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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(400) 腕自慢のパワーリフターたちが、「チャレンジカップ」で躍動

上半身の力だけでバーベルを持ち上げるパラ・パワーリフティングの公式戦、「第5回チャレンジカップ京都」が4 月17 日、サン・アビリティーズ城陽(京都府城陽市)で開催されました。35選手がそれぞれの目標に挑戦し、エリート(旧一般の部)で 2 つの日本新記録が誕生しました。

ひとつは男子59㎏級で、同クラスの東京パラリンピック代表、光瀬智洋選手(エグゼクティブプロテクション)が第2試技で147㎏を挙げて自らの日本記録を1㎏更新すると、つづく第3試技でも150kgをクリアしました。特別試技で挑んだ152㎏には失敗しましたが、「この競技への愛情が、競技力が伸びた鍵」と笑顔で話しました。

自らの日本記録を塗り替え、ガッツポーズで喜ぶ、光瀬智洋選手 (撮影:星野恭子)

もうひとつは女子67㎏級で、2選手が見応えある競り合いを演じました。まず、日本記録保持者だった森﨑可林選手が第2試技で69kgを挙げ、1kgの記録更新を達成。すると、龍川崇子選手(EY Japan)が第2試技で70㎏、第3試技でも72㎏を成功させ、日本新で優勝しました。本来は61㎏級の龍川選手は「今回は減量に失敗。次は本来の階級でしっかり記録を出したい」と話しました。

一方、2位となった森崎選手は1週間前にフォームを見直したと明かし、「試合運びは悪くなかったが、銀メダルは悔しい。(改良したフォームを)定着させ、巻き返したいです」と前を向いていました。

新たなスタートを切ったのは、ベテランのパラリンピアン、大堂秀樹選手(SMBC日興証券)です。男子88㎏級の日本記録保持者(198㎏)ですが、今大会から80㎏級に転向し、166㎏で優勝しました。もともと食が細く、「増量が大変だった。今後も80㎏級で行く予定で、200㎏越えを目指したい」と、さらなる進化を誓っていました。

今大会はまた、参加標準記録がないため、初心者や競技歴の浅い選手も参加しやすい大会となっています。ベンチプレスは別競技の選手がトレーニングに取り入れているケースも多く、初出場でいきなり活躍する選手も少なくありません。

女子41㎏級の中村嘉代選手はその一人。車いす陸上の短距離ランナーですが、ベンチプレスはトレーニングの一環で取り組んでいたといい、新しいことにチャレンジしたいと初出場したところ、52㎏、55㎏と続けて成功し、第3試技では日本タイ記録の58㎏を挙げて優勝。特別試技で挑んだ日本新記録となる60㎏には失敗しましたが、「今後もメインは陸上だが、なんでも1番は嬉しい。次は日本新をめざしたい」。ベンチプレスで筋持久力がつき、100m後半の伸びにも生きていると言い、「二刀流」での活躍も楽しみです。

初出場で女子41㎏級の日本タイ記録を制した中村嘉代選手は陸上競技との「二刀流」を宣言 (撮影:星野恭子)

今大会はもう一つ、特徴がありました。パラスポーツもパラリンピック後にルールが変更されることも多く、パラ・パワーリフティングも3月にWPPO(世界パラ・パワーリフティング連盟)から新ルールが発表されたばかり。今大会は新ルールのもとで行われた国内初の大会にもなりました。

変更点は多岐にわたりますが、主な変更点の一つは、当時計量から前日計量となったこと。これまでは脱水症状のまま試合に臨む選手も少なくなかったと言い、選手の体調や安全を考慮したルール変更と言えます。

日本パラ・パワーリフティング連盟の吉田進強化委員長によれば、今後、前日計量に慣れ、いい減量ができて試合当日に少し増量できるようになると、「日本記録や世界記録も変わっていくのでは」と話し、試技の成否判定方法なども含め、「今回のルール変更は安全や分かりやすさに配慮した内容。選手にとってはいい変更」と話しました。

なお、パラ・パワーリフティング日本代表(パワークエストジャパン)は今後、6月に韓国で開催予定のアジア・オセアニア地域選手権大会に臨みます。2024年パリパラリンピックのパスウエイ大会(*)の一つでもある重要な大会です。こちらもぜひ応援ください。

(*:パリパラリンピック出場の必須条件の一つで、2021 年~24 年までのIPC(国際パラリンピック委員会)が指定する国際大会にすべて出場しなければならない)

【今号で連載400号を迎えました。ご愛読に感謝いたします】

(文:星野恭子)