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星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ(68) 1.27~2.1

 国内外のパラリンピック競技の話題を独自にセレクトしたパラスポーツ・ピックアップ・シリーズ。今号ではパラアスリートと健常選手との海外合同合宿という陸上競技界の画期的な試みをはじめ、ベスト8に終わった錦織圭選手の悔しさを晴らすような、全豪オープン車いすテニスの国枝慎吾選手と上地結衣選手の連覇などをリポート。また、2020年東京パラリンピックで実施される22競技も正式に決定し、大会準備や各競技団体の選手強化策なども新たなフェーズに入っていくことでしょう。

 

■陸上競技

・27日: 日本パラ陸上競技連盟と日本陸上競技連盟は1月30日から2月9日までスウェーデン・イェーテボリで各連盟に所属する跳躍選手計5名の短期トレーニング合宿を合同で行うことを発表した。日本パラ陸連からは男子走り高跳でパラリンピック4大会連続入賞を果たしている鈴木徹選手(プーマジャパン)が、日本陸連からは次代を担う期待の4選手、平松祐司選手(西城陽高等学校)、佐久間滉大選手(法政大学第二高等学校)、城山正太郎選手(東海大学北海道)、高橋祐悟選手(立命館大学)が派遣される。5選手は北欧のトップ選手などがトレーニングする室内練習場を拠点に、現地の五輪メダリストも育てたY.トレガロコーチの指導を受けるほか、室内競技大会への出場も予定されている。

 

 日本陸連の公式サイトによれば、日本パラ陸連の三井利仁理事長は、「2020年に向けて、選手、組織共に多くの試みにチャレンジをして、世界のトップアスリートに勝つことができるよう計画をしており、今回がその第一歩となることを期待している。選手諸君には、互いに良い刺激が得られることを期待している」とコメント。また、日本陸連強化委員会の山崎一彦副委員長は、「若い頃には異なる刺激を入れて自身の気づきを得ることも極めて重要。パラリンピックで活躍している鈴木選手と合同で行うことにより、厳しい条件での身体活動を学べることや鈴木選手にとっても区別なくトレーニングができる新しい模索ができると信じている。さらなる飛躍が跳躍で現れるように期待している」と話している。

 

 こうした形で両連盟が協働して選手強化を図るのは画期的な試みとなる。2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まり、また昨年4月からパラスポーツの所管が厚生労働省から文部科学省に移管されたことにより、こうした交流も実施しやすくなった。今回の試みが今後につながる実績となり、他の競技にもよい刺激となることを期待したい。

 

■ノルディックスキー

・28日: アメリカ・ウィスコンシン州ケーブルで開幕した「2015ノルディックスキー世界選手権大会」の第4日、男女クロスカントリー・スプリント・クラシカルが行われ、日本からは2選手が出場。女子立位の阿部友里香(日立ソリューションズJSC)が5位に入賞した。

 

・30日: 世界選手権5日目、男女バイアスロン・ロングが日本からは2選手が出場、女子立位の出来島桃子(新発田市役所)が6位、男子立位の佐藤圭一(エイベックス・グループ・ホールディングス)は8位だった。

 

・2月1日: 世界選手権最終日、男女クロスカントリー・ミドル・クラシカルが行われ、日本からは4選手全員が出場、女子立位の阿部友里香(日立ソリューションズJSC)が6位に入賞した。出来島桃子(新発田市役所)は12位、男子立位の佐藤圭一(エイベックス・グループ・ホールディングス)は16位、岩本啓吾(東京美装興業)は20位だった。大会はこの日で全日程を終了、閉幕した。

 

 今大会を通してロシア勢の強さが際立った。男女合わせて24個のメダルを獲得し、昨年のソチ冬季パラリンピックで他を圧倒した強さを維持し続けている。個人としては、女子立位のO.コノノバ(ウクライナ)が6個のメダルを、男子座位のA.ソール(アメリカ)が5個のメダルを獲得。また、クロスカントリースキーの女子座位はドイツのA.エスコーが、バイアスロン男子視覚障害はロシアのN.ポルーキンとガイドのA.トカレフ組がそれぞれ全種目制覇を果たした。

 

 日本障害者クロスカントリースキー協会の発表によれば、今大会出場4レースすべてで入賞(最高4位)を果たした阿部は「今回の世界選手権は良いところも悪いところもでたレースだった。この反省を生かし旭川のワールドカップ(*詳細下記)では精一杯頑張ります」とコメント。

 

 また、元オリンピック選手で五輪ナショナルチームコーチとしても活躍し、今シーズンからパラチームのコーチ陣に加わった長濱一年クロスカントリーコーチは、今大会を通して日本選手と海外トップ選手とのスキー技術の違いに気づいたといい、「良いものは吸収し、今後、反復走をしながら地形にあった走法の使い分けやテンポの切り替えを意識させ、リズム良く滑れるようトレーニングで補って行きたい。選手それぞれに課題も多いレースになったが、成長する上でもレースを自分なりに検証し、次のレースにつなげてほしい」と総括した。

