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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(412) 東京2020大会から1年。「異例尽くしの大会」が残したもの

昨夏の東京2020大会から約1年が経ちました。関連するイベントがあいついで行われています。コロナ禍による1年延期やほぼ無観客での開催など「異例尽くしの大会」はいったいどんな大会で、どんなレガシーを残したのでしょうか。ピックアップしてご紹介します。

■「オリパラ一体」のレガシー
まずは、オリンピック開会式からちょうど1年となった7月23日、東京都が主催して「東京 2020 オリンピック・パラリンピック 1周年記念セレモニー~TOKYO FORWARD~」がメイン会場だった東京・国立競技場で開催されました。

7月23日、東京・国立競技場で開催された「東京2020オリンピック・パラリンピック1周年記念セレモニー~TOKYO FORWARD~」 (©東京都)


イベントを盛り上げた、左から東京オリンピックマスコットのミライトワ、松岡修造さん、平井理央さん、東京パラリンピックマスコットのソメイティ (©東京都)

メインテーマは、「あの日の思いが、私たちを前に進める」。セレモニーでは抽選で選ばれた約15,000人の観客が見守るなか、東京都の小池百合子知事や大会組織委員会の会長だった橋本聖子参議院議員をはじめ、日本選手団から計163人(オリンピック95人、パラリンピック68人)や聖火ランナー、ボランティアなど約1,000人がパレードを行いました。また、観客参加型のゲームやアスリートと一般人がバトンをつなぐ4x100m混成リレーも行われ、1周年を祝いました。

小池都知事は開会宣言として、「1周年をうれしく思います。東京大会では共生社会の実現やサステナブルな社会への道筋など多くのレガシーが残りました。東京は大会を経て、新たなスタートラインに立っています。2025年には世界陸上も国立競技場で行われることが決まりました。スポーツを通じて一緒に新しい未来を作ってまいりましょう」と来場者やオンラインでのライブ配信視聴者らに向かって呼びかけました。

来賓として挨拶に立った元大会組織員会の橋本聖子会長は、「1年後に多くのみなさま方にお礼をする機会をいただき心から感謝申し上げます。1年前の素晴らしい大会の記憶が蘇ってきました。大変困難な中で医療従事者をはじめ多くの皆さんのご理解とご協力のおかげで、日本が世界に、困難を乗り越え、前に進む力があることを示せた大会でした。多様性と調和の行き届いた未来あふれる日本へ、東京大会は転換点になった」と話しました。

東京大会の大きなレガシーのひとつは、「オリパラ一体」だと思います。東京大会を機に、「オリンピックと一緒に、パラリンピックも盛り上げていこう」という意識や姿勢が強く打ち出され、定着しつつあります。セレモニーの入場パレードにも、選手団163人のうち68人がパラリンピック選手やスタッフでした。

入場パレードに参加した、東京パラリンピックのボッチャでメダルを獲得した杉村英孝選手(左)と廣瀬隆喜選手(右) (©東京都)


入場パレードには大会を支えたボランティアの代表者たちも大勢参加 (©東京都)

パレードに参加したパラリンピアンの一人で、東京大会では国立競技場が会場だった陸上競技で2つの金メダルを獲得した佐藤友祈選手は、「1年前に、この景色(観客で埋まるスタンド)を見たかったです」と無観客開催を惜しみながらも、「応援のおかげで力を最大限発揮でき、メダルにつながりました」とテレビやネット配信等で声援を送った人々に感謝の思いを述べました。

イベントの最後に行われた4x100mリレーは1走をオリンピアンが務め、2走と3走は東京都と被災地(岩手県、宮城県、福島県)の子どもたち2名、そしてアンカーをパラリンピアンが務めるという、4人1組の4チームが参加しました。

混成リレースタート前に参加者とチームリーダーが揃って記念撮影 (©東京都)


混成リレーでアンカーを務めたパラリンピアンたち。手前は優勝した柔道の瀬戸勇次郎選手。奥は左から、梶原大暉選手(バドミントン)、池崎大輔選手(車いすラグビー)、瀬立モニカ選手(カヌー) (©東京都)

自身の快走で逆転優勝を果たしたパープルチームの瀬戸勇次郎選手はパラ柔道の銅メダリストです。「次のパリ大会では金メダルを目指します。特別支援学校の教師になることも大事な目標として、全力を尽くしていきたいです」と、将来に向けての意気込みを語りました。

