素晴らしいチームでしたし、誰がヒーローになってもおかしくない、プレーしていて楽しい、ポテンシャルを持ったチーム。もっとレベルをあげて、チームとして進化していきたい」と前を見据えました。33歳の彼自身も3戦目にハットトリックを決めるなどエースとして、攻守にわたる要として、活躍しました。
44歳のエース、黒田智成選手もベテランとして存在感を放った一人。大会を通して合計9ゴールを決め、大会得点王に輝きました。とくに初戦のウズベキスタン戦では計6点のダブルハットトリックの活躍で、チームを勢いに乗せました。
黒田選手は、「国際大会でこれまで個人タイトルを受賞したことがあまりなかったので、今大会では得点王となり、すごく嬉しかった。これも、チーム全員で高い位置から守備をして攻撃を行うという、チーム全員のハードワークの結果、受賞することができたと思うので、チームの皆にも感謝したい」と喜びました。それでも、「大会の目標はアジアチャンピオンになることだったので、その目標を達成できなかったことは、とても残念だった。今後の目標は、世界選手権で必ずパリパラリンピック出場権を勝ち取ること」と力強くコメントしています。
若手選手たちも鮮烈な印象を残しました。その一人、今大会で公式戦代表デビューを果たした16歳の平林太一選手は初戦(対ウズベキスタン)での1ゴールで日本代表最年少(16歳1カ月)ゴール記録を更新。つづく2戦目(対オーストラリア)ではハットトリックも達成し、さらにはグループリーグ最後に1-0で勝利したイラン戦では決勝点をたたきだす活躍でした。
準決勝のタイ戦で、ゴール前に攻め込もうとする平林太一選手(左)。「後方から前線へと一気に持ち込むドリブルシュート」が持ち味と大会前に語っていた通り、今大会を通し、ゴール前で再三のチャンスを作り、得点も重ねた (提供:日本ブラインドサッカー協会)
準決勝前日に行われたオンライン会見で平林選手は、「初ゴールを決めるまでは脚が震えて、ボールが足につかない感じだったが、1点決めたことで、自分の中でひとつ区切りがついた。そこから自分のプレーができるようになった」と振り返り、イラン戦での決勝点については、「結果的に僕が決めた点で勝てたのは自分自身の自信にもなったし、すごい意味のある1勝だったと思うが、試合中から自分が点を取るのはもちろん目指しているところだが、チームで点を取って勝てるところを意識していたので、自分の1点とチームの1勝を嬉しく思っている」と、頼もしくコメントしました。
また、東京パラリンピック代表で、今大会初戦で代表初ゴールも決めた19歳の園部選手は2回のPK戦とも一人目のキッカーを任され、2点とも決めきる度胸の良さと高い技術を見せました。園部選手は練習時からPKの決定率の高さはチームの中でも指折りで、今回の実績でますます自信を深めたのではないでしょうか。
準決勝のタイ戦で、PK戦一人目で登場し、見事にゴールを決め、喜ぶ園部優月選手。翌日のイランとの3位決定戦でも同様の場面でゴールネットを揺らした(提供:日本ブラインドサッカー協会)
■あと一歩の突破力
一方で、準決勝、3位決定戦では守備固めを敷いたタイ、イランのゴール前をこじ開けることができず、無得点に終わり、PK戦となる厳しい戦いを強いられました。川村主将も、「準決勝以降のトーナメントで、流れの中で点が取れなかったり、準決勝で敗退してしまったので、目標である優勝することができず、とても悔しいですし、ゴールを決め切る力をつけていかなければならないと実感した」と課題を口にしました。
中川監督も、「東京2020パラが終わってから大いに守備の強化が図れている。全員で守備をするので、攻撃も全員で行い、30分の中で得点を取れるようにすることが、世界選手権に向けてこれから残り8ヶ月の間の課題」とチームの守備力を評価するとともに、今後の強化の方向性について話しました。
前述したように、日本代表は今後、パリパラリンピック出場権獲得という大きな目標に向かって、来夏の世界選手権で再度、挑戦します。それぞれに持ち味や強みが異なる選手たちがチーム一丸でさらなる進化を遂げ、目標達成することを大いに期待したいと思います。
なお、18日に行われたアジア・オセアニア選手権の決勝戦では前回優勝の中国がタイを0-0からのPK戦2-1で下して優勝し、同時にパリ大会への切符もつかみました。
<IBSAブラインドサッカーアジア・オセアニア選手権>
2022年11月11日~18日/インド・コチ
●最終順位
優勝:中国/第2位:タイ/第3位:日本/第4位:イラン/第5位:韓国/第6位:マレーシア/第7位:インド/第8位:ウズベキスタン/第9位:カザフスタン/第10位:オーストラリア
(*上位4位まで来夏の世界選手権出場権獲得)
●表彰
Player of the Tournament:Zhu Ruiming(中国)/得点王:黒田智成(日本)/ベストゴールキーパー賞:Kasikonudompaisan Ponchai(タイ)/フェアプレー賞:オーストラリア代表
(文:星野恭子)