 

 なお、IPCノルディックスキー日本チームの次戦は今季2戦目となるワールドカップで、会場は北海道旭川市になる。史上初のアジア地域でのW杯開催となるが、旭川市は以前より、日本最高峰の大会、ジャパンパラ大会などで大会開催の実績がある。念願のW杯誘致に成功し、現在は市をあげて大会準備を進めている。

 

▼ワールドカップ第2戦

2月14日(土)~19日(木)

北海道旭川市 富沢クロスカントリーコース

大会公式サイト http://japanteam.jp/wc/index_j.html

 

■車いすテニス

・30日: 全豪オープン車いすテニスの部男女ダブルス決勝が行われ、女子は上地結衣(エイベックス)/J.ホワイリー(イギリス)組が大会2連覇を達成。男子は国枝慎吾(ユニクロ)/S.ウデ(フランス)組が2連覇した。国枝個人としては、ダブルスは2006年から9回目の出場で、無敗を守った(2012年は肘の故障により欠場)。

 

・31日: 全豪オープン車いすの部男女シングルスが行われ、男子は国枝がウデに6-2、6-2で勝ち、3年連続8度目の優勝を果たした。国枝は2007年の初出場以来、肘の故障で欠場した2012年をはさみ、シングルスも無敗。また、前日にダブルス優勝も果たしており、単複制覇も3年連続となる。

 

 女子は、上地が初優勝に挑んだが、J.グリフィオエン(オランダ)に3-6、5-7で敗れ、2大会連続の準優勝となり、惜しくも単複制覇はならなかった。

 

■アラブ首長国連邦発

・31日: 国際パラリンピック委員会(IPC)はアラブ首長国連邦アブダビで行われた理事会で、2020年東京大会で実施する22競技を発表した。昨年10月に決定した16競技に加え、8つの候補競技の中から今理事会で、カヌー、自転車競技、5人制サッカー(ブラインドサッカー)、柔道、テコンドー、車いすフェンシングの6競技の採用を決めた。2016年リオデジャネイロ・パラリンピックの正式競技である7人制サッカー(脳性まひ者サッカー)とセーリングの2競技が外れた。

 

▼2020年東京パラリンピックの正式競技

カヌー/自転車競技/5人制サッカー(ブラインドサッカー)/柔道/★テコンドー/車いすフェンシング/陸上競技/アーチェリー/★バドミントン/ボッチャ/馬術/ゴールボール/パワーリフティング/ボート/射撃/シッティングバレーボール/水泳/卓球/トライアスロン/車椅子バスケットボール/ウィルチェアーラグビー/車いすテニス

(★印は2020年東京大会から新採用となる競技)

 

 IPCの公式サイトによれば、フィリップ・クレイヴン会長はこの決定に対して、「この決定に達するため、IPCが2013年11月から行ってきた審査プロセスはこれまでで最も厳密なものだった。最終判断は簡単ではなかったが、2020年東京大会の実施競技が斬新でベストなものとなるよう、候補となったすべての競技を同じ条件で評価し、十分な議論を尽くした。7人制サッカーとセーリングを採用しなかったのは、両競技とも『世界的な普及』という点でIPCが規定する最低条件を満たしていないという理由からである」などとコメントしている。

 

■アメリカ発

・2月1日: 全米プロフットボールリーグ(NFL)の優勝決定戦「スーパーボウル」が行われた。米国最大のスポーツイベントであり、毎年、全米最高のテレビ視聴率を記録すると言われ、大手企業が高額のスポンサー料を払い、力の入ったコマーシャル(CM)を出稿することでも知られる。今年のスポンサー料は昨年を上回り、30秒枠で約450万ドル(約5億円)とも言われている。

 

 そんななか、今年は義足ユーザーが起用されたCMが2本あり、話題となっている。一つは、地元アメリカの両脚義足のスノーボーダー、A.パーディ選手を起用した自動車メーカー、トヨタのCM。バーディー選手は2014年ソチ冬季パラリンピックで、新採用となったスノーボードクロスで銅メダルを獲得。ダンサーや女優としても活躍している。

 

 もう1本はマイクロソフト社のCMで、生後11カ月で両足を失ったB.オニールくんを起用。義足を付け、陸上やテニス、野球などさまざまなスポーツに挑戦し、生き生きとした笑顔を振りまく姿が映し出されている。

 

 IPC公式サイトによれば、クレイグ・スペンス広報部長は、パラアスリートのCM起用は増加傾向にあり、ほとんどのCMで選手の「障害」でなく、「能力」がフォーカスされ、人々に力を与える存在として描かれている点を喜んでいる。また、「パラアスリートやスポーツにチャレンジする人たちはついに、自らの力でスター選手として、ロールモデル(お手本)として見なされつつある。こういう状況が今後も長く続くことを願っている」とコメントしている。

 

(星野恭子)