他の3選手もそれぞれ、2024年パリ大会に向けての目標を力強く話しました。「2024年パリ大会ではしっかりメダルを獲りたい」と意気込んだのはレッドチームの瀬立モニカ選手(カヌー)は東京大会では7位に入賞しています。

ブルーチームの池崎大輔選手(車いすラグビー)は東京大会ではリオ大会につづいて銅メダルを獲得し、「東京大会が開催されたことに感謝。今後はいろいろ挑戦しながら、トップになれる力をつけていきたい。今、(車いすラグビー日本代表は)ランキング世界1位だが、それで満足することなく、がんばりたい」。グリーンチームで参加した梶原大暉選手は東京大会から初採用されたバドミントンで2つのメダルを獲得。「シングルスでは優勝したが、ダブルスで3位の悔しい結果。パリでは2冠取れるようにがんばりたい」と、それぞれさらなる進化を誓っていました。

こんなふうに、パラアスリートたちも当たり前に参加し、存在感を放つイベントが増えたことは、東京大会の大きなレガシーです。こうした状況を継続し定着させ、さらには社会全体にも広がり、当たり前になっていくことを期待したいと思います。

なお、セレモニーに先立ち、大会誘致や延期決定などで貢献した安倍晋三元首相の追悼VTRが流され、来場者は黙とうをささげたほか、国際オリンピック委員会のトーマス・バッハ会長や国際パラリンピック委員会のアンドリュー・パーソンズ会長らもビデオメッセージを寄せ、安倍元首相への感謝などを語っていました。

▼7/23 TOKYO FORWARDセレモニー アーカイブ映像(9/30まで閲覧可能)
https://after1year.jp/

■ボランティアで実感。「多様性を意識するように」
7月22日には、東京2020大会を支えたボランティアなどを対象にしたアンケート結果をもとにした、「東京2020大会1年後調査メディア向け勉強会」が日本財団ボランティアサポートセンター(ボラセン)の主催で行われました。

東京2020大会ボランティア経験者が自身の活動経験や大会後の活動について共有。左から、 秋吉桃花さん(大会ボランティア)、市川浩二さん(都市ボランティア)、稲葉千怜さん(大会ボランティア)とコーディネーターを務めた日本財団ボランティアセンターの二宮雅也参与(文教大学教授) (撮影:星野恭子)

調査は今年6月、「ボランティア活動に関する意識調査/東京 2020 大会一年後調査」として、東京大会のボランティア活動経験者だけでなく未経験者も含まれた日本財団ボラセンが運営するサイト「ぼ活!」会員やメルマガ会員を対象にオンラインで実施されました。

8,348人が回答し、多くのボランティア経験者にとって東京大会が意識や行動を変化させるきっかけになったり、大会後も継続的にボランティア活動に参加していたりとポジティブな結果が見られました。例えば、大会ボランティアの満足度としては無観客開催となり、予定通りの活動ができない人も多かったなか、活動の満足度もおおむね高い数値を示していました。

とくに注目したいのは、「大会後の思考や行動の変化について」の質問で、「多様性について意識するようになった」「今まで知らなかった競技(種目)に興味を持つようになった」「パラスポーツを身近に感じるようになった」「街中で困っていそうな人に声をかけるようになった」といった項目への回答が多く、とくに10代から20代など若い世代で「多様性への意識」や「パラスポーツを身近に」という項目について「非常にあてはまる」という回答が多かったそうです。とても心強い結果です。

また、「東京大会でのボランティア活動後に得られたことについて」の質問では、「障害のある人へのサポート方法やコミュニケーションスキルが身についた」という項目で、オリンピックだけよりも、パラリンピックや両大会の活動に関わった人のほうが高い傾向を示していました。やはり、実際に交流し関わりあうことは視野を広げ、「共生社会への実現」にも重要だと感じます。

なお、詳細な結果は日本財団ボランティアセンターの公式サイトで公開されています。ご興味のある方はぜひご確認ください。

▼ボランティア活動に関する意識調査/東京 2020 大会一年後調査 (日本財団ボランティアセンター)
https://www.volacen.jp/pdf/202207-tokyo2020-volunteer-survey.pdf

(文:星野恭子)