連覇はきわめて難しい!~AFCアジアカップレポート(1)
AFCアジアカップ2015年オーストラリア大会、日本代表でパレスチナに対する4-0の勝利でスタートを切った。
私自身は1月10日~12日の「フットボール・カンファレンス」に出席していたため、アジアカップの現地取材は14日(水)からとなる。1月12日(祝)、ニューカッスルで18時(日本時間16時)にキックオフされたパレスチナ戦はテレビ観戦だった。だが「アジアカップレポート」の第一弾としてこの試合に触れておきたい。
日本はキックオフからわずか8分で先制ゴールを決めた。MF遠藤保仁の地を這うようなパレスチナ・ゴールに送り込んだのだ。試合直前の雨でピッチが濡れ、まだ乾かないうちに「低く打てば」という、ベテランらしい判断が生きた得点だった。
この試合で最も見事だったのが前半25分の2点目だった。
自陣、DFラインでパスをつないでスキをうかがい、ハーフラインを越えたところからDF森重真人が左奥にロングパス。走り込んだDF長友佑都が相手と競り合いながらペナルティーエリアにはいり、ゴールライン際から戻したボールをFW乾貴士はコントロールしきれなかったが、こぼれたボールに反応したMF香川真司が思い切ってシュート。これをFW岡崎慎司が頭で合わせて叩き込んだ。
「チーム全員」と言っていいほど多くの選手がからんだ見事な「集団の得点」だ。
まず、長友のためにスペースをつくる動きがある。森重がボールをもったときに左FWの乾は足元で受けようと下がっており、森重がけろうとした瞬間には乾の前にいたMF遠藤も止まって下がろうとした。乾と遠藤の動きがパレスチナの選手たちを引き出し、左奥に大きなスペースをつくったのだ。
さらに長友が突破できると判断すると、ゴール前には乾、岡崎、本田という3人のFWが全速力で走り込んだことだ。わずかにゴールの左に切れていた香川のシュートに岡崎が合わせることができたのは、3人が近い距離で走り込んでいたおかげだった。岡崎の頭でなければ、他のFW、あるいは彼らをマークしていたパレスチナのDFの体に当たってゴールになっただろう。
この後、日本はCKからつないだボールを受けた香川が倒されて得たPKを本田が決めて前半のうちに3-0とし、後半4分には再び左CKを遠藤が短く香川にけり、香川が見事なターンで相手を振り切って入れたクロスをDF吉田麻也が頭で決めて4-0とした。
アルベルト・ザッケローニ監督の下で4回目の優勝を飾った前回(2011年カタール大会)の初戦はヨルダンに1-1の引き分け。第2戦はGK川島永嗣の退場で10人になる苦しみのなかで終盤にようやく決勝点を挙げてかろうじて2-1で初勝利を挙げた。
それとは対照的な今大会の滑り出し。だが日本代表の状態は4年前より良いとは言えない。4年前には苦戦しつつも攻撃にはテンポとリズムがあった。2010年ワールドカップ後の半年でドイツのスターとなった香川が、ワールドカップで日本の攻撃のリーダーとなった本田とともに絶好調で、攻撃を牽引していたからだ。
しかし今回は、ふたりとも好調にはほど遠く、攻撃陣で欧州のトップリーグの選手のレベルを保っているのはFW岡崎ひとりという状況だ。左サイドの攻撃の担い手であるDF長友も元気だが、現状では、チームのリズムづくりを司るMF遠藤がいなければ、どんな相手でも点を取るのは非常に難しいことになるだろう。
ハビエル・アギーレ監督は、ハーフタイムに乾に代えて左サイドにMF清武弘嗣を入れ、後半13分には遠藤に代えてFW武藤嘉紀を、そして後半35分には岡崎に代えてFW豊田陽平を入れたが、清武も武藤もトップフォームにはほど遠く、ピッチから遠藤がいなくなってからはチャンスさえなかなかできなかった。
この後は、1月16日(金)にイラク戦(ブリスベン、19時=日本時間18時)、そして20日(火)にヨルダン戦(メルボルン、20時=18時)となる。この2チームは日本がパレスチナに4-0で勝った同じ日にブリスベンで対戦し、イラクが1-0で勝利を収めている。
イラクもヨルダンも派手な攻撃力をもっているわけではない。しかしともにフィジカルが強く、激しい当たりを90分続ける。その堅固な守備をこじ開けるのは簡単ではない。
だがパレスチナ戦の勝利で、準々決勝進出は半ば決まったと言っていい。問題は準々決勝以降だ。
準々決勝の相手はC組の1位か2位(この組の初戦はUAE4-1カタール、イラン2-0バーレーン)だ。そしてそこを突破すると、準決勝では韓国、オーストラリアあるいはウズベキスタンらとの対戦が待っている。
もちろん、試合を通じて調子が上がっていくと期待したい。しかし現状では、好調なのが岡崎と長友のふたりだけで、しかも彼らがうまく動けるかどうかが、この大会中に35歳を迎える遠藤がいるかどうかにかかっているようでは、はなはだ心許ない。初戦を見る限り、連覇は非常に難しい状況と思わざるをえなかった。
(大住良之)
PHOTO by Gunner Shot Stopper (Own work) [CC BY-SA 3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0) or GFDL (http://www.gnu.org/copyleft/fdl.html)], via Wikimedia Commons