星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ(60)11.27~12.3
国内外のパラリンピック競技の話題を独自にセレクトしたパラスポーツ・ピックアップ・シリーズ。今号では、車いすテニスの国枝慎吾選手が世界トップ8によるツアー最終戦で3連覇達成の快挙や、上肢や下肢の切断障害者を対象にしたアンプティ・サッカーのワールド杯で日本が史上初の決勝トーナメント進出など嬉しいニュースなどをリポート。また、国際パラリンピック委員会発表の「2014最高の瞬間トップ50」は35位から29位までを掲載しています。
■車いすテニス
・27日: ロンドンで開催中の車いすテニスツアー今季最終戦「マスターズ選手権」は1次リーグが行われ、男子シングルスで国枝慎吾が3戦全勝で準決勝に駒を進めた。世界ランク8位の眞田卓は1勝2敗で組3位となり、5位決定戦に回った。
女子は世界ランク1位の上地結衣が初戦黒星で出遅れたが、残り2戦を勝ち切り、2勝1敗の組2位で準決勝進出を決めた。
・30日: 「マスターズ選手権」最終日。男子シングルスは、国枝慎吾がN.パイファー(フランス)を6-1、6-1のストレートで破り、史上2人目の3連覇を達成した。巧みなチェアワーク(車いす操作)で鋭いストロークを左右に打ち込み、わずか32分で決着をつけた。
大会公式サイトによれば、国枝は試合後、「大会3連覇ができて嬉しい。僕は常に進化して、よりよいテニスをしたいと思っている。決勝戦は難しいものになると思っていたが、もし僕が上手くプレイできれば勝てると信じていた。日本からも多くの方が来てくれて応援が素晴らしかった。車いすテニスのイギリスでの人気の高まりを感じた。来年はさらに多くの皆さんに見てほしいです」とコメントした。
女子は、3位決定戦で上地結衣(エイベックス)がJ.ホワイリー(イギリス)に3-6、3-6で敗れ、4位に終わった。上地は敗れたホワイリーとペアを組み、今季ダブルスの年間グランドスラムを達成している。決勝戦はオランダ人同士の対戦となり、A.ヴァンクートがJ.グリフィオエンを3-6、6-4、6-1の逆転で下した。
シングルスは男女とも世界トップの8人しか出場できない大会に、日本からは男子2名、女子1名が出場していた。結果も国枝が優勝、上地が4位、初出場の眞田が6位と健闘したが、報道が少なく、残念だった。
■アンプティ・サッカー
・30日: 上肢、または下肢に切断障害のある選手を対象にしたアンプティ・サッカーの「ワールドカップ2014メキシコ大会」が11月30日、23カ国が参加してメキシコ・クリアカンで開幕した。大会は12月7日まで行われる。
グループEの日本はアメリカとの1次リーグ初戦に臨み、1-0で勝利した。日本は、ワールドカップ3回目の出場で初めて勝ち点3を挙げる歴史的な白星となった。
・12月1日: グループリーグ2戦目に臨んだ日本は、前回3位のトルコに3-0で快勝する金星を挙げた。次戦の相手、イランの棄権により、グループリーグ首位通過が決定した。歴史的勝利となったトルコ戦の動画(約3分)が公開されている。
■アラブ首長国連邦(UAE)発
・12月2日: 鎌田美希選手(17歳/水泳)が「アジアパラリンピック委員会(APC)スポーツ大賞」の中の「2014ベスト・ユースアスリート賞」に選出され、アブダビ(UAE)で開催中のAPC総会の授与式で表彰された。同大賞は、アジア地域内で顕著な成績を収めた選手を表彰するもので2012年から始められ、日本人選手では鎌田選手が初の受賞。同選手は2013年10月にマレーシアで行われた、アジア・ユースパラ競技大会で金メダル3つ、銀メダル1つを獲得、また14年10月の韓国・仁川アジアパラ競技大会で400m自由形S8クラス(肢体不自由)のアジア新記録を更新している。
鎌田選手は受賞に際し、日本パラリンピック委員会を通して、「アジアのベストユース選手に選ばれて心から喜んでいます。これも多くの皆様のご支援のおかげです。これからも練習を重ねて、世界のベスト選手を目指して頑張りたいと決意を新たにしています。今後ともご支援をお願いします」とコメントした。
■ロンドン発
・28日: 『スポーツ・ビジネス・インターナショナル』誌が発表する、「2014年度のスポーツ・イノベーター」賞に、国際パラリンピック委員会(IPC)のフィリップ・クレイヴン会長が1位に選出された。ソチ冬季パラリンピックの開催にあたり、産業界や放送界との強い関係を築き大会を成功に導き、スポーツ産業に多大な変化をもたらした手腕が評価され、同誌の購読者と専門家の投票結果によって選ばれた。
会長は、「受賞は私にとって、そしてパラリンピック・ムーブメント関係者全員にとって素晴らしい成果。本当に光栄に思います。でも、これが終わりではありません」と、今後のさらなる発展を誓った。
■ドイツ発
・12月1日: 国際パラリンピック委員会(IPC)は「11月の最優秀選手賞」の候補6選手を発表した。受賞選手は一般投票によって選ばれる。投票はIPC公式サイトのトップページで12月8日12時(日本時間同20時)まで受け付けている。
