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東京五輪2020の計画見直し大賛成!是非ともゴルフ会場の変更や新国立競技場の建設見直しも!

 IOC(国際オリンピック委員会)のジョン・コーツ副会長と東京オリパラ組織委員会の森喜朗会長が、11月19日に会談の結果、舛添都知事が既に発表していた2020年東京オリンピック・パラリンピックの会場計画の見直し案に賛成する方針を打ち出した。

 

 つまり、新しい競技場を建設してコンパクトな会場とする計画から、できるだけ既存の施設を利用し、遠隔地にも会場を広げることに、方針を大転換することとなったのだ。

 

 もともとは、都が建設予定の10会場の資材費や人件費が大幅に高騰。当初予算をオーバーすることが判明し、そこで、たとえばバスケットボールとバドミントンの会場に予定していた夢の島ユースプラザの建設は中止。

 

 都は、さいたまスーパーアリーナや武蔵野の森総合スポーツ施設への会場変更を希望。それをさらに、バスケットボールなどは、サッカーのグループ・リーグと同様、地方(大阪)などでも開催する方針を打ち出したのだ。

 

 これは明らかに、すべての会場が選手村から半径8キロ以内という五輪招致時のIOCとの約束に違反する。が、資金不足から起きた変更を、IOCが将来の開催都市の負担減を見据えて、承認する結果となったのだ。

 

 それはそれで、悪いことではないと思えるのだが、他にもっと名案はないものか?

 

 たとえば06年のW杯ドイツ大会では、ほとんどの都市が税金を使わずにサッカー会場を整えた。

 

 小生が現地取材したハンブルクでは、老朽化した市営サッカー場や周辺の市営駐車場などの土地を、ブンデスリーガの地元チームHSVに(ユーロ導入前の)たった1マルク(!)で払い下げ、その改修工事をすべてクラブに任せた。

 

 HSVは新しいサッカー場に豪華マンションの一室のようなVIPルームの建設を計画。キッチンが備わり、会議室にも娯楽室にも自由に使え、大きな窓の外側が競技場の観客席になっている広い部屋を約1億円(20年契約)で100室売り出し、完売した。

 

 その他、物品販売、レストラン収入、駐車場収入等を見込んだクラブは、その計画を担保にローンを組んで銀行からカネを借り、スタジアムを改築したのだ。

 

 この計画をモデルにするなら、東京五輪のバスケットボール会場も(あるいは大阪の会場も)プロ・バスケットボール・チームの本拠地として建設することが考えられる。

 

 もっとも、残念ながら日本のバスケットボールはプロのbjリーグとセミプロ企業リーグのJBLに分裂したままだが、五輪を契機に両者を合併させ、新たなバスケットボール場の建設と運営を任せて、日本のバスケットボール界の発展につながる青写真を描かせることも可能なはずだ。

 

 また湾岸地域のカヌーやボートの会場なども、五輪後のスポーツ・アミューズメント・パークとしての運営を見据えた計画で、資金調達ができないものか?

 

 かつてピーター・ユベロスという天才経営者が、84年ロス五輪の組織委員長としてオリンピックを黒字にしたように、そういったことを考えるのも、五輪組織委員会の仕事のはずだ。

 

 現在、世界のスポーツ界ではハードウェア(スタジアム)の所有者とソフトウェア(スポーツ)の運営者は一致しているのが常識。スポーツの運営者がハードウェアの所有者から会場を借りるシステムではスポーツ・ビジネスのマーケットが拡大せず、素晴らしいスタジアムも建設できなければ、スポーツ・チームやリーグの発展も不可能だ。

 

 20年の東京五輪では、日本で人気の野球とソフトボールの正式競技復活の可能性も大いにある。それは神宮球場を美しい新球場に建て替える絶好のチャンスでもある。現在本拠地に使っているスワローズや大学野球も、建設と運営に積極的に関わり、ハードウェアとソフトウェアの一体化した運営で野球界全体の発展につながる利益を目指すべきだろう。

 

 それこそ、アベノミクスの第三の矢の成長戦略になりうるスポーツ産業のあり方に違いない。が、アベノミクスはスポーツ産業を完全に無視し、産業化にまったく知恵のないマスメディアに経営をまかせて平気でいる。こんなことではアベノミクスなど成功するはずがないだろう。

 

 日本のスポーツ界は世界のスポーツ先進国に較べて、様々な面でまだまだ時代遅れの状態にある。その最たる例のひとつが、新国立競技場の建設だろう。

 

 日照と風通しの悪さは明らかで、まともに芝生が育つとは思えず、戦艦大和がスッポリ収まるほどの巨大さは、コンサート会場としても明らかに不適当。そんなスタジアムの建設を、誰が望んだのか?

 

 その巨大さとデザインの奇抜さは確かに五輪招致に効果的だった。が、日本は最早、派手なメッセージを世界に打ち出すような新興国ではあるまい。

 

 様々な計画の見直しは大いに結構。埼玉県の山奥にあるプライベート・コースの霞ヶ関カンツリー・クラブでオリンピックのゴルフを行う(そのために税金をつぎ込む!)というのも笑止千万と言うほかない。ほかにもいろいろと見直したほうがいい計画はありそうだが、今からでも遅くない!新国立競技場の建設を中止し、現国立競技場の改築に改めれば、財政的にもスポーツ的にも文化的にも、素晴らしい成熟した大人の国のメッセージを、世界に向けて発信できるはずだ。

 

(玉木正之)

写真:Wikimedia Commonsより