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星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ(64)12.24~12.31

 国内外のパラリンピック競技の話題を独自にセレクトしたパラスポーツ・ピックアップ・シリーズ。2015年もどうぞよろしくお願いいたします。

 新年第1号は2014年の日本のパラスポーツを振り返り、今年を展望するコラムと、いよいよトップ7が発表になったパラリンピック委員会が選ぶ「2014最高の瞬間トップ50」の最終回です。

 

【コラム】

「転機から基礎固めへ。日本パラスポーツの今」

 2014年は日本のパラスポーツにとって大きな転機となりました。前年9月に決定した2020年オリンピック・パラリンピックの東京開催がそのきっかけです。最終プレゼンテーションでのパラリンピアン佐藤真海さんの活躍や、東京が1964年大会に続き2回目のパラリンピックを開催する史上初の都市となることもあり、「パラリンピックの成功なくして20年大会の成功なし」という意識が高まりました。

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【アジアパラ競技大会の男子車いすバスケットボールの韓国との決勝戦から。ティップオフでボール奪取を狙う藤本怜央主将(15番)=2014年10月24日/三山ワールド体育館】

 

 3月のソチ冬季パラリンピックでは日本からアルペンスキーとクロスカントリースキーに計20選手が出場し、金3、銀1、銅2のメダルを獲得しました。過去大会に比べ報道陣の数もかなり増え、NHKによる冬季大会初となる地上波での開会式の生中継や、スカパー!専門チャンネルでの全競技を生中継などもパラリンピックの認知度アップに貢献しました。

 

 4月にはパラリンピックなど障害者スポーツの所管が厚生労働省からオリンピックと同じ文部科学省へと移管されました。20年東京大会に向け、強化や支援などの施策が一元的に進められるようになり、パラリンピアンの練習環境や資金面なども少しずつ改善が見られます。

 

 世界で活躍する日本選手のニュースも多数届きました。例えば、8月にはウイルチェアーラグビー世界選手権で4位になったり、車いすテニスの国枝慎吾選手と上地結衣選手がともに世界ランク1位となり、数々の大会制覇など大活躍しました。10月には韓国・仁川で史上最大規模(41の国と地域から約4500選手が参加)のアジアパラ競技大会が開かれ、日本からは過去最高の285名の選手が22競技(23競技中)に出場し、目標の120個を上回る計143個(金38、銀49、銅56)のメダルを獲得しています。

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【アジアパラり競技大会の陸上4x100mリレー男子T42/47(切断クラス)で大会新記録(45秒12­=日本タイ記録)をマークし金メダルを獲得したチーム・ジャパン。左から、多川知希選手、佐藤圭太選手、鈴木徹選手、山本篤選手=2014年10月23日/文鶴競技場】

 

 11月にはブラインドサッカーの世界選手権がアジア初となる東京・渋谷で開催され、世界12チーム中、過去最高の6位に入った日本チームの活躍もあり、注目を集めました。パラリンピックなど一部を除き、障害者スポーツ大会では珍しく有料制で運営されたものの、会場は連日多くのファンで大にぎわい。「この大会で、初めてパラスポーツに触れた」という人も少なくなかったのではないでしょうか。こんなふうに、日本におけるパラスポーツの認知や普及が大きく一歩、進んだのが2014年でした。

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【ブラインドサッカー世界選手権で、詰めかけた多くのサポーターの前で、パラグアイの猛攻をしのぐ日本の鉄壁の守り=2014年11月24日/東京・国立代々木競技場フットサルコート】

 

 今年2015年は次の一歩を進めるとともに、14年に刻んだ一歩を振り返り基礎固めも重要です。来年9月に迫ったリオデジャネイロ・パラリンピック大会に向け、関係する選手にとっては予選会での勝利や参加標準記録の突破を目指し一層の活躍が求められます。それはファンにとっても、さらに見応えのあるパラスポーツに触れるチャンスが増えることを意味します。会場に足を運んだり、最近増えているインターネット観戦などを通して競技の魅力や迫力、応援する楽しさを体験してください。それが選手を後押しする力になります。

 

 例えば2月にはアジア初となるクロスカントリースキーのワールドカップが北海道旭川市で開催されます。5月には恒例となったトライアスロン世界シリーズ横浜大会には、リオ・パラリンピックを見据え、例年以上に多くの有力選手が来日の見込みです。10月には隔年開催の陸上世界選手権(カタール・ドーハ)や車いすバスケットボールのリオ・パラリンピック予選(千葉市)もあります。世界トップ選手のパフォーマンスをお見逃しなく。

 

 一方、注目の高まりとともに見えてくる課題も増えるでしょう。選手の発掘や強化、練習環境の整備、20年に向けての準備、メディアの伝え方など……。さまざまな大会情報とともに、こうした課題についても『パラスポーツ・ピックアップ』ではリポートし考えていきます。今年もご愛読くださいますよう、お願いいたします。

■ドイツ発

<2014年度のパラスポーツ最高の瞬間トップ50>

 国際パラリンピック委員会(IPC)がセレクトする「2014年度のパラスポーツ最高の瞬間トップ50」。11月12日に第50位が発表され、12月31日までの毎日、IPC公式サイトの特別ページで順次公開されている。その要約を翻訳した連載も最終回。12月25日から12月31日までに発表された7位から1位です。

