星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ(63)12.18~12.24
国内外のパラリンピック競技の話題を独自にセレクトしたパラスポーツ・ピックアップ・シリーズ。今号はアルペンスキーチームのシーズン初戦のメダルラッシュや車いすテニスの国枝選手・上地選手の快挙、さらに2016年リオデジャネイロ・オリンピック・パラリンピックの大会ボランティアの人気ぶりなどをリポート。また、国際パラリンピック委員会発表の「2014最高の瞬間トップ50」は14位から8位までを掲載しています。
■アルペンスキー
・19日~21日: 日本アルペンスキーチームの今季初戦となる、アルペンスキー・ヨーロッパカップがオーストリア・クータイで行われた。ソチ冬季パラリンピックでメダル5個(金3、銀1、銅1)を獲得したシッティング(座位)陣は好調を維持、今大会でも5個のメダルを持ち帰った。日本選手の主な結果は以下の通り。
回転/男子シッティング:
銀メダル 鈴木猛史 1分47秒97
大回転/男子シッティング:
金メダル 狩野 亮 1分58秒37
銅メダル 鈴木猛史 2分00秒02
複合/男子シッティング:
銀メダル 狩野 亮 1分54秒60
複合/女子シッティング:
銅メダル 村岡桃佳 2分37秒59
■車いすテニス
・18日: 国際テニス連盟は「2014年世界チャンピオン」選手を発表、車いすの部男子で国枝慎吾が選ばれた。6度目の選出となった国枝は今季51勝1敗という驚異の勝率で、ツアー最終戦のマスターズも優勝という完璧な1年だった。「6度目の世界チャンピオンになれてとても嬉しい。今季は本当に調子がよかったし、まだまだ進化できるという手応えもある。支えてくれたチームのスタッフ全員に感謝したい。来シーズンが今から楽しみ」とコメントした。
女子は上地結衣がアジアの女子選手として初めて選出された。「今年は私のキャリアの中で、間違いなく記憶に残る年だった。グランドスラムのシングルスで2勝したこと、そして全豪でも決勝まで進んだことを誇りに思う。そして、親友(イギリスのJ.ホワイリー)と組んだダブルスで年間グランドスラムを達成して、ツアー最終のマスター選手権でも勝てたことは本当に“スペシャル”だった」と話した。
■ウィルチェアーラグビー
・19日~21日: 第16回ウィルチェアーラグビー日本選手権大会が千葉ポートアリーナ(千葉市)で行われ、地区予選を勝ち抜いたトップ8が日本チャンピオンを目指して激突した。
決勝は、北海道Big Dippersが2連覇中のBLITZ(埼玉)を56-44で破り、初の栄冠を手にした。両者は大会初日の予選で対戦し、BLITZが51-50と接戦を制していたが、北海道がリベンジを果たしたかっこうだ。3位決定戦はAXE(埼玉)が46-43でOkinawa Hurricanesを下した。大会MVPには北海道のエースにして、日本代表エースでもある、池崎大輔が選ばれた。
■陸上競技
・21日: 防府読売マラソンが山口県防府市で行われ、2014IPCマラソンワールドカップ(4月/ロンドン)銀メダルの道下美里が2時間59分21秒でフィニッシュし、自身のもつT12クラス(弱視)の日本記録を6分以上も縮め、日本新記録を樹立した。順位は女子総合16位だった。男子でも、2013IPC世界選手権マラソン銀メダリストの和田伸也が2時間35分39秒で男子総合48位に入り、自身のもつ日本記録を約1分更新した。レースの模様など詳細は、こちらのコラムでリポートしています。
■アイススレッジ・ホッケー
・20日~21日: クラブチーム選手権が東京と長野、北海道・八戸連合の3チームが参加してやまびこスケートの森アイスアリーナ(長野県岡谷市)で行われた。結果は以下の通り。
長野 〇 4-0 ● 東京
長野 ● 2-3 〇 北海道・八戸
北海道・八戸 〇 2-1 ● 東京
■ブラジル発
・18日: リオデジャネイロ・オリンピック・パラリンピック組織委員会は大会ボランティアの募集を締め切り、オリンピック45000人、パラリンピック25000人の全70000人の募集に対し、世界各地から24万人を超える応募があったと発表した。応募者は192カ国に及び、約6割をブラジル人が占めたほか、特に約11000人のアメリカがトップで、ロシア、中国、イギリスの順で応募が多かったという。近年、オリンピック・パラリンピックを開催した国々からの応募者が多いのは印象深い。
応募者にはすでにオンラインによる大会やボランティア内容に関する研修と語学力を評価するプロセスが始まっており、来年3月にはセレクション・センターが開設されて面接が始まり、11月には合格者に通知される予定。なお、海外からの応募者の面接はテレビ電話によって行われるという。
■ブラインドサッカー
・17日: 日本ブラインドサッカー協会が行っている小・中学生を対象とした体験型授業「スポ育」が、内閣府主催の「平成26年度バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者表彰」において「内閣府特命担当大臣表彰優良賞」を受賞した。「スポ育」は視覚に障がいのあるブラインドサッカー選手らを講師として学校やスポーツ少年団に派遣するもので、「子どもたちがアイマスクをして障害者とともに友だちの声やボールの音を頼りに走り、ボールを蹴るといった体験を通して障害者への理解や多様な個性の尊重、コミュニケーションの重要性への気づきを与えるきっかけとなっている」と評価された。