●リカルド・アウベス(ブラジル/ブラインドサッカー)
2014ブラインドサッカー世界選手権(11月/東京)で6得点を挙げ、最優秀選手賞に選ばれた。ブラジルチームは同大会で4度目の優勝を果たした。
●国枝慎吾(日本/車いすテニス)
ツアー最終戦として、世界トップ8人しか出場できない「マスターズ選手権」で3連覇を達成し、負けたのは1試合だけという、すばらしい1年を締めくくった。
●ケルシー・ディクラウディオ (アメリカ/アイススレッジ・ホッケー)
アイススレッジ・ホッケー競技として史上初の女子の国際大会で、4得点、1アシストと活躍し、アメリカチームの初優勝に貢献した。
●アレクセイ・Zukhtsikau /ベラニカ・ カーキペア (ベラルーシ/車いすダンス競技):
「車いすダンス・スポーツ・ヨーロッパ選手権(ポーランド)」に出場し、クラス1・コンビ・スタンダード部門(⇒註)で、世界ランク外にも関わらず、世界チャンピオンのスロバキア人ペアを抑えて金メダルを獲得し、世界を驚かせた。
⇒車いすダンス・スポーツのクラス分け: 車いすドライバー同士の「デュオスタイル」、車いすドライバーとスタンディングパートナーの「コンビスタイル」があり、さらに身体機能によってクラス1、2に区分される。
●マイク・シェア(アメリカ/パラスノーボーディング)
2014IPCアルペンスキー・ワールドカップ(オランダ)で、ライバルのE.ストロング(アメリカ)を破り、2勝をあげた。
●アニク・ヴァンクート (オランダ/車いすテニス)
世界最高レベルの「マスターズ選手権」で、世界ランク3位から、オランダのチームメートで同2位のJ.グリフィオンを破って優勝した。
■ドイツ発
<2014年度のパラスポーツ最高の瞬間トップ50>
国際パラリンピック委員会(IPC)がセレクトする「2014年度のパラスポーツ最高の瞬間トップ50」。11月12日に第50位が発表され、12月31日までの毎日、IPC公式サイトの特別ページで順次公開されている。このコーナーではその要約を翻訳して掲載中。
今回は11月27日から12月3日までに発表分の35位から29位まで。
35位: ソチ冬季パラリンピック(3月)開会式の一週間前に、パラリンピック誕生の地であるイギリスのストーク・マンデビル競技場で記念祭が行われた。ロンドン・パラリンピック以来、初めてとなる炬火リレーも行われ、リレー走者には地元イギリスの車いすレースのパラリンピアン、ハナ・コックロフトらが含まれていた。
・34位: 「2014IBSAブラインドサッカー世界選手権(11月/日本・東京)」で、ブラジルは決勝で長年のライバル、アルゼンチンと対戦し、延長戦の末1-0で勝利し、2大会連続4度目の世界タイトルを獲得した。決勝点をあげたブラジルのエース、ジェフェルソン選手は、「2006年大会の決勝でアルゼンチンに負けたとき、悲しみが2倍だった。でも、今回彼らに勝ったとき、喜びも2倍になった。この日のために我々はしっかり準備してきたんだ」とコメントした。
・33位: 2014年はパラスポーツの女子選手にとって、新たな進展を見た年となった。IPCは新たな教育プログラム「WoMentoring(ウーメンタリング)」をスタートさせたし、歴史的に男子スポーツと考えられてきたウィルチェア(車いす)ラグビーやアイススレッジ・ホッケーなどの競技において、女子も十分に活躍できるエリートレベルの能力を示した。
・32位: 「2014IWRFウィルチェア・ラグビー世界選手権」(8月/デンマーク)の準決勝戦で、カナダチームは長年のライバル、アメリカを延長戦の末に下すという大きな番狂わせを演じた。予選リーグで17得点を挙げ、無敗で決勝トーナメントに進出したアメリカに対し、カナダはオーストラリアに敗れ、イギリスにも延長戦でわずか1点差での勝利と苦しみながらの決勝トーナメント進出の果ての快挙だった。
・31位: 「2014IPC水泳ヨーロッパ選手権(8月/オランダ)」で、スペインの女子スイマーが活躍。数々のメダルやタイトルを獲得してきた38歳のベテラン、T.ペラルス選手が病気治療を経て国際競技会に復帰、「大会に向けて2カ月間集中して練習できた。まだ望むような泳ぎではないが、今できる精一杯の泳ぎはできた」とコメント。また、22歳の有望新人、S.ガスコン選手は女子50m自由形S9クラス(肢体不自由)で、世界タイ記録でヨーロッパ新記録となる29秒04で優勝するなど金メダル2個を獲得した。
・30位: イランのシッティング・バレーボール女子チームがアジアパラ競技大会(10月/韓国インチョン)で銀メダルを獲得し、2016年リオデジャネイロ・パラリンピックへの出場権を獲得した。同チームのパラリンピック出場は史上初となる。
・29位: IPCによるパラスポーツ支援プロジェクト「アジト・ファンデーション(Agitos Foundation)」が2014年、さらに拡充した。例えば、13年に発足した「支援金プロジェクト」は2期目を迎え、世界各地の全28プロジェクトに65万ユーロを提供し、今年は新たに、パラスポーツ競技団体や施設などを強化する教育プログラムを「組織力プログラム」を発足させた。
(星野恭子)