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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(424) 障害も年齢も性別も超えた「異種混合マッチ」で、テニスの魅力を満喫!

テニスの新たな魅力が体感できる画期的なイベント、「WJPチャレンジテニス」が10月21日、千葉県柏市の吉田記念テニス研修センター(TTC)で開催されました。「WJP」とは、Wheelchair(車いす)、Junior(ジュニア)、Professional(プロフェッショナル)の頭文字の組み合わせ。その名の通り、それぞれの選手たちがカテゴリーを越えて交流し、競い合うことをコンセプトとしたイベントです。車いすの選手と健常の選手がペアとなる「ニューミックス」やプロ選手とジュニア選手が組んだ「異種ダブルス」など4試合の「ボーダーを超えた真剣勝負」が展開されました。

「第3回WJPチャレンジテニス」の第3試合で行われた「ニューミックス」の出場チーム。左から、小野田倫久コーチ(元プロ)/齋田悟司選手ペアと小田凱人選手と中新ゆずりは選手(ジュニア) (撮影:星野恭子)

実は今年で3回目の開催でした。第1回はコロナ禍による大会中止があいついでいた2020年秋で、とくに影響が大きかったジュニア選手や車いすアスリートの実戦の機会として検討され、プロ選手も加わった「異種混合マッチ」として実現したそうです。どのカテゴリーでも同じコートや用具を使い、ルールもほぼ同一で競い合えるテニスという競技の特長が存分に生かされたイベントと言えます。

第1回と2回はインターネット配信のみでしたが、今回は初めて有観客で行われ、チケットも完売したそうです。他では見られない貴重なマッチへの注目度や期待の高さがうかがえます。実際、第1試合の添田豪プロ・女子ジュニアの前田璃緒選手組と加藤未唯プロ・男子ジュニアの細野暖選手組のダブルスも、第2試合の加藤プロと小野田倫久コーチ(元プロ)による男女シングルスマッチも大接戦となり、観客席も大いに沸いていました。

添田豪プロは全日本選手権を最後に現役を引退し、その後はデビス杯の日本代表監督として活躍する予定です。「素晴らしい趣旨のイベント。プロはプロで固まらず、車いすテニスには素晴らしい経験のある選手もいるのでアドバイスをもらいたいし、ジュニアとも一緒に練習する機会を設けるなどコミュニケーションをとり、ジャンルを超えて皆が一緒に戦っていくこともデ杯のチームとして今後、大事になると思います」とコメント。

車いす選手は第3試合から登場しました。まず、パラリンピックメダリストの齋田悟司選手・小野田コーチ組と、車いすテニスの次世代エース、小田凱人選手・女子ジュニアの中新ゆずりは選手組が対戦。車いす選手のみ、ツーバウンドまでの返球が認められる以外は、同じルールで行われた試合は6-2で若きペアに軍配が上がりました。

新たな可能性を感じさせる、車いすと健常の選手が組む「ニューミックス」の様子。手前が齋田・小野田組、奥が小田・中新組。(撮影:星野恭子)

齋田選手は、「小野田さんは憧れの選手だったのでプレー出来て嬉しかったし、対戦相手が若い二人で楽しみにしていました。でも、エキシビションとはいえ、アスリートなので負けると悔しいですね」と話しました。小野田コーチは現役引退後、Youtubeでテニスの魅力も発信しており、車いす選手とのニューミックスや女子の加藤プロとのシングルス戦などの新しい試みについて、「新鮮で気づくこともたくさんありました。車いすテニスのレベルの高さを感じたし、こういうイベントを増やして新しい風を入れることは大切ですね」と話しました。

第4試合は、小田選手・船水梓緒里選手ペアと荒井大輔選手・上地結衣選手ペアとのミックスダブルスが行われました。世界でも活躍するトップ車いす選手たちの競演は、巧みなチェアワークや速く正確なショットが満載。観客の歓声やため息を誘う見応えある熱戦の結果は、ともに東京パラ代表という荒井・上地組が6-2で貫録を示しました。

車いすによるミックスダブルスで対戦後、健闘をたたえ合う選手たち。手前左から、荒井大輔選手と上地結衣選手、奥左から、船水梓緒里選手と小田凱人選手 (撮影:星野恭子)

初参加となった上地選手は、「男子と女子では試合展開が異なるので、単純に面白かったです。小田選手のボールを受けるのは初めてでしたが、荒井選手にリードしていただきながら、いい試合ができたかなと思います」と笑顔。

敗れた船水選手は、「日本で有観客の試合は3年ぶりで嬉しかったです。楽しくプレーできたのはよかったですが、負けたのは悔しい」とリベンジを誓っていました。

小田選手は去年も出場し、男子ジュニア選手と戦って悔しい敗戦。「今年はあんな姿は見せられないという気持ちで、魅せるプレーや驚くようなプレー、そして楽しくプレーすることが目標だったので、それは達成できたかなと思います。プラスして、今年は有観客だったので、初めて見る方にも想像を超えるようなプレーもできたかなと満足しています。来年も出場したいですね」

車いす体験会も同時開催され、齋田選手や小田選手が車いすの操作や打ち方などの指導にあたり、魅力を伝えていました。TTCで練習する中学3年生の男子車いす選手は「小田選手にコツを教えてもらったフォアハンドを武器にしたい」と話し、健常の女性テニス愛好者は「車いすを漕ぎながらラケットを操るのが難しかった」と車いす選手たちのすごさに感嘆していました。

体験参加者に、バックハンドの打ち方を伝授する小田凱人選手(右)。「初めての経験でしたが、教えることは挑戦したかったことの一つだった」と自ら立候補したといい、「実現できてよかった」 (撮影:星野恭子

また、試合の合間には、「トークショー」が行われ、車いすテニスの1クラスである「クアード」で活躍する宇佐美彗選手が登壇しました。クアードクラスは脚だけでなく、手にも障害のある選手を対象とし、宇佐美選手は試合前に手にテーピングでラケットを固定したり、ワングリップでサーブからショット、ボレーも打ち分けるなど、「戦略や戦術で試合を進める」クアードクラスの戦い方を披露しました。

障害により汗をかけない体質のため試合や練習中に霧吹き(右下)で体を冷やしながら戦うという宇佐美彗選手。「今できることに全力で、その先にパラリンピックやグランドスラムがあれば」 (撮影:星野恭子)

WJP実行委員の一人で東京パラリンピック日本代表だった荒井大輔選手はイベントの意義や込めた思いなどをこう語ってくれました。

「第1回から一貫して『多様性』にこだわり、他では見られない異種多様の試合を組んでいます。車いすでも関係なく、“立っても座っても参加できる”大会があってもいいだろうと思っています。他の地域にもこうした文化が根付いてくれたらという思いも込めています。来年以降も工夫してグレードアップしながら、つづけていきたいです」

テニスは誰もが一緒に楽しめるユニバーサルな競技なのだと改めて実感したイベント。来年の開催が今から楽しみです。

「ナイス!」。声を掛け合いながらプレーする中新ゆずりは選手(左)と小田凱人選手。テニスはボーダレスを実感させるシーン (撮影:星野恭子)

なお、今イベントのアーカイブ動画が随時、公開されています。下記のリンクからぜひ、チェックしてみてください。

▼WJPプロジェクト
https://wjptennis.jp/

▼大会アーカイブ映像
https://www.youtube.com/channel/UCfFBFTkvFcv8e42v4p8mpnA/featured

(文・写真: 星野恭子)