ノーボーダー・スポーツ/記事サムネイル

【佐野稔のフィギュアスケート4回転トーク 2014~15ヴァージョン④】圧巻の羽生!いずれ300点超えも!~GPファイナルを振り返って<第1回> 

●まるで「羽生結弦物語」のようだったGPシリーズ

 すごかった。ほかに表現する言葉が見つかりません。16日にバルセロナから帰国したのですが、まだ興奮が残っています。特にフリー冒頭で羽生結弦が決めてみせたサルコゥとトゥ・ループ、2種類の4回転ジャンプは「完璧」。フリーの全体を見ても、昨シーズンのグランプリ(GP)ファイナルや今年2月のソチ五輪の出来を上回るくらい。素晴らしい内容でした。

 

 NHK杯の段階で、すでにジャンプの感覚は戻っていました。公式練習や6分間練習を見ていると、技術的な問題はありませんでした。ところが、本番になって曲が掛かると、NHK杯では余計な力が入っていた。おそらくは練習不足の影響でしょう。ブライアン・オーサーコーチの指示で、このGPファイナルまでのおよそ10日間に、相当な量の音楽を伴っての練習をこなしてきたと聞きましたが、それが功を奏して、今回はショート・プログラム(SP)、フリーともそうした力みは見られませんでした。

 

 またNHK杯終了後、羽生本人が「GPファイナルには挑戦者として臨む」と語っていましたが、そのコメントを聞いたとき、私の期待は膨らんでいました。今シーズンの羽生の演技や発言などを見聞きしていて、あまりにも「五輪金メダリスト&世界王者」にふさわしい選手であろうとして、自分で決めた枠のなかに、自分を押し込めているように感じていたからです。

 

 その結果……中国杯、NHK杯では惨敗を喫した。プライドはうち砕かれたかもしれません。でもそれと引き換えに、ようやく自分を解き放つことができたのではないでしょうか。そうした精神面での変化も、ファイナル優勝の大きな要因になった気がします。

 

 中国杯でのアクシデント、NHK杯での復帰、ギリギリのファイナル進出、そして2連覇。次々と襲いかかる逆境を乗り越えたヒーローが、見事ハッピー・エンドで締めくくる。並大抵の選手にできることではありません。さまざまなことが起きた今シーズンのGPシリーズですが、こうして終わってみると、まるで羽生のために用意された物語のようでした。

 

●まだ残される可能性 前人未到の300点台も

 2位のハビエル・フェルナンデス(スペイン)に30点以上もの大差をつけての優勝ではありましたが、SP、フリーともに、演技最後のルッツ・ジャンプでは転倒してしまいました。まだイメージが固まっていないのか、ルッツだけは、なんとなくシックリきていない様子なのです。この傾向は中国杯の公式練習から、ずっと変わっていません。私の眼には、踏み切る際にお尻から上がっていて、回転軸が傾いてしまっているように映ります。12月26日に開幕する全日本選手権(長野・ビッグハット)に向けた、修正ポイントになるでしょう。

 

 ただ、そうしたマイナスを補って余りあるほど、いまの羽生にはジャンプの伸びやスケーティングなどに、さらなる上達の跡が見られます。ここに来て、また一段と上手くなっている。もう非のうちどころがないレベルです。だから1度転倒したくらいの減点では、ビクともしない。羽生が普通の出来だったら、ちょっとほかの選手は太刀打ちできない。それくらいの“圧倒的な”強さになっています。

 

 さらに付け加えると、中国杯でのアクシデントのために、いまだ実現していませんが、今シーズンはもともとSP、フリーのどちらも、演技の後半に4回転ジャンプを組み込む予定でした。羽生陣営はGPファイナルのままの構成で全日本選手権も行くつもりのようですし、私も全日本ではまず、ノーミスの演技を心がけて欲しいと思います。それができれば、間違いなく優勝でしょうから(笑)。

 

 そのうえで、後半に4回転を跳ぶプログラムを、いつ解禁するのか。ファンのみなさんも注目していることでしょう。来年3月の世界選手権になるのか。それとも、来シーズン以降のことなのか。いずれにせよ、世界一になってもなお、羽生には可能性の余地が残されているのです。そして、その新プログラムが成功したときには、SP100点、フリー200点の合計300得点。そんな前人未到の領域に手が届いても、いまの羽生であれば、不思議はありません。

 

※「佐野稔の4回転トーク~GPファイナルを振り返って・第2回」は、あす掲載の予定です。

 

(佐野 稔)

PHOTO by David W. Carmichael [CC BY-SA 3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0)], via Wikimedia Commons