準々決勝敗退でアギーレ・ジャパンに暗雲 ~AFCアジアカップレポート(4)
サッカーはつまるところゴールの数で決まる。
いくら素晴らしい攻めをして数多くのチャンスをつくっても、相手ゴールにボールを入れることができなければ、勝つことはできない。残念ながらサッカーには「判定勝ち」はないのだ。
オーストラリアで開催されているAFCアジアカップに参加していた日本代表は、準々決勝でUAEと1-1で引き分け、PK戦4-5で敗れて敗退が決まった。1992年にA代表でアジアカップに臨むようになって以来、「準々決勝敗退」は1996年UAE大会以来2度目で、最も悪い結果ということになる。
立ち上がりが悪かった。前半7分に縦パス1本で相手にシュートを許し、それが先制点になってしまう。
1月19日にグループステージの最終戦を行ったUAEの「中3日」に対し、20日にヨルダンと対戦した日本は「中2日」。その差は立ち上がりの「重さ」に最も顕著に表れていた。
先制点を奪われた場面では、得点した相手FWマブフートをマークしていた日本のDF森重真人はオフサイドを取ろうとした。MFのA.アブドゥルラフマンがロングキックをけろうとしたとき、森重は立ち止まってマブフートを離した。オフサイドになるはずだった。ところが右サイドバックの酒井高徳がラインをそろえきれていなかったのだ。オフサイドはなくフリーで走り込んで右足ワンタッチでコントロールすると、マブフートは弾んだままのボールを高い位置で叩いた。GK川島永嗣はタイミングをつかめずゴールを許した。
その前、前半3分にも非常に危ない場面があった。酒井からボールを奪ったMFハマディが前進、左タッチライン沿いのFWマブフートにスルーパスを出した。日本の守備陣なら簡単に防ぐはずのパスだったが、DF吉田麻也は準備ができておらず、やすやすと突破を許した。ただこのときはGK川島の攻守でことなきをえた。
UAEはパス回しのテンポが非常に速く、ボールをもつとO.アブドゥルラフマンを軸に小気味よいパスをつないだ。日本の選手は一歩ずつ遅れる形となり、前半10分までは危ない場面が続いた。
オフサイドラインのとり間違い、スルーパスに対する準備、そして速いテンポについていけないなどは、明らかに「中2日」の影響だった。疲労が完全に抜けきっておらず、反応が少しずつ遅れる状況だったのだ。だがUAEのハイテンポな攻めは10分間で終わり、以後はずっと日本がボールを支配し、シュートを打ちまくる。ところが前半の間は攻撃にスピードが出ず、得点の可能性は低かった。
日本を蘇らせたのは選手交代だった。アギーレ監督はハーフタイムにFW乾貴士に代えてFW武藤嘉紀を投入、後半8分にはMF遠藤保仁に代えてMF柴崎岳を入れた。そして後半20分にはFW岡崎慎司に代えてFW豊田陽平を送り込んだ。
まず武藤が縦へのドリブルで引っぱり、柴崎もボールなしでの長い動きを多用してUAEの守備陣に圧力をかけた。決定的な形が何度も生まれるが、武藤、豊田らのシュートが枠を捕らえきれない。
だが後半36分、日本がついにUAEのゴールを破る。ゴール正面25メートルでボールをもった柴崎が前方のFW本田圭佑の足元にボールを入れ、リターンされたところをダイレクトでけり込んだのだ。
その後、後半ロスタイムまでの12分間にも、武藤のシュート、長友佑都の突破から香川真司と長谷部誠の連続シュート、本田のFK、CKから柴崎のシュート、本田のクロスから豊田の突っ込み、そして香川真司のシュートと、日本は立て続けに決定的なチャンスをつくった。だが決勝点は生まれなかった。
ところが延長の前半に長友が足を痛め、チーム全体がスローダウンする。すでに交代を3人使ってしまっていた日本のベンチは、延長の後半15分間、柴崎を右サイドバックに下げ、酒井を右から左のサイドバックに回し、長友を攻撃的MFの位置に置いた。
再びUAEゴールへの圧力が高まるなか、延長後半12分に日本は本田へのファウルでゴール正面20メートルの至近距離でFKを得る。相手GKが100%本田のシュートがくると思っているのを見ると、本田は柴崎にキックを任せた。柴崎の右足キック。本田がけると思い込んでいたUAEのGKは一歩も動けない。だがシュートはわずかに右に外れた。PK戦では本田と香川という日本の二枚看板が外し、日本代表のアジアカップは終了した。
この大会、アギーレ監督は非常に良い仕事をしたと思う。先発メンバーを固定する一方、グループリーグでは控え組に出場時間を与え、この準々決勝では思い切った交代で流れを変えた。選手たちの自覚を促す指導のうまさも、この大会でよくわかった。
だが「史上最低」の成績に終わって、アギーレ監督の身辺はにわかに騒然としてくるのではないだろうか。
日本サッカー協会の霜田正浩技術委員長は「アジアカップにはノルマはない」とずっと語ってきた。だが実際には「ベスト4以上」の課題を想定してきたのではないかと私は推測している。だからアギーレは11月の時点になって突然遠藤やMF今野泰幸といったベテランを呼び戻し、「4年後のチーム」ではなく「現時点の最強チーム」をつくったのだ。
だが「決定力不足」がその計画を無にした。
日本代表のスポンサーはアギーレ監督の「八百長疑惑」に強い不快感をもち、日本サッカー協会は圧力を感じているという。そこに「ベスト8で敗退」が加わると、スペインでの捜査状況や起訴されるかどうかに関係なく、協会内で「アギーレ外し」の動きが強くなるのではないだろうか。
アギーレ監督は良い指導でチームを成熟へと導き、采配においても大胆かつ合理的なものをする能力を示した。私は、現時点の日本代表選手の成熟度に適している監督でもあるという感じももっている。
その有能な監督を、まるで「臭いものにフタ」のように切り捨てるとしたら、今後の日本代表の活動に暗雲がたちこめるのは間違いない。
(大住良之)
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