星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ(59) 11.18~11.26
国内外のパラリンピック競技の話題を独自にセレクトしたパラスポーツ・ピックアップ・シリーズ。今号は、24日閉幕したブラインドサッカー世界選手権の大会結果のほか、26日から開幕した車いすテニスのツアー最終戦「マスターズ選手権」の日本人3選手の動向などをリポートしています。
なお、次号では、ブラインドサッカー世界選手権の9日間全体をちょっと違った目線で振り返ったスペシャル・リポートをお届けする予定です。
こちらもどうぞお楽しみに。
■ブラインドサッカー
・18日: IBSA(国際ブラインド・スポーツ連盟)ブラインドサッカー世界選手権の大会3日目。日本はアフリカ代表のモロッコと対戦し、0-0で引き分け、勝ち点1を得た。平日夜の試合だったが、客席の約7割が埋まり、日本チームに大きな声援が送られた。
・19日: 世界選手権4日目、日本は1次リーグ最終戦でフランスと対戦した。後半18分に佐々木ロベルト泉がペナルティシュートを決めて先制したが、1分後、累積ファウルによる第2PK(⇒註)をフランスに与えて同点に追い付かれると、そのまま1-1で引き分けた。この結果、日本は勝ち点5となり、グループAの2位が確定し、準々決勝進出が決定した。この日も平日夜の試合だったが、満席に近い観客が詰めかけ、世界選手権出場3回目で初の決勝トーナメント進出という日本の快挙を後押しした。
(⇒註)ブラインドサッカーのルールには2種類のPK(ペナルティキック)があり、第1PKはゴールエリア内のファウルやキーパーがゴール外でボールに触れた場合に6mの距離から与えられ、第2PKはチームのファウルが前後半で各4個を超えた場合に8mの距離から与えられる)
【世界選手権最終戦で、詰めかけた多くのサポーターの前で、パラグアイの猛攻をしのぐ日本の鉄壁の守り=2014年11月24日/東京・国立代々木競技場フットサルコート】
・21日: 準々決勝で日本はアジアのライバル、中国と対戦。巧みなドリブルで攻め込む中国の攻撃を堅守で抑え、前後半をスコアレスドローとしたが、PK戦で1-2と惜しくも敗れ、目標としていたベスト4進出を逃した。
・22日: 5位決定トーナメントに回った日本はドイツに1-0で勝利。前半13分、エース黒田がドリブルからの鮮やかなゴールで取った1点を守り切った。黒田は今大会2得点目。日本は5位決定戦に進んだ。
・24日: ブラインドサッカー世界選手権の最終日。5位決定戦に出場した日本は持ち味の堅守でパラグアイの猛攻をしのぎ、前後半0-0で終了したものの、3人制のPK戦の結果0-1で敗れ6位になった。日本は2006年アルゼンチン大会の7位を上回る、過去最高順位で大会を終えた。
【パラグアイのコーナーキックを警戒する日本。前列右から田中章仁選手、加藤健人選手、佐々木ロベルト泉選手、黒田智成選手、後列は佐藤大介キーパー=2014年11月24日/東京・国立代々木競技場フットサルコート】
ブラジルとアルゼンチンで争われた決勝戦は屈指の好ゲームとなった。ブラジルの猛攻をアルゼンチンが守り切り、前後半0-0で終了し、延長戦に突入した。ようやく均衡が破られたのは後半開始1分。ブラジルの高速ドリブラー、ジェフェルソンが1点を奪い、ブラジルがそのまま逃げ切り、2大会連続4回目の優勝を果たした。両者一歩も譲らないハイレベルのゲーム展開に、開幕戦につづきチケット完売となった満員の観客席からは高速ドリブルや正確なパス、弾丸シュートの応酬に、どよめきや感嘆の声が何度もあがった。
【ゴンサウベス・ジェフェルソン選手の速く巧みなドリブル。ブラジル初戦のトルコ戦より=2014年11月17日/東京・国立代々木競技場フットサルコート】
