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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(402) ブラインドサッカー“ファミリー”、互いに切磋琢磨し、さらなる高みへ

驚異的なテクニックと迫力あるプレーが醍醐味のブラインドサッカー。男子日本代表が昨夏の東京パラリンピックに初出場し8チーム中5位と健闘し、さらに人気や関心も高めていますが、東京パラ後、新体制となってリスタートしています。

新監督に就任したのは、中川英治氏です。同監督はサッカー指導歴も長く、2015年秋にはブラサカ男子日本代表のヘッドコーチに就任。東京パラにはガイド(ゴール裏で選手を音声でサポートする)も務めました。

「東京パラは楽しめたが、それを上回る悔しさがあった」ことも、監督を受けた理由のひとつだったと言います。東京パラは開催国枠での出場だったので、次のパリ大会は予選会を勝ち上がって出場権を勝ち取ることで、「日本のブラサカの歴史をアップデートすることが目標」と話します。

そのために、「攻撃こそ最大の守備」として「アタッキング・フットボール」をコンセプトに掲げ、東京パラ代表とは一部、入れ替わった強化指定選手たちでチーム内の競争も高めながら、強化を進めています。

パリ大会出場に近づくためには、今年11月に開催予定のアジア選手権で上位に入ったり、来夏に開催予定の世界選手権に出場することが重要です。

すでに、チームとして平日練習やオンライントレーニング、週末の合宿などを重ねています。新チームの「初陣」が5月13日から14日にドイツ・ベルリンで行われる国際親善試合「Blindenfreunde Cup」に決まり、先の連休中にも遠征に向けた強化合宿が実施されました。

5月中旬のドイツ遠征に向け、合宿中のブラインドサッカー男子代表チーム。ゲーム形式の練習で激しいボール争いを見せる選手たち (撮影:2022年5月5日)

合宿では対戦相手となる、イタリア、ドイツ、ポーランドを想定した戦術の確認などが行われ、中川監督は、「選手のコンディションもよく、手ごたえは大きい。(ドイツでは)体格の大きな海外勢相手に、新たに取り組んでいるプレーモデルを試したい」と話しました。

エースの川村怜キャプテンは、「若い選手も入り、お互いに刺激をもらいながら、いい雰囲気でトレーニングができている」と手ごたえを口にし、約3年ぶりとなる海外遠征についても、「新たな取り組みがどれだけ通用するか、楽しみ。守備もしっかりしながら、得点もしたい」と意気込みました。

ディフェンスを振り切り、シュートを放つ川村怜キャプテン(右) (撮影:2022年5月5日)

また、正ゴールキーパーとして長く活躍し、今季からゴールキーパーコーチも兼任することになった佐藤大介選手は、「選手は東京パラで一区切りと思っていたが、(兼任は)僕にしかできない役割かなと、チャレンジさせてもらった」と話し、練習メニューの作成や戦術面にも関わるようになり、「視野が広がり、充実感がある。海外遠征は約3年ぶりなので、チームで助け合い、次につながる機会にしたい」と力を込めました。

■初代女王を目指す、女子代表

パラリンピック種目にはなっていませんが、ブラインドサッカーには「女子」のカテゴリーもあり、世界各地で普及・強化が進んでいます。

なかでも日本女子は2017年に初めて行われた女子だけの国際大会で優勝を飾り、現在まで世界トップレベルの強豪と知られており、来夏に開催予定となっている、「第1回女子世界選手権」で優勝し、「初代女王」となるべく、さらなる強化が進められています。

そんななか、今季より山本夏幹新監督のもと、新チームが始動しています。山本監督はブラインドサッカーの指導歴に加え、視覚障害支援学校の体育教員としての指導歴が豊富です。

女子代表は世界強豪国といっても、普及の途上であり、選手数も少なく、選手間の実力差も大きいのが現状です。実は、女子代表には、菊島宙選手というエースがいます。得点力がきわめて高いストライカーで、男女混成のクラブチームでも活躍し、日本リーグなどでも得点王になるなど活躍しています。

ブラインドサッカー女子代表の強化合宿で男子コーチと対峙するエース、菊島宙選手(左) (撮影:2022年4月10日)

とはいえ、トップでありつづけるためには、チームとしての底上げが重要であり、山本監督は、「個々の能力を高め、ゴールキーパーを含めた全員で攻撃的に仕掛けていけるチーム」を目標に、「まずはこの1年、『ゴールを奪える選手』の育成と強化に重点的に取り組みたい」と強化方針を掲げています。

チームキャプテンには、竹内真子選手が選ばれ、「皆で攻撃し、守備をし、皆が1得点以上を取れるようなチームをつくりたい。個人的にはまだまだ気持ちの面や技術をあげていきたい」と目標を語っています。自身の強みには、「攻守の切り替えの速さ」を挙げました。

ブラインドサッカー女子代表の新キャプテン、竹内真子選手 (撮影:2022年4月10日)

6月11日には、男子ユーストレセンチームとの強化試合が組まれています。こちらは無観客開催ですが、ライブ配信が行われる予定です。女子の活躍にも、ぜひご注目ください。

■「見えにくさ」とともに戦う、「ロービジョンフットサル」

視覚障害者のサッカーにはもう一つ、「見えにくさ」を特徴にもつ弱視(ロービジョン)の選手を対象にした「ロービジョンフットサル」があります。ブラサカとは異なりアイマスクはせず、自身のもつ視力や視野で戦い、ボールも音のしない一般的なボールを使います。「見えにくさ」は人それぞれなので、選手間で互いの特徴を理解し、活かし補い合ってプレーします。ピッチやゴールマウスのサイズも含め、主なルールはフットサルに準じ、5人制で行います。

日本では日本ブラインドサッカー協会のもと、4つのクラブチームと日本代表が活動しており、今季から金川武司監督が日本代表の指揮をとっています。フットサル選手としての経歴に加え、トップアスリートだけでなく育成レベルの指導者としての豊富な経験も買われ、選任されました。

ロービジョンフットサルの日本代表はまだ、世界との力の差があり、普及・育成を進めながらの代表強化が課題となっています。

金川監督は、「選手それぞれの特徴を最大限に活かし、フットサル最大の魅力である攻守の切り替えの速いチームづくり」を目標に掲げ、来夏の世界選手権出場を目指しています。

このように、ブラインドサッカーは今、3つのカテゴリーで活動しています。実は、来夏に予定される世界選手権は史上初めて、ブラサカ男子・女子とロービジョンフットサルの3カテゴリーが同時に開催されることになっています。

日本代表として互いの連携を強め、切磋琢磨しながら、より高い目標の達成を目指しています。ぜひ、ご注目ください。

【大会情報】

<ブラインドサッカー男子日本代表>
・5月13日~14日
国際親善試合 「Blindenfreunde Cup」 (ドイツ・ベルリン)
日本(世界ランク4位)、イタリア(同21位)、ドイツ(同30位)、ポーランド(同35位)の4カ国出場
詳細:https://ibsasport.org/event/blindenfreunde-cup/

<ブラインドサッカー女子日本代表>
・6月11日(土)
トレーニングマッチ vs 男子ユーストレセン (東京・小平市)
15時30分キックオフ、ライブ配信予定
詳細:https://www.b-soccer.jp/news/18512-20220506

<ロービジョンフットサル>
・4月17日(日) 終了
第16回 ロービジョンフットサル日本選手権 (さいたま・本庄市)
→CLUB VALER TOKYOが大会2連覇
詳細:https://lvfchampionship.b-soccer.jp/

(文・写真:星野恭子)