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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(425) ブラサカAO選手権まもなく開幕。日本男子は優勝でパリへの切符を目指す

2年に1度行われる、ブラインドサッカーのアジア・オセアニア選手権(AO選手権)が11月11日、インド・コチで開幕します。男子の部で優勝したチームには2024年のパリパラリンピックの出場権が与えられることになっています。現在、世界ランキング(*)4位の日本は2005年大会以来の優勝で、パリへの切符獲得を目指します。(*:2022年1月発表)

大会の模様は全試合、Youtubeでライブ配信され、とくに日本代表(男女)の全試合ついては日本ブラインドサッカー協会の公式YouTubeアカウントにて日本語の実況をつけた映像を観戦できます。この機会にぜひ、アジアで戦うブラサカ日本代表を応援ください。

11月11日に開幕するブラインドサッカーアジア・オセアニア選手権への壮行会(11月1日)で、「ワンチーム」「アジア1位」などの思いを込める日本男子代表チーム(一部)。前列左から、田中章仁選手、園部優月選手、川村怜キャプテン、中川英治監督、鳥居健人選手、平林太一選手。後列はチームスタッフの皆さん (撮影:2022年11月1日/星野恭子)

■パリへの戦いの第一歩

なお、男子の出場予定国は日本のほか、東京パラ4位の中国(世界ランキング4位)、前回大会準優勝のイラン(同14位)、東京パラ7位のタイ(同6位)、開催国のインド(同25位)、韓国(同18位)、マレーシア(同28位)、ウズベキスタン(ランクなし)、カザフスタン(同)、オーストラリア(同)の10カ国で、これは過去最多となります。

ただし、実は主催者の都合でまだ、正式な試合スケジュールが発表されていません。おそらく5チームずつ、2つのグループリーグに分かれて総当たりで対戦し、各グループの上位2チームが決勝トーナメントに進出するものと思われ、8日間で最大で6試合を戦い抜くことになります。組み合わせ抽選も開幕直前の現地で行われる予定で、東京パラ以来初、あるいは全くの初対戦となるチームもあり、難しい戦いとなることが予想されます。

日本は過去のアジア選手権で中国やイランなどの壁を越えきれず、東京パラも開催国枠での初出場でした。「自力でパラリンピック切符をつかみとる」が今大会での最大の目標です。

紅白戦で戦術を確認するブラサカ男子代表 (撮影:2022年9月25日/星野恭子)

決戦を前に11月1日には最終合宿と壮行会が行われました。練習では戦術やディフェンスの陣形などの確認に加え、PK練習(※1)をじっくりと行っていました。(※1: ブラインドサッカーでは2種類のPKがあり、相手の反則によって与えられるPKはゴールまで6mの位置から、相手の累積チームファール数が5つを超えると与えられる第2PKはゴールまで8mの距離からシュートする)

壮行会ではスポンサー企業の来賓も見守るなか、中川英治監督が決意を表明しました。「今年1月に立ち上がった日本代表のテーマは新しい歴史を切り開くこと。自分たちの力でパラリンピックの舞台に戻るために努力を重ねてきた。アジア選手権は(パリ出場への)一つ目のチャンス。僕も選手たちもワクワクしています。壮行会で元気をいただいたが、帰国時にまた、喜びを分かち合える会ができればと思う」

川村怜キャプテンも、「いつもアジアでは過酷な戦いが続きますが、チーム一丸なり、体を張って全力を尽くして戦ってきます。アジアチャンピオンとなる瞬間の喜びを、皆で分かち合いたい」と、活躍を誓いました。

その後のインタビューで改めて、対戦相手が開幕直前まで決まらない状況に対し、中川監督は「ありえない」と話したうえで、「他のチームも一緒なので、どうアドバンテージをとるか。日本は、分析スタッフの質や食事、連戦でもトレーナーによる回復力など、トータルでマネージメントできるチーム。いくつかシミュレーションも準備している」と話しました。全く情報のない初出場の3チームも要注意ですが、「1試合目に当たらなければ、分析できる」とチームの対応力に自信を見せました。

そのうえで、特に意識している相手には、前回優勝の中国と、同準優勝のイランを挙げました。「タフなチームだが、日本が優勝するためには戦わなければいけない相手。(負けて)悔しい気持ちも知っているので、僕らが歴史を塗り替えたい」と意気込みました。

代表選手はフィールドプレーヤー8人、ゴールキーパー2人。中川監督は、「年齢や経験でなく、パフォーマンスがよく、誰が出ても同じプレーモデルができる選手を選んだ。ベテランと若手がうまく融合したチーム」と手ごたえを話し、「キーパーからのスローや脚のパスによるビルドアップなども仕上がっている」と話しました。キーパーを起点とした連係プレーにも注目です。

また、アジア選手権初出場で新戦力として期待されるのが、チーム最年少の16歳、平林太一選手です。今年4月に初めて日本代表強化指定選手に選出されて急成長。とくにストライカーとして得点力が持ち味です。

攻撃力が期待される新戦力、平林太一選手。「前線まで持ち込めるドリブルを見てほしい!」 (撮影:2022年9月25日/星野恭子)

国際経験も少ない分、他チームにとっては情報が少ない「サプライズ」選手。日本が苦しめられてきた中国やイランに対しても、「そういう、自分たちよりも格上のチームとやれることがすごく楽しみ」と頼もしい限り。「攻撃のポジションをやることが多いので、点を取ることで優勝に貢献したい」と意気込み、見てほしいプレーは、「後ろからでも前線にもって行けるドリブル」とアピール。ドリブルで交わして鋭いシュートでネットを揺らすシーンに期待です。

チームをけん引する川村キャプテンも、「チームとして1試合ごとに進化しながら、振り返ってみたらアジアの頂点に立っていたという大会にしたい」と力強いコメント。その言葉に期待しましょう!