準優勝のアルゼンチンが大会規定により、2016年リオデジャネイロ・パラリンピックの出場権を獲得した。3位は1次リーグで1勝もできなかったものの、PK戦で勝ち上がったスペインだった。最優秀選手賞にはブラジルのエースで主将、リカルド・アウベス選手が選ばれた。
<コメント>
・リカルド・アウベス選手 (ブラジル/最優秀選手賞受賞)
決勝は連覇へのプレッシャーもあり、難しい試合だったが、勝てて本当に嬉しい。最優秀選手賞受賞は最高の気分。アタッカーとしてゴールが求められていたが、一つひとつのゴールを導いてくれた神様に感謝したい。世界選手権は3回目の出場になるが、今大会が一番よかった。どのチームも同じように応援してくれて、日本の皆さんに感謝したい。
【ミックスゾーンでインタビューを受けるブラジル主将のリカルド・アウベス選手。その手には優勝トロフィーが輝く=2014年11月24日/東京・国立代々木競技場フットサルコート】
・落合啓士主将
(5位決定戦に敗れ)悔しい、そして応援してくれた人たちを笑顔にできず、残念です。世界と戦える守備力はついたという手応えはあったが、世界と戦える攻撃力はまだ足りないと思った。今後、練習で高めていきたい。自分のサッカー人生の中で、世界最高峰の戦いを、このような大勢の観客に見てもらえて嬉しかった。苦しいときや倒されたときに、ニッポンコールや私の名前のコールをしてもらって、本当に支えられたし、背中を押してもらった。日本が、12カ国中の上位6位、負けなしの予選突破、流れの中では無失点、第2PKによる失点1だけ、という成績で大会を終えることができたのは、たくさんのサポーターの応援があったからだと思う。ありがとうございました。
・黒田智成選手(今大会2得点)
今日は会場からすごく大きな声援をいただき、素晴らしい会場で試合ができることに幸せを感じながら、ピッチに立った。最後は勝って、みんな笑顔で試合を終えたかったが、力不足で1点を取りきれず、PK戦で負けて残念だった。ただ、世界の強豪相手に、自分たちの培ってきたディフェンスはある程度通用することに自信がついた。さらに磨きをかけて、どのチームと対戦しても点を獲られないディフェンスをつくりあげるとともに、攻撃の迫力を増し、確実に点を取る、そういう高いレベルのサッカーを目指してこれからも努力していきたい。
・魚住稿監督
6試合すべて流れのなかでは1点も与えず、300分間戦い抜いたことは本当に大変なことで、世界選手権という大一番で最後までやり遂げた選手たちを誇りに思う。世界の強豪相手に我々の組織的ディフェンスが通用することは証明できた。だが、得点を取らないとサッカーは勝てない。今後は、個人のシュート技術、そしてチームでの戦術などで得点を取るという日本代表をつくっていきたい。大会を通して、これだけ多くの声援をいただき、最高の大会でした。目標のベスト4には今一歩とどかなかったが、リオでのメダルを本当に狙えるということを形としてお見せできたのではないかと総括している。
■車いすテニス
・26日: 車いすテニスの今季ツアー最終戦となる「世界マスターズ選手権」が26日にロンドンで開幕した。錦織圭選手の活躍が話題となった「ツアーファイナル」の車いす版ともいえる大会で、男女シングルスは世界トップ8選手ずつ、クァードクラス(⇒註)は同4選手が出場できる。日本からは国枝慎吾(世界ランク1位/2連覇中)と眞田卓(同9位/初出場)、そして上地結衣(同1位/前回初優勝)の3名が出場している。男女シングルスは4選手ずつの2組に分かれ、それぞれ総当たり戦を行い、上位2選手が準決勝に進出する。
初日はリーグ戦の1回戦が行われ、男子は世界ランク1位の国枝がM.シェイファース(オランダ)にストレートで勝ち、大会3連覇に向けて好発進。「2012年以来、このコートにはよい思い出がたくさんある。戻ってこられて幸せ。今日は多くの日本人ファンが会場で応援してくれて、とても嬉しかった」と話した。また、同8位で初出場の眞田も同4位のG.フェルナンデス(アルゼンチン)をストレートで下し、「マスターズ」デビュー戦を白星で飾った。「出場選手の中で一番ランクが低い自分が勝つことができて、本当に嬉しく、驚いている」とコメントした。