同協会によれば、「スポ育」は2010年秋のスタート以来、首都圏を中心に実施数は年々増加し、13年4月から14年3月末までの1年間は約350件、1万5000人以上の子どもたちに学ぶ機会を提供。13年末には東京都から「福祉のまちづくり功労者に対する知事感謝状」も贈られたという。
■ドイツ発
<2014年度のパラスポーツ最高の瞬間トップ50>
国際パラリンピック委員会(IPC)がセレクトする「2014年度のパラスポーツ最高の瞬間トップ50」。11月12日に第50位が発表され、12月31日までの毎日、IPC公式サイトの特別ページで順次公開されている。このコーナーではその要約を翻訳して掲載中。
今回は12月12日から12月24日までに発表分の14位から8位まで。
14位: シッティング・バレーボール世界選手権(6月/ポーランド)でブラジル男子チームが大方の予想を覆し、史上初の銀メダルを獲得した。予選リーグ2勝1敗で決勝トーナメントに進出すると、ポーランド、ロシアをあいついで撃破。準決勝では強豪イランに2セットを連取するも追いつかれ、フルセットにもつれ込む熱戦を15-12で制した。決勝ではパラリンピック金メダリストのボスニア・ヘルツェゴビナに3-1で敗れたが、地元開催となるリオデジャネイロ・パラリンピックでのメダル獲得に期待が膨らむ歴史的快進撃だった。
・13位: 国際パラリンピック委員会(IPC)は韓国サムスン電子との最高ランクのワールドワイド公式パートナー契約を2020年まで延長更新したほか、新たにパナソニックと同ランクの契約合意に至った。パナソニックはサムスン、オットボック、アトス、ビザにつぐ5社目のワールドワイド・スポンサーとなった。IPCのフィリップ・クレイヴン会長は、「世界的に著名で実績ある企業のパナソニックと提携できることになり、とても喜んでいる。パラリンピックは今、世界第3位のスポーツ・イベントに成長しているが、この契約のおかげで、我々は2020年東京大会への準備を進める上でパラリンピック・ムーブメントを新たなレベルにまで引き上げられると自信をもった」
・12位: 両脚義足のA.パーディー選手(アメリカ)はソチ冬季パラリンピック(3月/ロシア)でデビューしたスノーボード競技で銅メダルを獲得した。その後も、母国の人気番組でダンスに挑戦したり、トークショーに出演したり、スポーツ誌の特集で肉体美を披露したりするなど、障害者のスノーボード競技の認知・普及に多大な貢献を果たした。「今年はこれまでの人生で最も多忙な1年だったし、最高の成果を上げることができて本当に驚いています」と彼女はコメントした。
スノーボーダーだったバーディー選手は19歳で突然、細菌性髄膜炎を発症して両膝から下の切断を余儀なくされた。だが、切断手術からわずか7カ月で再びゲレンデに立ち、トレーニングを重ねた。一方でスノーボードがパラリンピック種目となるようピーアール活動も行い、35歳となった今年、ついにメダリストとなった。
・11位: ソチ冬季パラリンピックでは若手のアルペンスキーヤーが躍動した。メダリストのおよそ半分が23歳以下であり、同競技の明るい未来を示した。彼らの大半は2006年にIPCがフランスで開催した育成キャンプの卒業生だった。その一人で、フランスのM.ボシェット選手はソチ大会で回転、大回転、複合、スーパーGの4種目で金メダルを獲得。「メダル1つでも驚きなのに、4つもなんて本当に信じられない」と話した。
・10位: 2014年は日本の車いすテニス界にとって、2014年は記憶に残る年となった。国枝慎吾選手と上地結衣選手がそれぞれ年度末のシングルス世界ランキングで1位となり、それぞれダブルスでもすばらしい実績を残した。さらに、衣料メーカーのユニクロが長期契約を結び、ツアーの冠スポンサーとなった。
・9位: ソチ冬季パラリンピックで、クロスカントリースキーの1キロスプリントレースの視覚障害クラスに出場したカナダのB.マッキーバ選手はスタートでロシア選手と接触して転倒し遅れをとったが、諦めずに走り、3選手を抜き返して、金メダルを獲得した。ソチでは2個目、パラリンピック大会では通算9個目の金メダルを手にした同選手は、「あのルートなら抜けられると思ったが接触してしまった。でもスタート直後でよかった。僕はすぐに立ち上がって状態を確認したが、ストックも折れていないし、体も大丈夫だった。とても冷静だった」と振り返った。その後、彼はガイドに「僕は大丈夫!」と大声で伝えると、あとはレーサーの本能に従ってただ前を追ったという。
・8位: ドイツのT44クラス(片下腿義足など)のM.レーム選手はドイツ選手権(7月/ドイツ・ウルム)で健常者を抑えて優勝、世界を驚かせた。マークした記録8メートル24はT44クラスの世界記録を塗り替える大ジャンプだった。同選手は、「僕もコーチもとても驚いた。期待をはるかに超える記録だったから」
ただし、この結果は物議をかもした。優勝者はドイツ代表として健常者のヨーロッパ選手権に派遣される予定だったが、「義足の有利性」が取りざたされ、結局ドイツ陸連はレーム選手の派遣を見送った。レーム選手は抗議などはせず、障害者のヨーロッパ選手権に出場し、走り幅跳びで金、100メートルで銅メダルを獲得した。「僕は今も、そしてこれからもパラスポーツの一員であることを誇りに思う。今後も障害者の大会で競技の発展のために頑張りたい。まずはコンスタントに8メートルジャンプができるようにして、来年のIPC世界選手権(10月/カタール・ドーハ)で活躍したい」
(星野恭子)