■初代女王を狙う日本

女子の部がAO選手権で実施されるのは初めてとなります。出場は日本とインドの2チームのみ。どちらが勝っても初代女王として歴史に刻まれます。現在は世界の普及状況などから、パラリンピックではまだ、女子の部は実施されていませんが、認知度を高め、参加意欲を高めるためにも、アピールできる貴重な機会でもあります。

初めてのアジア・オセアニア選手権に挑む、ブラインドサッカー女子日本代表(一部)。左から、田中一華選手、寺林眞智子GK、竹内真子キャプテン、若杉遥選手、菊島宙選手、鈴木里佳選手、加賀美和子選手、和地梨衣菜GK (撮影:2022年9月25日/星野恭子)

なお、日本は世界のなかでもいち早く強化に着手した国の一つで、2017年から日本代表を編成して合宿を重ね、チャンスがあれば、国際大会にも出場して強化を進めてきました。とはいえ、パラリンピック競技になっている男子に比べると、国内はもちろん、世界的にも選手数も限られ、練習環境も限られています。

それでも、来年8月にイギリスで開かれる世界選手権で初めて実施される女子の部で世界を驚かせようと、初めてのアジア選手権で確実に優勝し、手ごたえをつかみたいと意気込んでいます。

9月下旬の合宿時に、今年1月から女子代表を率いる山本夏幹監督に話を聞きましたが、アジア選手権は「相手どうこうよりも、自分たちがこれまで積み上げてきたものをどれだけ出せるか、チャレンジの場」と位置付け、具体的には「相手ゴール前のエリアに選手が2人、3人と入っていき、得点チャンスを増やすこと」を目標に挙げました。

女子代表には菊島宙選手という、ドリブル突破からの攻撃力が強みで、男女混合の国内大会でも得点王に選ばれるほどの逸材がいます。彼女の得点力をより輝かせるためにも、他の選手たちがゴールエリアに侵入し、脅威となる全員攻撃を目指しています。

合宿中の男子クラブチームとの練習試合で、ドリブル突破をはかる菊島宙選手(左) (撮影:2022年9月25日/星野恭子)

山本監督は、「人もボールも動いて、見ている人がワクワクするようなブラサカを見せたい。女子もやるじゃないかと、応援されるチームになれるように」と前を見据えています。

菊島選手は、「自分が得点を決めて流れをチームに持ってくることと、監督の目指す『全員得点』に向けて、個人技をさらに高め、声を掛け合い、みんなが得点できれば」と意気込みを語りました。

もう一人、注目したい選手は、元ゴールボール日本代表で、パラリンピックメダリストでもある若杉遥選手です。昨夏の東京パラで銅メダル獲得後、ブラサカに転向しました。サッカーは初めてで基礎技術の習得から始めたそうですが、持ち前のフィジカルや海外での豊富な経験を武器に半年で代表入りを決めました。

合宿中、PK練習に励む若杉遥選手。アイマスクで視覚を閉じているブラサカでのPKは、手でボールの位置を確認したうえで軸足を起点にしてシュートモーションに入る。また、1,2歩助走してから正確にミートする選手もいて、驚かされる。(撮影:2022年9月25日/星野恭子)

「ゴールボール競技としては私はやりきったと思って引退したが、競技者としてはまだやりたいことがあると思ったので、ブラサカに挑戦した。難しさもあるが、面白さを感じている。国際経験なども活かし、チームの勝利に貢献したい」と目標を語ってくれました。

男女とも、それぞれのチーム目標に向かって一丸で挑む、アジア・オセアニア選手権大会。日本語実況もあるYoutubeライブ配信で、ぜひ、応援ください!

<IBSA ブラインドサッカーアジア・オセアニア選手権 2022>
・女子の部:2022年11月11日(金)~12日(土)
試合スケジュール:https://www.b-soccer.jp/nocategory/19930-20221024
・男子の部:2022年11月11日(金)〜18日(金)
※試合スケジュールは11月7日時点で未定
・大会HP:https://www.blindfootball.in/asia-oceania-2022
・日本代表選手・スタッフ:https://www.b-soccer.jp/news/19797-20221005

★JBFA公式YouTubeライブ配信(日本語実況)
・配信アカウント:https://www.youtube.com/channel/UCzfemHfCRGlOpylhditYFSA
・対象試合:日本戦全試合

(文・写真: 星野恭子)