女子は世界ランク1位の上地が同6位で地元イギリスのJ.ホワイリーにストレートで敗れる波乱があった。2連覇を目指す上地には残り2試合で巻き返しを期待したい。
⇒クァードクラス: まひなどの機能障害が3肢以上にみられる重度障害の人のクラス。オーバーハンドサービスができない人、手動車いすの操作に支障がある人、ラケットを握るのに支障があるためテープで固定したり、補助具を使う必要のある人など、障害の内容や程度には個人差が大きい。男女の区別はなく1クラスとして実施される。
■視覚障害者柔道
・24日: 第29回全日本視覚障害者柔道大会が東京の講道館で開催された。男女合わせて51人が参加し、体重別個人戦と都道府県合同の団体戦が行われた。各種目の優勝者は下記の通り。なお、同大会は来年5月に韓国ソウル市で開催される予定の、「IBSA世界大会」の代表選手選考を兼ねており、代表選手は後日、正式発表される予定。
ちなみに、視覚障害者柔道では障害の程度によるクラス分けはなく、一般の柔道と同様、体重別で試合が行われる。選手が互いに組み合った状態から試合開始となる以外は、ルールは一般の柔道とほとんど変わらない。組み手争いがない分、豪快に攻めあう柔道が見られるのが特徴だ。
<男子>
60kg級:廣瀬 誠 (愛知県)
66kg級:藤本 聰 (徳島県)
73kg級:高橋秀克 (埼玉県)
81kg級:石橋元気 (福岡県)
90kg級:北薗新光 (兵庫県)
100kg級:廣瀬 悠 (愛媛県)
100kg超級:正木健人(奈良県)
シニア:鷲山 良 (静岡県)
無段者:有安諒平 (東京都)
<女子>
48kg級:半谷静香 (福島県)
52kg級:石井亜弧 (東京都)
57kg級:三輪順子 (東京都)
63kg級:米田真由美(東京都)
70kg級:坂本晴菜 (静岡県)
<都道府県対抗団体戦>
優勝:愛知・兵庫・石川県合同チーム
■陸上競技
・24日: 日本盲人マラソン協会(JBMA)が主催する、「EKIDEN in 長居兼第17回全国視覚障害者駅伝大会」が大阪市のヤンマースタジアムを発着点とする長居公園内周回コースで開催された。同駅伝は視覚障害者チームと一般チームが一緒に走るノーマライゼーションを目指した大会で、それぞれ4人一組で健脚を競うが、視覚障害ランナーは伴走者の声を頼りに走るため、「競技中のヘッドホン・イヤホン類の使用禁止」というルールが特に強調されて実施される。
また、ゲストランナーも多彩で、オリンピアンの弘山晴美さんや中山竹道さん、パラリンピック・メダリストの和田伸也選手(伴走・中田崇志さん)や柳川春己選手(伴走・安田享平さん)などがチームを組んで襷をつなぎ、大会を盛り上げた。
■ドイツ発
<2014年度パラスポーツ最高の瞬間トップ50>
国際パラリンピック委員会(IPC)がセレクトする「2014年度のパラスポーツ最高の瞬間トップ50」。11月12日に第50位が発表され、12月31日までの毎日、IPC公式サイトの特別ページで順次公開されている。このコーナーではその要約を翻訳して掲載中。今回は18日から26日までに発表分の44位から36位まで。
44位: ソチ冬季パラリンピック大会(3月/ロシア)の車いすカーリングで、カナダチームが決勝戦で地元ロシアを下し、大会3連覇を達成した。客席を埋め尽くすロシア応援団を前にプレッシャーからか、第1エンドでロシアに2点リードを許したが、第2エンド以降は得点を重ね、逆にロシアを無失点に抑え、逃げ切った。
