「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(419) これも東京パラのレガシー。パラリンピックを題材にした教材、『I’mPOSSIBLE』とは
東京パラリンピック閉幕から丸1年となった9月5日、日本パラスポーツ協会日本パラリンピック委員会(JPC)は、国際パラリンピック委員会(IPC)公認の学校向け教材『I’mPOSSIBLE(アイム・ポッシブル)』の日本版を改定し、JPCのポータルサイトで公開したことを発表しました。
同日本版のプロジェクトマネージャー、マセソン美季さんは改訂版公開に寄せJPCを通じて、「東京2020大会のレガシー創成期に入った今、パラリンピックを通じ、共生社会を目指そうという歩みを止めず継続していくことが、大変重要です。より良い未来づくりのために本教材をより多くの学校で活用いただけることに期待しています」とコメントしました。
パラリンピックを題材に共生社会への気づきをうながす教材、『I’mPOSSIBLE(アイム・ポッシブル)』の日本版
『I’mPOSSIBLE』とは学校教育を通じてパラリンピック・ムーブメントについて広く伝えることで共生社会実現を進めることを目的とした教材で、IPCの開発を担う組織、アギトス財団が制作しています。内容はパラリンピックの歴史や理念、競技を学ぶだけでなく、パラリンピックを題材にして共生社会に関する気づきを子どもたちにうながし、多様性やインクルーシブな(分け隔てのない)考え方などを学べるようにデザインされています。
教材の名前である『I’mPOSSIBLE』には、「不可能(impossible)だと思えたことも、考え方を変えたり少し工夫したりすれば、できるようになる(I’m possible)」という、パラリンピアンたちが体現するメッセージが込められています。
2020年9月時点で日本をはじめ37カ国が『I’mPOSSIBLE』のプログラム実施に関しIPC・アギトス財団と同意書を交わすなど、世界各地で活用されています。
『I’mPOSSIBLE(アイム・ポッシブル)』日本版、小学生向けの授業ノート例
さて、今号で紹介している『I’mPOSSIBLE』の日本版は、アギトス財団が開発した国際版をもとに、日本の教育現場での活用しやすさなどを考慮して、JPCと日本財団パラスポーツサポートセンターが公益財団法人ベネッセこども基金の協力のもとで共同開発した教材です。
内容は、「パラリンピックってなんだろう?」「東京2020パラリンピックのレガシーについて考えてみよう!」といったテーマについて動画などをみながら考える座学用から、「シッティングバレーボールをやってみよう!」「ガイドランナーを体験してみよう!」など体験型のプログラムも多数含まれています。また、教師用の指導案や授業ガイドなども用意されています。
教材は当初、製本され、2017年4月から順次、全国36,000の小学校や中学校、高等学校、特別支援学校などの学校に加え、全国の教育委員会にも無償で送付されました。また、東京2020大会組織委員会による教育プログラム「ようい、ドン!」のパラリンピック教材としても位置付けられ、活用されました。
また、教材のデータはすべて無償でダウンロードできるようにもなっており、2021年3月末時点でダウンロード数は10万件を越えました。
<配布実績>
2017年4月 小学生版第1弾配布
2018年6月 小学生版第2弾、中学生・高校生版第1弾の配布
2019年5月 小学生版第3弾、中学生・高校生版第2弾の配布
2020年6月 中学生・高校生版第3弾の配布
2021年5月 「東京2020パラリンピックのレガシーについて考えてみよう!」WEB公開
『I’mPOSSIBLE(アイム・ポッシブル)』日本版、小学生向けのワークシート例
このように『I’mPOSSIBLE』日本版はもともと、東京パラに向けて国内の学校でのパラリンピック教育推進のために制作されましたが、同大会を経て改めてパラリンピックを題材とした共生社会を学ぶための教材として改定が進められています。
同大会での競技写真などが追加されたり、共生社会を考えるためのヒントがより多く盛り込まれる予定です。改定が完了したユニットから順にJPCの『I’mPOSSIBLE』日本版ポータルサイトで公開され、2022 年末までにすべてのユニットの改訂版が公開される見込みです。
『I’mPOSSIBLE(アイム・ポッシブル)』日本版、中学・高校生向けの授業ノート例
なお、同ポータルサイトには学校向け教材のほか、「家庭学習向け動画教材」も紹介されています。人気のパラスポーツ、ボッチャを題材とした「ボッチャボールを作ってみよう&ボッチャをやってみよう!(小中高共通)」で、身近な材料でボールを手作りする方法や競技ルール、投げ方など気軽にボッチャを楽しめるヒントが学べます。
東京パラリンピック開催から1年。競技の普及や競技力強化だけでなく、この『I’mPOSSIBLE』も、大会レガシーの一つと言えるでしょう。
パラリンピック・ムーブメントでは以前から、先入観や偏見のない子どもたちが大人たちの固定観念を崩し教育するという意味で「リバース・エデュケーション(逆方向の教育)」が重視され、実績があると言われています。
東京パラ開催を機に『I’mPOSSIBLE』で学んだ子どもたちが成長し、学んだことを生かして活躍する未来の社会に期待したいと思います。
▼日本パラリンピック委員会の『I’mPOSSIBLE』ポータルサイト
https://www.parasports.or.jp/paralympic/iampossible
(文:星野恭子/画像提供:日本パラスポーツ協会日本パラリンピック委員会)