 

・7位: ロシアとの政治的緊張関係が高まっていたウクライナチームがソチ冬季パラリンピックに参加した。3月初旬、ロシア軍がクリミア半島に侵攻したことをうけ、ウクライナ選手団は一時、ソチ大会への出場辞退も検討したが、出場を決意。最終的に25個(金5、銀9、銅11)のメダル獲得し、総数で第4位に入る健闘を見せた。ウクライナ・パラリンピック委員会のシュシュケビッチ委員長は、「ウクライナのパラスポーツの歴史上、最も悲劇的なパラリンピック大会だった」と振り返った。

 

・6位: 世界トップ12カ国が出場したIWRF(*)ウィルチェアーラグビー世界選手権(8月/デンマーク)で、ロンドン・パラリンピック金メダリストのオーストラリアチームは予選リーグを無敗で勝ち抜け、決勝戦でカナダを67-56で破って優勝した。オーストラリアが世界選手権を制したのは初めてだった。

 

(*)IWRF: 国際ウィルチェア―(車椅子)ラグビー連盟

 

・5位: 2014年は10代の若いスイマーの活躍が目立った年だった。例えば、競泳ヨーロッパ選手権(4月/オランダ)では18歳以下の選手が70個以上のメダルを獲得している。なかでも、女子100m平泳ぎSB9クラス(肢体不自由)でヨーロッパ記録を更新して金メダルに輝いたC.ゼイデルフェルト選手(オランダ)はわずか13歳。また、男子S5クラス(肢体不自由)では18歳のA.マレン選手(イギリス)が4個の金メダルを獲得した。また、パンパシフィック選手権(8月/アメリカ)では18歳のI.シルバーマン選手(アメリカ)が男子400m自由形S10クラス(肢体不自由)の世界記録を13年ぶりに更新した。同選手は「僕には記録更新の可能性があると信じ、集中して練習しました」と話した。

 

・4位: 男子座位クラスのN.ペトゥシュコフ選手(ロシア)は母国で開催されたソチ冬季パラリンピック(3月)で、プレッシャーをはねのけて前評判通りの活躍を見せた。クロスカントリースキーとバイアスロン競技の個人5種目とリレーの計6個の金メダルを獲得。こうした活躍が評価され、36歳の同選手は国内外のスポーツ賞も複数受賞するなど、自身の競技歴で最高ともいえるシーズンを過ごした。

 

・3位: 国際パラリンピック委員会(IPC)が1989年9月22日の創立から25周年を迎えた。10月初旬にベルリンで盛大に催された記念イベントは四半世紀で達成した数々の実績を祝うとともに、さらなる発展への決意も新たにするものとなり、記念式典のほか、今後の具体的な戦略などを議論する会合なども行われた。IPCのフィリップ・クレイヴン会長は、「25周年イベントは今年のハイライトというだけでなく、私の会長としてのキャリアにおいて傑出したイベントだ」と述べた。また、式典の招待客のひとり、パン・ギムン国連事務総長は、「パラリンピック・ムーブメントのファンであることを誇りに思う」と語った。

 

・2位: ソチ・パラリンピックのアイススレッジ・ホッケーの決勝戦は、アメリカが地元ロシアを1-0で下し、金メダルを獲得。この試合を米国NBC放送が既存の番組スケジュールを調整し、史上初めて米国内での生中継を実現した。これは、パラリンピックのテレビ中継史上、最も画期的な出来事の一つであり、アメリカ国内にも大きな影響を及ぼした。決勝点をあげたJ.スゥイーニー選手は話す。「以前は、私がアイススレッジ・ホッケー選手だと言っても、誰も競技を知らないので、『氷の上で車椅子を使うのか』などと質問されたりしたものだ。でも、決勝戦の放送後は10人に9人がアイススレッジ・ホッケーを知っていて、僕の顔を見ると興奮したような表情になる。みんな、また試合を見ることを楽しみにしてくれている。これはアイススレッジ・ホッケーにとって本当に素晴らしいことだ」

 

・1位: 世界45カ国から約550選手が参加し、冬季大会としては史上最大規模で行われたソチ・パラリンピックは、数々の障壁を打ち破り、大成功を収めた大会となった。例えば、チケット販売やテレビ視聴率などでも、冬季大会史上で過去最高を記録した。前回バンクーバー大会の40%増となる31万6200枚のチケットを売り上げ、世界で21億人が大会をテレビ観戦した。また、大会開催に向けてソチの街に施されたバリアフリー施策がロシア全土へと広がりつつあるなど、ロシア国内の障害のある人々のために貴重な遺産も残した。

 

 さらに、ソチ大会後の会場を再活用するスポーツイベントの誘致が続いていることも重要だ。すでに2014年内にカーレースの最高峰、F1グランプリやテニスのフェデレーションカップが開催され、15年にはIWAS(*)世界車いす・切断者競技大会やスポーツ会議などが予定されている。

 

(*)IWAS: International Wheelchair&Amputee Sports Federation/世界車いす・切断者スポーツ連盟)

 

(星野恭子/文と写真)