43位: 脳性まひ者7人制サッカーのヨーロッパ選手権(7月/ポルトガル)でウクライナが連覇した。過去にパラリンピックで2つの金メダルを獲得している王者ウクライナだが、ロンドン・パラリンピックの決勝では0-1でロシアに敗れていた。今大会では準決勝でそのロシアを5-4で下すと、決勝ではオランダを3-0と圧倒する強さを見せた。
42位: ロンドン・パラリンピックのアーチェリーの金メダリスト、イランのZ.ネマチ選手が国際連合(6月/ニューヨーク)のスポーツに関するパネルでスピーチし、「障害があっても諦めない大切さ」について語った。ネマチ選手はパラリンピック、オリンピックを通し、イランの女子選手として史上初めて金メダルを獲得している。「私は、スポーツは障害をもつ人々に力を与えてくれる最高の手段だと信じています。・・・世界中の障害者に最も重要なメッセージを伝えたい。障害に絶対に負けないで。人生は一度きりだから」
41位: パラ・サイクリング・ロード世界選手権(8月/アメリカ)のH5クラス(ハンドサイクル)で、A.ザナルディ(イタリア)とE.ヴァンダイク(南アフリカ)、T.デブリース(オランダ)の3選手が激しい戦いを繰り広げた。3人のせめぎ合いは、トレーニングの質や用具開発などにも及び、競技レベル全体の引き上げに貢献している。
なお、ハンドサイクルは下肢障害者のために開発された手で漕ぐタイプの自転車で、トップレベルになると時速60キロにも達するスピードと駆け引きが魅力の迫力あるスポーツ。
40位: アメリカの夏季パラリンピアン2選手がソチ冬季パラリンピックに初出場し、ともに夏冬両パラリンピック出場を果たした上、メダルも獲得した。一人は陸上競技の車いすレースで数々のメダルを獲得しているT.マクファデン選手で、ソチ大会ではクロスカントリースキーの1kmスプリントのシットスキーの部で銀メダルを獲得。一方、ボート競技の銅メダリスト、O.マスターズ選手も同5kmで銅メダル、15kmで銀メダルを手にした。
39位: 2014ボート競技世界選手権(8月/オランダ)で、オーストラリアのG.ベリス選手とK.ロス選手のペアが、TAクラス(⇒註)男女混合ダブルスカルで優勝、2連覇を果たした。同ペアは力強いスタートで飛び出すとハイペースで漕ぎ続け、後続の追い上げを許さず、1000mを4分02秒55でゴールした。ロス選手はレース後、「これまでで最高に楽しいレースだった。私たち二人とも、すごく楽しめたことに驚いている。私たちは自信に満ちて、他の選手を気にすることなく、ただ自分たちのレースプラン通りに戦っただけ。世界選手権の決勝とは思えないほど、とてもリラックスしてレースに臨めた」と振り返った。
⇒障害者ボート競技のクラス分け: 選手の障害の程度によって、LTA(片下肢・体幹・腕が機能)、TA(体幹・腕が機能)、A(腕のみ機能)の3クラスに分けて実施される。
38位: セーリング競技の2014オープン2.4mR世界選手権(10月/カナダ)で、両腕がほとんどないという障害をもつB.エリックスタッド選手(ノルウェイ)が健常の選手や障害の軽い選手たちを相手に銀メダルを獲得した。「この銀メダルは、自分のキャリアの中で最も大きな成果だと思う。メダルや順位でなく、自分なりのレースの仕方を見つけられたことが嬉しい」と話した。
37位: イギリスの視覚障害スキーヤーのK.ガラハー選手とガイドのC.エバンス選手のペアはソチ冬季オリンピックと同パラリンピックの両大会に出場して金メダルを獲得した初めてのイギリス人スキーヤーとなった。
36位: 今シーズン前半は学業に専念していた17歳のB.ヴィオ選手(イタリア)は車いすフェンシングのヨーロッパ選手権(6月/フランス)で競技に復帰し、フルーレ個人とフルーレ団体の2つのタイトルを獲得した。11歳のときに髄膜炎に罹り、四肢を切断したヴィオ選手は、「私は学校もフェンシングも両方とも大好き。だから、両方ともがんばれるようにできるだけ時間を見つけたいと思います」とコメントした。
(星野恭子/文・写真)