海と一体になれる、唯一無二のシーサイドコース<久美浜カンツリークラブ> 〜死ぬまでにプレーしたいゴルフ場 Vol.1
久美浜カンツリークラブに興味を持ったのは、写真家の長濱治氏がとある雑誌で紹介していたことに始まる。氏はこのコースを「ダイヤモンドの原石」と表現していて、カットされた宝石よりも原石のほうが好みな私にその言葉がぐさりと刺さったというわけだ。
実際に訪れたのは2013年の夏。本来ならば羽田空港から伊丹を経由してコウノトリ但馬空港までスムーズに飛ぶはずだったのだが、暴風雨で但馬行きがキャンセルになってしまったので、急遽伊丹から陸路で向かうことになった。
苦労して辿り着いたせいもあって、久美浜CCの印象は最高だった。このコースは日本海に面する久美浜湾沿いにあるのだが、オーソドックスな1番ホールを終えて2番のティグラウンドに立つと、いきなり眼下に青々とした久美浜湾が広がり、その感動はなかなか他では味わえないものである。そこから6番ホールまでが海と面しているのだが、「面している」というような生易しいものではなく、海と一体になっているかの如くなのだ。
短いパー4の3番ホールはセカンド地点とグリーンの間に海しかなく、完全なる海越え。グリーンは小さく逃げ場がさほどないため、かなりスリリングなショットを体験することができる。私は6番アイアンでまずまずのティショットを打ったのだが、このホールはブラインドになっていて、ボールの落下地点が見えない。行ってみると危うく海まで突き抜けるところだったのだが、こういうドキッとする場面がたびたびあるのも久美浜の魅力ではないかと思う。
6番のパー3(写真上)も必見で、ここはいま最も人気のあるリンクスコースといっていいキングスバーンズの16番を彷彿とさせる。右サイドに海が広がり、離れ小島のように見えるグリーンに向かって打っていくというレイアウトは一瞬、スコットランドにいるかのような錯覚に陥ったほどだ。もちろん久美浜のほうが歴史は圧倒的に古く、開場は1973年。何のモチーフもなく、この素晴らしいホールを生み出した設計家の佐藤健氏のセンスには、ただただ感服するばかりだ。
【7番ホール】
海に面する2番から6番まではまさに珠玉なのだが、そのほかにもキラリと光るホールがある。14番もその1つで、グリーンの右サイドが崖になっている打ち下ろしのパー3。ティグラウンドと正対するグリーン左サイドの一体が巨大なマウンドになっているのだ。クジラの頭のようなこのマウンドでグリーンが引き立てられ、極めて印象的な景色を創り出している。ラウンドに立ち会ってくださった支配人にそれを伝えると、「そうですか、でもメンバーさんからはよく、山を削れと言われるんですよね」と苦笑い。聞けば絶妙のアクセントになっている7番ホールの谷も埋めろと言われるそうで、大胆な造形美を後世に残すことの難しさを実感した次第。名画に加筆しようとする輩はいないが、名コースには手を加えたがる輩が大勢いるのだ。「このままでいいんです。頑張ってくださいね」と支配人を励まして帰ってきたのも久美浜の思い出だ。
言っておくが、隅々まで手入れが行き届いた箱庭のようなコースでは決してない。むしろ、適度に荒れたところが味となっている文字通り「原石」のようなコースだ。造形は大胆で、鳴尾や川奈の大島コースのような奔放さが貫かれている。だからくれぐれも、スコアメークをしようなどという気持ちでは出かけないほうがいい。次に何が待ち受けるかワクワクしながらプレーし、予測を超える状況を楽しみながら対処する。それがここでの遊び方ではないだろうか。
私はおそらく、このコースが嫌いだという人とは友達になれないと思う。
【2番ホール】
久美浜カンツリークラブ
住所/〒629-3422 京都府京丹後市久美浜町湊宮
TEL/0772-82-0460
(文・小林一人 / 撮影・石塚定人)